日本のマーケットでも、電気自動車(EV)の存在感が少しずつ高まってきた。充電設備も増えつつあり、一充電当たりの航続距離も拡大し、選択肢も広がっている。そこで今回は、欧米を代表する最新のファミリーEVをピックアップ。その実用性を検証した。
日本の自動車メーカーが足踏みをしている間に、海外メーカーは電気自動車(EV)のニューモデルを次々投入し、日本市場を攻略しようとしている。EVが市場に出回り始めた時代は、一充電当たりの航続距離が300km以下のファミリーカーか、500km以上走行可能な大型のラグジュアリーカーに二分されていた。
しかしバッテリー技術の進化やユーザーの増加とともに、自動車メーカーも様々な形のEVを商品化するようになった。今回は、ファミリーカーとして人気の最新EV2台を紹介する。
EV専門メーカーとして、テスラが創業したのは2009年。第1号はロータスベースの2シーターオープンスポーツだった。その後、5ドアセダンや大型SUVを生産し、今回紹介する「モデルY」は5番目の製品となる。テスラは「クルマ造りで」というより「販売したEVが自動車業界の主役になる」ことで、二酸化炭素排出を減らすことができると考えている。だからクルマ造りに対する考え方も既存のメーカーとは大きく異なる。
例えば、マイナーチェンジの大半が、すでに販売したクルマに対してもPCから実施できるようにしている。また、以前購入したクルマも常にアップデートできるようになっており、ディーラーの収益性などは考えられていない。クルマそのものも趣味性などは考えず、実用性だけを追求している。要はPCやスマホに近い感覚で製品化を進めているのだ。
それは装備を見てもよくわかる。最新のテスラ車はインパネ中央の画面が大きくなっており、例えば「タイプS」は17インチの大きな画面で、ほとんどすべての操作を行なう。前進も後退も画面をタッチして操作する。「モデルY」も近い将来、モニターが大画面化するだろう。
一方、フォルクスワーゲン(以下、VW)はドイツの老舗ブランド。国民車を造ることを命題に1936年に創業し「ビートル」「ゴルフ」といったベストセラーカーを企画、開発してきた。VWがEVを製造するに当たって考えたのは、コミューターでもなく高級SUVでもなく、やはり大衆車だった。つまり、このクルマ1台で、日常の足からロングツーリングまでをこなせるファミリーのためのEVが求められるようになると。これがVWにおけるEV開発の大命題なのだ。思想も性格も異なるEV、あなたならどっちを選ぶ?
VWが本気で造った、人にもやさしい電気自動車
フォルクスワーゲン『ID.4 Pro』
Specification
■全長×全幅×全高:4585×1850×1640mm
■ホイールベース:2770mm
■車両重量:2140kg
■総電力量:77.0kWh
■モーター形式:EBJ
■最高出力:204PS/4621〜8000rpm
■最大トルク:310Nm/0〜4621rpm
■変速機:1段固定式
■一充電走行可能距離:618km
■車両本体価格:648万8000円
EVになっても「ゴルフ」ファミリーに似たフロントデザインを受け継いでいる。ライトユニットは全グレードでLEDを採用。撮影車はマトリックスLEDを装備したIQ Lightを標準装備した。
ボディー側面は「ID」ファミリーに共通するクリーンで力強いデザインをSUVに当てはめている。リアに向かってシャープなラインを描くボディーの形状に加え、大型ルーフスポイラーも効果的。
リアウインドウは大型ルーフスポイラー付き。高い位置にデザインされたテールライトクラスター、リアエンド下部に設けられたディフューザーなどの効果でcd値は0.28を記録。
室内もトランクも広々としたファミリーEV
テスラ『モデルY RWD』
Specification
■全長×全幅×全高:4750×1920×1623mm
■ホイールベース:2891mm
■車両重量:1980kg
■総電力量:75.0kWh
■モーター形式:AC永久磁石同期モーター
■最高出力:前220PS/後300PS
■最大トルク:前240Nm/後300Nm
■変速機:単速
■一充電走行可能距離:605km
■車両本体価格:619万円
フロントエンドからフロントウインドウ、ルーフ、さらにテールにかけてのスムーズな曲線と若干、反りかえったテールエンドのデザインはすべて空力低減のため。高剛性の構造は五つ星評価。
全長はID-4より165mm、ホイールベースは約120mm長く、全高は約20mm低く、全幅は70mm広いというテスラのプロポーション。ボディーは大きいのだが、重量はテスラのほうが160kgも軽い。
テスラのリアウインドウも天地の高さが薄いのでルームミラーを通しての後方視界は限られるが、車外カメラによる360度ビューがあるので、ルームミラーの不便さは相殺されているのだろう。