「保護猫施設」と聞くと、寄付やボランティアで成り立っているイメージが根強いかもしれない。しかし近年は少し変化があり、 “自走式” と呼ばれる経営型の保護施設が増えはじめている。
今回は、いま注目されている自走式保護猫施設について簡単に紹介する。モデルケースとして、1杯のコーヒーから猫助けができる「LOVE & Co.」主催者の方にお話を伺った。
自走式保護猫施設とは?
自走式保護猫施設とは、寄付やボランティアのみに頼るのではなく、自分たちで活動資金を生み出しながら猫の保護や譲渡、TNRなどを行う団体のことだ。
すっかりお馴染みになった保護猫カフェなどはその最たるものだろう。保護猫カフェでは保護猫自身に接客をしてもらったり、広告塔になってもらうことで活動資金を賄っている。
他にも保護猫をモデルにオリジナルグッズを販売して資金にあてる団体や、猫フェスを主催する団体など、方法は様々だ。自走式と呼ばれる団体は、保護猫たちを広報役にしたビジネスをすることで、与えられるだけではない持続可能な資金調達の手法をとっている。
チャリティ感がないチャリティグッズ
「保護猫支援グッズ」と聞いて、まず思い浮かべるのはどのようなものだろうか。例えば猫の顔や肉球の形を模したハンドメイド小物や、猫の写真がプリントされたエコバッグ、量産型のTシャツなどが頭に浮かぶ人が多いのではないだろうか。
動物福祉のみならず、チャリティグッズに従来のアパレルブランドに求めるようなデザイン性を求める人は多くない。あくまで「活動の支援」という目的が先行する買い物なので、アイテム自体はおしゃれじゃなくても買う人は買うし、活動に興味がなければ買いはしないのだ。
ところが最近はそうでもない。クオリティに手を抜かず、チャリティグッズという名に甘んじることなくデザイン性やオリジナリティにこだわった「プロダクト」ともいえるものが登場しはじめている。そういったプロダクトは「支援したい」だけでなく、「かわいいから」「使い勝手がいいから」という理由で購入する人もいる。SNSで見かける機会が多いが、なかには雑貨ショップで販売されているメーカーの商品や、アーティストブランドの商品と遜色ないようなものもあるので驚かされる。
なかでも、保護猫施設ながらおしゃれなデザイン・プロダクトが多いと人気なのが、ウェブショップを展開する「LOVE & Co.(ラブアンドコー)」だ。
保護猫がはたらく会社「LOVE & Co.(ラブアンドコー)」にお話を伺ってみた
LOVE & Co.(ラブアンドコー)は、保護猫がはたらく会社だ。といっても、保護猫たちの主な仕事といえば「愛らしいこと」につきる。
出典:LOVE & Co.
LOVE & Co. では、保護猫をパッケージモデルに起用したコーヒー豆やドリップコーヒーの他、お菓子や雑貨などのオリジナル商品を多数販売している。
出典:LOVE & Co.
プロダクトの売り上げから得た収益は、猫の保護や病院代、食費や光熱費などの活動資金にあてられる。
モデルを務める保護猫たちは自らが広告塔になり、そのかわいらしい姿をウェブサイトやSNSを通じて発信している。
出典:LOVE & Co.
そうして彼ら自身も働きながら、生涯の家族となる里親さんとのご縁を待っているのだ。
【LOVE & Co. のヒストリー】
猫の保護活動のはじまりは2006年。一頭の捨て猫と出会い、個人で野良猫の保護をはじめたことがきっかけだったという。
出典:LOVE & Co.
2016年から一般社団法人LOVE & Co. として活動をはじめ、東京都世田谷、神奈川県川崎市、横浜市へとオフィスを移転。その後、代表・今村さんの長野県への移住に伴い、2024年3月より新たに設立した合同会社による運営へ移行する。
【LOVE & Co. 代表・今村さんにインタビュー】
当時一般的だった寄付やボランティアで成り立つ保護猫活動ではなく、「寄付に頼らない保護活動」を掲げられた背景について教えてください。
猫の保護を始めたばかりの頃は、会社員として働きながら活動していましたが、だんだんと会社に行って仕事をしている時間も猫に使いたいという思いが強くなってしまいまして…。本当はダメなのですが、勤務時間中もさっさと仕事を終わらせて、こっそり家族募集の記事を書いて、ネットの掲示板に掲載したりしていました。譲渡が決まり、自宅の保護部屋が空いたらまた新しい子を保護して、と続けていくうちに、自分の時間を全て猫に使いたいという気持ちがどんどん大きくなっていきました。とはいえ、保護活動はお金がないとできないし、自身も食べていかなければいけないので、なんとか仕事と猫の保護を両立できないかと考えたのがきっかけです。寄付云々というよりも、自分自身の生き方を模索していた感じです。
LOVE & Co. さんのアイテムは良い意味で “チャリティ然” とした雰囲気がないのが魅力だと思いますが、プロダクトの開発やデザインに対するこだわりポイントなどがあれば教えてください。
猫だけではありませんが、動物愛護の問題はかわいそうだったり、胸が痛くなることも多いです。こちらで保護してきた猫たちもみんなそれなりに辛い過去があるのですが、みんなそれぞれ個性があって面白くて、笑わせてくれます。
猫の家族を募集する際も、「かわいそうだからもらってください」というよりも、猫の魅力をお伝えして、「一緒に暮らしたい、家族に迎えたい」と思ってもらいたいので、販売する商品もそれと共通してるのかもしれません。
出典:LOVE & Co.
病気になって医療費がかさんでしまった時は支援グッズを販売させてもらったりしますが、たくさんの猫を助けられているわけでもないし、自分たちがたいそうなことをやっているわけでもないので…「チャリティだから」というよりも、純粋に欲しいと思ってもらえるものを送り出したいなと思っています。
今後のご活動予定や挑戦されたいことなどについてお聞かせください。
LOVE & Co. はこれまで一般社団法人として活動してきましたが、私が横浜から長野の松本に移住したことを転機に、2024年の3月から夫と新しく設立した合同会社(けろウェイ合同会社)の一部門として継続していくことになりました。ちなみに「けろ」はLOVE & Co. のロゴにもなっている、保護活動を始めるきっかけにもなった私の愛猫の名前です。
これまで一般社団法人LOVE & Co. で一緒に頑張ってきたスタッフとは物理的にも遠くなってしまい、それぞれが独立する結果となりましたが、離れていてもみんな猫とものづくりが好きな仲間たち。松本の物件には猫がいるオフィスと隣接してショップスペースがあるので、これまであまりできなかった展示会を開催したり、神奈川でも定期的にポップアップストアを一緒に開催していけたらと考えています。
組織体制は変わりますが、継続して猫の保護は続けていきたいので、会社が潰れないように、そして楽しく仕事をしていきたいです。