3.実は恐ろしい「日経平均7万円シナリオ」
■シナリオC:2年で7万円達成の「夢?のシナリオ」
「6年も待てないよ」というせっかちな人もいるかもしれない。そこで紹介したいのが、最短2年で日経平均が7万円を突破する「シナリオC」だ。
「そんなおとぎ話のような話しがあるものか」とのお叱りを受けそうだが、是非最後まで読み進めてほしい。けっして夢物語ではなく、「悪夢のシナリオ」であることがご理解いただけるはずだ。
日経平均が2年で7万円を突破するシナリオCは、ハイパーインフレによる通貨下落をともなう株価急騰だ。コロナ禍後の世界の株式市場では高水準のインフレと金融引き締めによる景気悪化懸念が重石となり、一部を除きパッとしない相場展開が続いている。
そんな世界経済に吹き付ける逆風をものともせず抜群のパフォーマンスをたたき出しているのが、厳しい経済環境に苦しむアルゼンチンとトルコの株価指数だ。
■ハイパーインフレで暴騰する株価
トルコでは、「高インフレには金融緩和を」というエルドアン大統領の奇手が災いし、同国の消費者物価指数はこの2年ほどの間に約2.6倍に上昇した。
また、アルゼンチンでは度重なるデフォルトと通貨安から、消費者物価指数は同約4.8倍に上昇している。一方、両国の株式市場はこの間急騰を続けており、トルコのイスタンブール100種指数は2021年末から2023年11月末にかけて約4.3倍に、アルゼンチンのメルバル指数にいたっては同約9.7倍に上昇している(図表5)。
こうした数字を見て既にお気づきかもしれないが、この間、トルコとアルゼンチンの株価パフォーマンスはインフレをしっかりとアウトパフォームしているのだ。
2021年末以降、トルコの株価はインフレ調整後でも約1.6倍に、アルゼンチンでも同約2.0倍に上昇している(図表6)。仮に、日本で年率25%のインフレが生じ、インフレ調整後の実質株価が約1.4倍に上昇すると、33,000円の日経平均は2年後に約2.2倍の72,188円(33,000円×1.4×1.252)まで上昇する計算になる。
■インフレヘッジとしての株式投資
ハイパーインフレの際に株価が上昇するメカニズムは、株価がインフレ調整前の「名目経済」に連動することに加え、ハイパーインフレそれ自体がビジネスにとって決して「悪い話ばかりではない」からだ。というのも、現金の価値が猛スピードで減価してしまうため、人々は競って現金を物に変えようとする。
このため、経済自体も猛烈なスピードで回転することとなる。そして、企業は人々の苦しみをよそに、流通段階で在庫をため込んだり、供給をしぼりながら価格を吊り上げることで、高い利益をあげることが可能になる。
日本でも太平洋戦争直後の混乱期に、ハイパーインフレが発生した。そして、正規ルートでは物資が枯渇する一方、日本各地に「闇市」が立ち、商売人たちは強力な価格支配力を行使して巨額の利益をあげた。
例えば、巨大流通グループを一代で築いた創業者、石鹸販売を皮切りに大手菓子メーカーを育て上げたオーナー、そして政商として暗躍し戦後のフィクサーと呼ばれたような人たちも、闇市で様々な商品を売りさばくことで、その後の飛躍につながる資金を手にしたと言われている。
■金利上昇により顕在化する日本の財政リスク
こういった議論になると、「日本を一緒くたにしてくれるな」という失礼なことを言う方が必ずあらわれる。しかし、そうしたことを言うのは「今日と変わらぬ明日がきっとくる」と信じて疑わない、一部の日本人だけではないだろうか。
例えば、近年のトルコの政府債務は対GDP比で約30~40%で推移しており、プライマリーバランス(様々な行政サービスを提供する経費を税収などでカバーできているかを示す指標)は2022年に黒字転換している。
翻って日本に目を転じると、政府債務の対GDP比は200%を超え、少子高齢化による社会保障費の増加から、プライマリーバランスの黒字化はなかなか見通せない状況にある。
そんな日本がこれまで財政破綻を免れて借金に借金を重ねてこられたのは、デフレ下でゼロ金利が続いてきたことが主因と言っても過言ではないだろう。
日本の国債残高は2023年度末で1,068兆円まで増加すると見込まれている。そして、年間の利払い費8.5兆円から逆算される国債の平均金利は約0.8%になる。また、国債の平均残存期間は約9年2カ月なので、残高の約11%の借り換えが毎年発生する計算になる。
政府は2024年度の一般会計当初予算案で国債の想定金利を1.9%に引き上げたが、デフレ脱却による金利上昇で国債の新規発行金利が仮に3%まで上昇すると、単純計算で12年後の2035年度には、日本の国債残高は2,000兆円を突破することになる(図表7)。
日本が現在のような財政規律のまま「金利のある世界」へ突入した場合、国の信用力低下を材料に円安が進み、円安による輸入物価の上昇がインフレを加速させ、そしてインフレを抑え込むための金融引き締め・市場金利上昇がさらなる財政悪化を招く、いわゆる「負のスパイラル」に陥りかねない。
そして、「いざインフレ」という時に頼りになるのは、日本人の大好きな現預金ではなく、インフレヘッジの機能を備えた実物資産や株式投資ではないだろうか。
まとめに
日本のデフレ脱却が本格化すると、名目GDPの成長を通じて企業利益が増加するため、日本の株価は長期的に右肩上がりのトレンドを描く可能性が高まる。
こうした日本の構造変化に企業の資本効率の改善が加わると、PBRの上昇を通じて意外と早いタイミングで日経平均は7万円に到達する可能性が出てくる。
とはいえ、日本がこのまま金利のある世界へと戻っていくなら、財政悪化、円安、そしてインフレが連鎖するリスクには注意が必要だろう。こうしたリスクが顕在化した場合、インフレヘッジとしての株式投資の重要性は、これまでになく高まる可能性がある。
※本レポートは複数の前提条件を基に試算したものであり、前提条件が異なることでシナリオと実際の値動きには大きな乖離が生じる場合がある。
出典元:三井住友DSアセットマネジメント
構成/こじへい