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NTT、CEA-Saclay、物質・材料研究機構、韓国科学技術院の共同研究グループが電子の飛行量子ビット動作を実証

2024.01.22

日本電信電話(以下、NTT)は、CEA-Saclay、物質・材料研究機構、韓国科学技術院と共同で、グラフェン中を伝播する電子の軌道を量子的に操作することにより、世界で初めて電子の飛行量子ビット動作を実証したことを発表した。

電子の飛行量子ビットでは、電子間の相互作用を利用することによる量子もつれ対のオンデマンド生成・配送が可能となると期待されており、将来的には空間的に離れた量子コンピュータの接続や量子通信への応用などをめざす。

↑図1:電子の飛行量子ビットのイメージ図。グラフェンp-n接合の両側に形成された2本の1次元チャンネル(青色および赤色矢印)を伝播する軌道の量子的重ね合わせ状態を制御することで量子ビットとして動作させる。単一電子を左上から入射し、p-n接合の入口と出口に形成されたビームスプリッタで、電子の軌道を分岐・干渉させる。

グラフェン中に形成したマッハ・ツェンダー干渉計とレビトンと呼ばれる単一電子源を組み合わせることにより、電子の飛行量子ビット動作を実証

■背景

量子力学の原理を利用した量子コンピュータは、超伝導回路を用い研究が進展しているが、それとは異なる方式として光子の飛行量子ビットを用いた研究も行なわれている。

飛行量子ビットとは、空間的に配置された素子に量子を通過させることで演算が行なわれる量子ビットで、飛行量子ビットを用いることにより、空間的に離れた量子コンピュータの接続が可能となる。また、原理的に大規模化可能な量子コンピュータの構築も期待されている。

光子ではなく、固体素子中を伝播する電子の飛行量子ビット実現に向けた研究も行なわれており、電子間の相互作用を利用することによる量子もつれ対のオンデマンド生成が可能となることが理論的に指摘されている。

電子の飛行量子ビット研究は20年ほど前から行われており、高移動度ガリウム砒素半導体中に電子のマッハ・ツェンダー干渉計を形成し、そこに単一電子を入射することで、その軌道を量子的に操作することをめざした方式が最も広く研究されている。

この方式で要求される要素技術は、マッハ・ツェンダー干渉計を形成するための電子のビームスプリッタと散逸の少ない1次元伝導チャンネル、および単一電子源。

これらの要素技術は確立されているものの、従来型干渉計では複雑な構造と低い安定性によって電圧パルスにより発生する熱・電圧に耐えられない課題があった。

また、単一電子源においては、入射する電子のエネルギーが毎回微妙に異なるため、干渉結果が変わってしまう課題もあった。そのため、これまでは電子の飛行量子ビットの実現には至っていなかった。

■同研究の成果

グラフェン中に形成したマッハ・ツェンダー干渉計とレビトンと呼ばれる単一電子源を組み合わせることにより、電子の飛行量子ビット動作を実証した。

■技術のポイント

(1)グラフェンを利用した電子のマッハ・ツェンダー干渉計

グラフェンと六方晶窒化ホウ素、金属電極を積層し、微細加工することでグラフェンp-n接合および電気測定用電極を作製した。

p-n接合の入口と出口に作製した微小なゲート電極でビームスプリッタの透過/反射率を制御することにより、マッハ・ツェンダー干渉計を形成した(図2)。

(2)単一電子源(レビトン)

ローレンツ波形の電圧パルスを電極に印可することにより、余分な電子-正孔励起を伴うことなく単一電子だけをフェルミエネルギー上に生成可能であり、このようにして生成された単一電子をレビトンと呼ぶ。

ローレンツ波形電圧パルスは、複数の高調波を足し合わせることで生成した。これを実現するために、グラフェン電極上での高調波の強度、位相を精密に制御した。

■実験の概要

共同研究グループは、グラフェンp-n接合を用いた電子のマッハ・ツェンダー干渉計(技術のポイント1)とレビトンと呼ばれる単一電子源(技術のポイント2)を組み合わせることにより、従来の実験の問題を克服した。

p-n接合を有するグラフェンに磁場を印加すると、電流チャンネルはp-n接合を取り囲むように形成される。この時、p-n接合の入口と出口が電子のビームスプリッタとして動作し、電子のマッハ・ツェンダー干渉計となる(図2)。

このグラフェンを用いたマッハ・ツェンダー干渉計では、これまでのガリウム砒素半導体を用いたものと比べて、量子干渉性(※8)が失われてしまう温度および電圧が一桁向上することを確認している。

また、レビトンはグラフェンの電極にローレンツ波形の電圧パルスを印加することでフェルミエネルギー上に生成され、高いエネルギーの電子を励起する量子ドットなどを使った従来方法と比べて大幅にエネルギーの揺らぎを抑えることが可能である。

↑図2:グラフェンp-n接合を用いた電子のマッハ・ツェンダー干渉計。n型領域(水色)を伝播する軌道を|0>、p型領域(ピンク色)を伝播する軌道を|1>とし、それらの量子的重ね合わせを制御することで量子ビットとして動作させる。|0>と|1>の存在確率(ブロッホ球のθ)および位相差(ブロッホ球のφ)を、それぞれ入口側のビームスプリッタ透過率、磁場の大きさで制御する。

電子の飛行量子ビット動作の実証は、レビトンを干渉計に入射し、グラフェンのn側を伝播する状態|0>とp側を伝播する状態|1>の量子的重ね合わせを制御することで得られた。

入り口側のビームスプリッタの透過率を変化させることで|0>、|1>の存在確率(ブロッホ球のθ)を制御し(図3)、干渉計を貫く磁束量子の本数を変化させることで|0>、|1>の位相差(ブロッホ球のφ)を制御することで(図4)、任意の量子重ね合わせ状態を実現可能であることを示した。

電子の飛行量子ビットは量子情報を固体素子中で伝送できるという点で既存の量子ビットとは本質的に異なる機能を有しており、特に量子もつれ対のオンデマンド生成等への発展が期待される。

↑図3:干渉計の入口側のビームスプリッタを調整してθを変化させたときのレビトンシグナルの変化。θ=90°に近づくにつれ、出口側のビームスプリッタでレビトンがランダムに散乱されることによる電流ノイズが増大する。実験結果(赤丸)は理論曲線(青線)とよく一致している。

↑図4:ビームスプリッタを固定し、磁場を精密に制御することでφを変化させたときのレビトンシグナルの変化。φ=0°に近づくにつれ、電流ノイズが増大する。実験結果(青丸)は理論曲線(赤線)とよく一致している。

■今後の展開

電子の飛行量子ビット動作を初めて実証した今回の成果は、固体素子中の量子情報伝送に関してブレークスルーとなるものである。

今後研究を発展させ、理論的に提案されている2量子ビット操作による量子もつれ対のオンデマンド生成をめざすとともにレビトンの短パルス化等、多量子ビット化に向けた技術を開発していく。

これにより、空間的に離れた量子コンピュータの接続や量子通信への応用などをめざす。

関連情報
https://group.ntt/jp/

構成/立原尚子

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