事故から何を見出せるのか?
上述の事故から、我々は何を見出せるのだろうか?
まず第一に、報道によると搭乗者はどうやら無免許運転だったという点。
この電動キックボードは特定小型原付区分の車両ではなく、現在では「一般原付」と呼ばれている区分の車両だった。
これはもちろん、運転免許証が必要だ。にもかかわらず、免許を取得したことがない人が気軽に搭乗してしまう……ということが全国各地で起こっている。
「運転免許証を持っていない」ということは、「教習所や運転免許センターで講習を受けたことがない」ということとほぼ同義である。
だからこそ、道交法に関しての知識がなく、「電動キックボードは無免許でも公道を走れる」という誤解を招いてしまいやすいのではないか。無論、このあたりは筆者の邪推ではあるが。
第二に、電動キックボードが高速バスと衝突してしまった点。
観光が重要な産業で、なおかつ山間部に位置する市区町村から見れば高速バスは大勢の旅客を運んでくれるインフラストラクチャーだ。それを電動キックボードが阻害してしまったとなると、軽井沢町だけでなく現地の観光業組合も静観しているわけにはいかないはずだ。
実際に上の声明には、軽井沢町の他にも軽井沢町商工会、軽井沢観光協会、軽井沢ホテル旅館組合が名を連ねている。
第三に、電動キックボードには「得意な道路」と「不得意な道路」が存在するという点。
これについては、軽井沢町の声明に書かれている。
町内の道路事情は、道路環境や路面の凍結など、不安となる要素が大きい状況です。歩道のマウントアップ構造(車道面と歩道面に段差のある構造)や、グレーチングなどの構造物での段差もあり、電動キックボードには不向きといえます。また車道には配送業者等、車両の路上駐車が進行を妨げるケースもあり、歩道も観光シーズンは人通りも多く、歩行者にも危険が及びます。加えて町内には坂道も多く、制限速度の超過による事故も懸念されます。
(電動キックボードの町内での使用に関するお願い-軽井沢町)
バイクよりも遥かに車輪の小さい電動キックボードでは、道路のところどころにある段差を乗り越えるのは難しい……ということを声明の中で解説している。そして、このような道路事情を抱える地域は軽井沢町だけではないはずだ。
秩父では西武とLUUPが実証実験
軽井沢町での事故のちょうど1ヶ月前、埼玉県秩父市ではこのような実証実験が始まった。
西武ホールディングスとLUUPによる、秩父市内の観光地での電動キックボードシェアサービス活用である。
西武秩父駅前温泉「祭の湯」に6台の電動キックボードを置いて、60分毎800円で貸し出す。実施期間は2023年11月1日から2024年3月31日まで。営業時間は24時間だが、それにしてもオペレーション台数が6台だけというのは少ないのではないか?
しかし、これはあくまでも実証実験である。台数を増やすのは、安全性が認められてからでも遅くないという判断だろう。
偶然にも実証実験期間中に軽井沢町で発生した事故を鑑みれば、急な台数増加は賢明な判断とは言えない。
電動キックボードは、観光地にどのような影響を与えるのか。それについては、現時点ではまだまだ未知数な部分が多い。実証実験を重ねることで、そうしたことも徐々に明らかになるだろう。
【参考】
電動キックボードの町内での使用に関するお願い-軽井沢町
https://www.town.karuizawa.lg.jp/www/contents/1702951908504/index.html
秩父市内でLuupの電動キックボードを初導入-西武ホールディングス
https://www.seiburailway.jp/file.jsp?id=16015
取材・文/澤田真一