■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、NTT法廃止について会議します。
左から石川氏、房野氏、法林氏、石野氏。
自民党のゴタゴタでNTT法廃止の方向が変わる?
房野氏:自民党 政務調査会がNTT法のあり方に関する提言を、2023年12月に公表しました。そちらで、2025年を目処にNTT法の廃止を提言しています。これを受けて、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、ケーブルテレビ事業者など計181者は、NTT法の「廃止」に反対する姿勢を表明しています。NTT法は本当に廃止の方向で進むのでしょうか。
石川氏:総務省としてはNTT法を残したい。一方で、経産省ルートは国際競争力云々という表向きの理由をつけて、NTT法を廃止したい。総務省の情報通信審議会 通信政策特別委員会でも議論がされていますが、総務省はNTT法を維持したい、そこを自民党が押し切って廃止に持っていこうとしているんだけど、自民党側にその力がなくなってきそうだということになると、総務省の意向が通っていく可能性はある。だから、NTT法を残す方向に行く可能性も十分あります。
法林氏:総務省はNTTを分割したいので、NTT法を廃止したくないんですよ。NTT側は政治絡みで対抗したかったんだけど、その政治で逆に足をすくわれてしまうかもしれない。
石川氏:もしかすると、長い伏線があったのかもしれない。NTTの接待問題で当時の総務審議官が辞職しましたが、あれも、もしかしたら布石になっているんじゃないかな、みたいな。
石野氏:総務省はNTT分割を法的に支えてきた。NTTを分割して競争を促進させて、通信市場を盛り上げていきましょう! という姿勢でやってきた。そういう人たちが、接待問題でダーッといなくなっちゃったんですよね。
石川氏:結果として、NTTは動きやすくなった。結果としてなのか、最初から狙っていたのかはわからないけれど(笑)、NTT法廃止の流れを作りやすい状況になり、このままうまく行きそうだったのが、自民党のゴタゴタでちょっとバタバタしそうかなと。
石野氏:NTT側がそこまで計算してやっていたなら、すごいことだなと思います。
石川氏:いや、本当にドラマ化したいよ。本当にシナリオを書こうかなと思って(笑)
石野氏:(半沢直樹シリーズを書いている)池井戸先生にドラマ化してほしいくらい(笑)
法林氏:まぁ、確かにNTTと総務省、経産省の間の綱引きという感じはする。でも、NTTって会社は、社員同士が一緒に肩組んで笑っているのに、その実、お互いの脇腹を小突くような厳しい駆け引きがある会社なので(笑)、実態がわからないところもある。今の経営陣のやり方を快くなく思っている人も相当数、NTT内にいるような感じはする。
現実としてパーティ券絡みで自民党内はごたごたしているから、もしかすると、2024年の審議の中でNTT法廃止の方向がひっくり返る可能性はあると思います。
自民党とNTTが「廃止」にこだわる理由
石川氏:自民党がNTT法廃止を推すモチベーションは何かと考えた時に、1つにはNTTは今、特殊法人なので、NTTから自民党に対して政治献金ができないんだそうです。だけど、NTT法から外れると一般的な民間会社のひとつとなるので、大手を振って献金できる。NTTは献金できないから、ドコモやNTTデータなどの別会社から献金していたりする。NTT法が外れると、もっと高額なお金が動くかもしれないなと。実際動くかどうかは別として、そういうメリットもあります。
房野氏:これは自民党側のメリットですよね。NTT側が廃止を望む理由って、今言われている「研究成果の開示義務の撤廃」「ユニバーサルサービス義務を最も適した事業者が担うこと」「外資規制でNTTだけを守るのではなく、外為法などで主要通信事業者を規制する」ことなのでしょうか。廃止に反対する側はNTT法の「改正」でそれらに対応できるとしていて、NTTが「廃止」を望む理由が微妙にわからないんですよね。
法林氏:NTTが言う、「GAFAMに対抗するためにNTT法が足かせになっている」って話は石川君が毎回言っているように、ちょっと主旨から外れる。
房野氏:あれは単なる建前って気がしますね。
法林氏:現実論としては、NTTが献金することになれば見返りもある。総務省の変なコントロールからも逃れやすくなるし、プラスアルファは期待できる。あとIOWN(Innovative Optical and Wireless Networkの略。情報通信システムを変革し、ICT技術の限界を超えた新たな情報通信基盤の実現をめざす)構想には半導体が欠かせないので、IOWN絡みでNTT法による制限が邪魔だという考えはあると思います。
