2023年は、コロナ禍で進んだデジタルシフトの反動で、リアルイベントが続々と復活。ファンによる「推し活」も再びの転換期を迎えている。来る2024年、エンタメ界の行く先を『推しエコノミー』(日経BP)の著者・中山淳雄氏に聞いた。
配信とリアルイベントの両面でファンを満足させる動きが活発に!
リアルイベントでファンを獲得するVTuberも多くなりました
エンタメ社会学者
中山淳雄さん
1980年生まれ。栃木県出身。東京大学大学院、カナダのMcGill大学MBAを修了。IT数社で実績を重ね、2021年7月にRe entertainmentを設立。『エンタメビジネス全史「IP先進国ニッポン」の誕生と構造』『オタク経済圏創世記』(いずれも日経BP)など著書は多数。
中山さんのトレンド予測2024
2次元・2.5次元・3次元という垣根を越えて覇権を争う時代になる!
群雄割拠の状況下では、デジタル配信とリアルイベントの〝ハイブリッド〟でファンの推しを得ることが求められそうだ。同じ〝陣営〟発のコンテンツでも、ファンが好きになるとは限らない。末永く支持されるため、各〝陣営〟は〝プラットフォーム構想〟に陥らず、コンテンツやグループごとのファンを大事にすべき。
リアルイベントの復活で〝お財布事情〟も変化
「アニメ、アイドル、ゲームなど、ジャンルも多岐にわたる近年の推し活市場を牽引したのは、コロナ禍でのエンタメ界のデジタルシフトです。しかし、2023年5月に新型コロナウイルスが5類移行したのに伴い、リアルイベントが次々に復活しました。デジタル市場とリアル市場の逆転現象が起きつつあります」
中山さんが注目するのは3Dキャラクターが軽快なトークを展開し、歌い踊るVTuber市場だ。矢野経済研究所は、2023年度の市場規模を前年比153.8%の800億円と推計。人気のVTuberグループ「にじさんじ」を擁するANYCOLORが2023年4月期の通期決算で253億4100万円の売上高を計上するなど、ますますの成長が期待される。
「VTuberの躍進は、デジタルシフトの恩恵が大きい。当初は架空の3Dキャラクターとして支持を集めましたが、近年は各陣営がリアルイベントも積極的に展開。〝中の人〟がコスチュームを被りステージに登場し、リアルに会えた感動から、客席のファンが涙する光景も見られます」
一方、リアルを主軸としていたタレントが、コロナ禍を経てデジタルの世界に裾野を広げたケースも目立つ。旧ジャニーズ事務所のタレントによるYouTubeチャンネル「放課後 GAMING LIFE」のように、100万人以上の登録者数を誇るコンテンツも多い。
「TikTokで1000万人以上のフォロワーを抱える景井ひなさんをはじめ、デジタルの世界で一躍ブレークのきっかけをつかむタレントもいます」
2024年以降はリアル発とデジタル発の勢力がせめぎ合う〝群雄割拠〟の時代へと突入していくと中山さんは見ている。
「560億円にも上った政府によるコロナ禍の文化芸術支援の補助金の一部は、今なお使われていないとの指摘もあり、活用しようと躍起になる陣営も出てくるでしょう。また、リアルのイベントが増えてきている中、ファンのお金の使い方も変わってきています。リアルイベントとなればグッズ購入だけではなく、遠征費や滞在費もかかります。ライブ配信での投げ銭をはじめ、コロナ禍で急増した収益源が減少する可能性もあり、エンタメ界ではファンの心をつかむべく、再びの意識改革が求められるでしょう」