歯生え薬
永久歯が欠損しても新しい歯が生えてくれたら──。そんな願いをかなえるかもしれない、歯生え薬の研究開発が進んでいる。
「歯生え薬とは、歯の成長を制御する『USAG-1』というタンパク質の働きを抑制可能な特定抗体薬のこと。特定のタンパク質を抑える薬はがんや免疫性疾患の治療に使われており、歯を生やすことに活用するのは新しい試みです」
そう話すのは医療ジャーナリストの村上和巳さん(以下、同)。義歯やインプラントと比べて、どんなメリットが想定されるのか?
「単純に比較はできませんが、本当に自然の歯を生やせれば、初期費用は同じでも、長期的なコスパは新薬のほうがいいと思います」
同薬が1番最初の標的にしているのは、6本以上の欠損がある遺伝性患者の先天性無歯症だ。
「まずは同症状に対する薬として、2030年に承認されることを目標としているようです。将来的には後天的な歯の欠損などへの適用を目指し、臨床試験を改めて始めるという流れになるでしょう。長期的には老化で歯が抜けてしまった高齢者や、何らかの理由で歯を失った成人まで視野に入れていると思われ、市場への訴求の可能性はかなり大きいでしょう」
現段階はあくまでマウスやフェレットといった動物実験で得られた結果。人に使える薬としては課題も多い。2024年夏頃から始まる臨床試験で結果を見いだせるかが焦点。
抗USAG-1抗体製剤で永久歯に続く〝第3歯堤〟を育てる
将来的な使い方として検討されているのが、永久歯の下部にある〝第3歯堤〟に歯生え薬を投与し、USAG-1というタンパク質によって抑制されていた歯の成長を促すこと。トレジェムバイオファーマ社が公表している資料では、歯1本当たり25万円と試算されている。
取り組んでいるのは注目のベンチャー企業
歯科口腔外科医・髙橋克氏の研究成果をもとに歯生え薬の開発を進めているのはトレジェムバイオファーマ社。健康寿命の延伸につながる新薬として業界内外からの期待は大きい。
取材・文/清友勇輔