石野氏:研究開発開示の義務とか社名変更、外国人役員の登用とか、そのあたりはNTTが主張する通りかもしれない。
石川氏:その点については、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなど廃止に反対している側も「いいよ」と言っている。だけど、なぜNTT法の廃止にこだわるのかっていうところでいうと、献金とかの縛りがあるのかなと……
法林氏:今、NTTのトップにいる人たちは、NTT法の積年の束縛をずっと体感している人たちなんですよ。なので、その束縛を外したくてしょうがない。束縛されている状態が20数年続いている中で、ほかの会社が自由にやっていることを苦々しく思っているということはあると思う。
じゃあ、現場の人たちはどうなのか。僕が話したドコモの若手社員は、例えば今、揉めている「施設設置負担金」について知らなかったりするんですよ。NTTグループの社員がですよ。
石野氏:いやいや、知らないですよ(笑)
法林氏:それはまずいと思うんですよ。そういう歴史的な経緯や会社としての成り立ちを教えられないまま、「会社がそう主張しているから、廃止なんです」でいいのかな。本来、NTTグループ全体で会社としての周知ができていないことは、もっと責められるべきだと思うんです。あなたが入社した会社は特殊法人なんですよって言っても、「はぁ、そうですか」ってだけで……
石野氏:ドコモの人は特殊法人に入社した意識はないだろうけど……
法林氏:今は、特殊法人傘下だよ。
石野氏:入社した当時はそんな意識はなかったでしょうから。「あぁ、自分の会社は特殊法人になっちゃったか……」って感じじゃないかと。
献金に関してですが、今はドコモとかがやっているわけじゃないですか。持株会社が禁止されているのに、あれ、本当にいいのかなって思いますね。完全子会社前のドコモがやるんだったら別にいいですけど、完全子会社にした後もドコモが献金すると、実質的に持株会社からお金を出しているのと同じことになるので。あれは限りなく脱法に近いような感じがする。
法林氏:問題は、僕らもそうだけど、あまり献金の仕組みについて知らないことだよね。献金ってどういうところがしているかとか、全然知らない。
石川氏:それを言ったらKDDIだって献金していますから。
法林氏:でも、献金は政治資金規正法に則って、ちゃんと届け出をすればOKだよね。
石野氏:そうなると、ドコモを完全子会社化して傘下にした以上、クリーンに献金するためには、NTT法は撤廃した方がいいってことになりますね(笑)
房野氏:総務省がNTT法廃止の流れをひっくり返すとしたら、野党に期待するとか、そういう流れになるのでしょうか。
石川氏:野党はあてにならないと思う。本来は、自民党内で総務省に近い人、通信に詳しい人がプロジェクトチームに入って議論すれば良かった。例えば総務大臣だった野田聖子議員とかです。でも、そういった人は排除されて、自分たちだけで議論を進めていった。最後の方でちょこちょこっと反対側に話をしたみたいだけれど、結局NTT法廃止ありきで話が進んでいる状況になっている。本来ならこのまま廃止に進むんだろうけど、ちょっと状況が変わってくる可能性もある。
石野氏:鈴木淳司総務大臣も辞任しましたし。
房野氏:総務省は総務省で、自民党のプロジェクトチームとは別にNTT法のあり方について議論をしていましたよね。その影響力はあまり大きくないのですか?
法林氏:最終的にまとめるのは総務省。ただ、法律を作るのは議員、国会で作るわけなので。総務省が「この法律を作って」といって審議はするけれど、最終的に投票するのは議員。
房野氏:圧倒的多数の自民党が「廃止」と言ったら廃止になっちゃいますね。
法林氏:どうしても通したい時は、否が応でも通してしまう。かといって、今、自民党に対抗できるような存在がどこかにあるかと言われると、正直見受けられないじゃないですか。アンケートで支持する政党の理由として「結局自民党しかないから」みたいな回答が1位になるような世の中。だから、今のままだと、最終的には自民党がNTT法廃止を押し通すことになりそうだけど、ただ、その中でも総務省はグリップを効かせて、変な方向に行かないようにはしたいはず。
石野氏:提言を提出している人が、明日には在職していないかもしれないですからね。