ホストクラブ&キャバクラ企画で入居者が見せた新しい表情
――ホストクラブ・キャバクラ企画を始めたきっかけから教えてください。
「弊施設は2020年に老朽化に伴う新築移転を行ったのですが、その際ハード面だけでなく、介護の考え方や取り組み内容も大きく変える必要を感じ、業務改革を行いました。今回の企画もそうした取り組みの一環です」
「以前行ったスナック風イベントが入居者の皆さんに大好評だったのでホストクラブ、キャバクラ企画の開催に至りました。これまで様々なイベントを実施してきましたが、個々のお年寄りの生活に着目して企画すると同時に、それがスタッフにとっても楽しいものであるかどうかを大切にしています」
今回行われたホストクラブ、キャバクラ企画ではスタッフの方々がキャストを務めた。提案したのもスタッフだという。
「キャストに関してはやってみたいと言ってくれた有志スタッフが務めました。参加したスタッフもとても楽しそうでしたし、参加していないスタッフからは、『面白い』『次はこんなことをしたら』といった意見も上がってきます」
――今回のイベントで印象に残っているエピソードは?
「ホストクラブイベントに関しては、年代的にホストクラブに馴染みがない方が多かったので嫌がられる方もおられるかと思ったのですが、顔見知りのスタッフと楽しく盛り上がっておられました。反応としては照れてしまう方と大喜びされる方に分かれますが、「こんな楽しい思いをしたのは生まれてはじめて」と言っていただける方もおられました」
「キャバクライベントでは普段静かに過ごされている方も弾けるような笑顔を見せ、大いに喜んでいただけました。これまであまりお話しされなかった「バリバリ働いていた昔の話」を聞くことができたのも印象的でした」
やまゆりの里はこれまで様々なイベントを開催してきた。入居者の誕生日には個人の趣味や思い出に合わせた催し物を実施。昔からなじみの寿司屋さんに行ったり、古くからの友人に会いに行くなどまさに“入居者ファースト”な取り組みだ。
また、入居者が行きたかった場所を聞き出し、『琵琶湖でサイクリングしたい』、『あべのハルカスに登ってみたい』、『サーカスを観たい』など多少遠い場所でも抱いている夢を叶えるためスタッフは奔走している。
さらに、
「施設に隣接したリハビリテーション農園では介護技術を駆使することで寝たきりの方でも畑作業に取り組んでもらっています。農村地域の特養ですので、これまで農業に従事されておられた方も多く、『もう一度畑作業をすることが出来た!』と涙を流される方もおられました」
2025年の介護問題に挑む「人間性の尊重」という信念
やまゆりの里は兵庫県の農村集落にある。
設立は1985年。丹波篠山市では最も歴史のある特別養護老人ホームだが、2020年にユニット型特養として新築移転した一番新しい特別養護老人ホームでもある。あたたかみのある住環境が特徴だ。
「新築移転の際は入居者の生活の場にふさわしい建物にしたいとの想いから、100床の大規模施設ながら完全木造の和風建築で屋内も床は杉の無垢板。建具は丹波地域の古民家から出たアンティークの建具をリノベーションして使用しています」
住み慣れた古民家にいるような、それでいて介護を受けやすく過ごしやすい場所を作り上げた。もちろん介護技術も抜かりはない。
「介護においては生理的動作に沿った介助を行うことで利用者の持つ力を最大限に引き出す『楽ワザ介護術』を導入しています。また、入浴は機械浴を一切使わず、青森ヒバの個浴槽にゆったりと浸かってもらい、排泄の自律にも力を入れています。入居者の人権や尊厳の確立に向けた取り組みが一番の特徴です」
現在の入居者数は100名。田舎町の老人ホームとしては大型で充実した設備とサポートが目を引く施設だが、介護業界はこれからが正念場だ。
こんな調査がある。
厚生労働省が2021年に発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」。未来に必要な介護職員の人数が記載されているのだが、2025年度には約243万人が必要となり、2021年より約32万人多く確保しなければならないという。
しかも、2025年には団塊世代が75歳以上に到達。高齢者の人口増加が予測される来年は今よりも更に介護士の人材不足が懸念され、ゆくゆくはケアしてもらえない「介護難民」が増えるとも言われている。
参考
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000207323_00005.html
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/06/dl/s0619-6q.pdf
介護職員の処遇改善も叫ばれる昨今、「やまゆりの里」が考える介護の未来とは?
「やまゆりの里のような田舎の施設では人員の確保が難しいため、私達は特色のあるケア、魅力的なケアに取り組み、それをSNSで公開し人材確保につなげております」
「また、私達が目指しているのは、出来なくなったから施設で過ごすのではなく、『入居したから出来なかった事が出来るようになった』と言ってもらえるような、利用者の『夢を叶える介護』です」
「私達の理念には『人間性の尊重』があり、その実践と言えるのが『夢を叶える介護』。例えば、〇〇に行きたい、〇〇したいといったことを叶えるだけでなく、『もう一度料理したい』、『家族に料理を作ってあげたい』など日常におけるもう一つ先の希望を叶えることが私達の使命だと思っております」
「『人間性=人間らしさ』であると思い、学ぶ、造る、遊ぶ、信じるを通してその人らしい生き方や夢を叶えるためのサポートをこれからもしていきたいと思います」
取材協力
介護老人福祉施設 やまゆりの里
やまゆりの里インスタグラム
やまゆりの里 Tiktok
文/太田ポーシャ