2023年通信品質の低下が顕在化。通信障害も続発しており、急につながらなくなることも珍しくはない。「日本の通信はどうなる?」と、不信感を抱いている人もいるかもしれない。そこで、衛星通信をはじめ、2024年に話題になりそうな気になる通信の動向について、3人の識者に見通してもらった。
ケータイジャーナリスト
石川 温さん
日経新聞電子版にてコラム「モバイルの達人」を連載。ラジオNIKKEI「スマホNo.1メディア」でパーソナリティーを務めるほか、幅広いメディアで活躍。近著に『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)がある。
ITジャーナリスト
西田宗千佳さん
先端技術分野を中心に取材。近著は『生成AIの核心「新しい知」といかに向き合うか』(NHK出版)や、『メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略』(SBクリエイティブ)など。
携帯電話研究家
山根康宏さん
香港在住の携帯電話研究家。世界中の携帯電話事情を追いかけて、1年の2/3を海外取材に費やす。日本では無名の海外メーカーやサービスにも精通。多くの携帯電話を収集するコレクターとしても知られる。
【5G通信】〝真の5G〟といわれる5G SAが本格的に始動し、通信環境は改善される
日本の5G活用が遅れた複合的な理由とは?
山根 通信品質の問題も5G SA(スタンドアローン)のネットワークスライシング技術が生かせれば、もっとコントロールがやりやすいはず。日本でなかなか広がっていないのがつらいところです。
石川 通信料金の値下げがあったので、キャリアとしては積極的な設備投資がしにくくなったというのは事実としてあると思います。5Gが始まるタイミングでコロナ禍になり、盛り上がりに欠けてしまったところもある。5G端末が早く普及すれば、基地局をたくさん作り、そちらにトラフィックを流すこともできただろうけど。端末の割引規制もあって、ハイエンドな5G端末が売りにくくなってしまいました。逆に国はなぜか、中古端末を推進しているような状態で「そりゃ、5Gの活用も遅れるよ」という状況ではあります。
山根 5Gが始まった頃、日本がこんなに遅れるとは思わなかった。値下げの話も端末の割引の話もそうだけど、どうも目先のことばかりで、国として日本のネットワークを将来どうしたいのかというところが、全く見えてこない。
石川 2024年以降は本格的に5G SAが広がってくるといわれているので、SAらしい料金にして、それに見合う体験ができるようになれば、またちょっと変わってくるのではと思います。
西田 ただ、SAになったから突然スピードが上がるとか、そういうことではない。結局はちゃんとアンテナを〝打って〟、利用できる帯域を増やすしかないです。思うに日本は4Gが良すぎたから、5Gのメリットが伝わりにくくなってしまったのではないかと。5G SAなら「こんなに快適」というのを示すところから始めないと、定着していかないと思います。
石川 日本で5Gが遅れている背景には、衛星に干渉される問題もある。2024年ぐらいから技術的に解消されそうなので、エリアが一気に広がってくる可能性もあります。そうなれば5G SA化が進み、ようやく〝なんちゃって〟じゃない、真の5Gの実力を体感できるようになると思います。
山根 海外だと5Gの普及とともに、企業によるローカル5Gの活用も進んでいます。日本ではそのような動きが鈍いものの、ベンダーなどいろんな条件が整ってきて、2024年は産業向けのローカル5Gで、地道な底上げの動きがあるのではないかと期待しています。
来年から拡大しそうな「5G SA」のメリット
4G基地局と5G基地局の電波を併用し、4Gのコア装置を使用する従来の仕組み(5G NSA)に対して「5G SA」は5G基地局から5G専用のコア装置を使用。高速通信に加えて、5Gならではの低遅延や同時多接続を可能にする。
通信改善の期待がかかる5Gのネットワークスライシングとは?
文字どおりネットワークを仮想的に分割(スライス)し、個々のニーズに応じた品質のサービスを提供できるようにする技術。帯域中のある部分は高速大容量向けに、また別のある部分は低遅延向けにというようにネットワークを切り分けることで、同時に多くのデバイスで快適にデータをやりとりできるようにする。
各社の主な5Gエリア計画
NTT
2024年3月までに全国すべての市町村で5Gを展開し、人口カバー率90%以上を目指す。2022年8月から、5G SAサービスを月額550円(キャンペーンで無料)で提供中。2024年にはネットワークスライシングの本格展開を目指す。
KDDI
2023年3月末時点で人口カバー率90%を達成。2023年4月から5G SAサービスを展開している。鉄道や商業施設など生活動線に沿ってエリアを強化する計画で、2024年度には2.3GHz帯を活用したサービスも開始予定。
ソフトバンク
キャリアの中でいち早く、5G人口カバー率90%を達成。2023年3月から5G SAサービスを展開していて、順次エリアを拡大していくとしている。2023年4月には、5G基地局が6万5000局を突破したことを発表した。
楽天
5Gの基地局数は2023年6月時点で1万か所を超えていて、2024年3月までを目標に、さらなるエリアの拡大を目指している。拡大予定のエリアについて、ミリ波とSub6のいずれもWebサイトで詳しく紹介している。
【NTT法】既存インフラの譲渡をめぐり公正な競争が叫ばれる中、NTT法の廃止の行方は?
日本のネットワークを考えるいいきっかけにしてほしい
石川 今話題になっているNTT法をめぐる論争が、日本のネットワークの将来について考える、いいきっかけになればと、個人的には思っています。NTTには全国7000局舎があり、光ファイバー網は110万km敷かれている。これを有効活用する方法があるのではないかと。例えば局舎には通信設備は置けるけど、コンテンツサーバーは置けません。でも置ければもっと快適にコンテンツが楽しめるようになる。答えありきでなく、みんながハッピーになれる方法を検討してほしいです。
西田 僕もほぼ同意見ですね。局舎の話で言えば、海外だとNetflixのCDNサーバーが置かれていることもありますが、日本だとルール上それができない。ルールをちゃんと今に合ったものに変えたり、見直したりする必要があります。
山根 SNSでの発言を見ると、3キャリアは公正な競争ができなくなるから廃止はダメだと言っているけれど、改正には反対していません。だったら公正な競争ができるようにすればいいだけ。日本の通信を良くするため、この機会にしっかりと議論してほしいです。
NTT法をめぐる各社の主張とは?
国際競争力強化の妨げになっているなどの理由から、NTT法廃止を主張するNTTに対し、KDDI、ソフトバンク、楽天が改正で対応できると反発。国から引き継いだ基盤をもとにした光ファイバー網を盾に、公正競争が確保できないとする3社と、公正競争は電気通信事業法にも規定されているとするNTTが真っ向から対立。SNS上での応酬も注目を集める。
【そのほか】プラチナバンドを獲得した楽天の動向をはじめ、気になる通信トピックスは?
楽天のプラチナバンド活用や『iPhone』のRCS対応に注目
石川 2024年の動向で言うと、楽天モバイルはようやく戦える状態になったので、ユーザー獲得にさらに注力してくるのでは?
山根 楽天はプラチナバンドを手に入れたけど、実際に活用する気があるのかは疑問。今ドコモが四苦八苦しているので、KDDIとソフトバンクは黙って待っていればいい状態だけど、楽天がどんな変化球を投げるのか楽しみです。
石川 楽天は1000万契約を目標に掲げているけど、2024年中にどこまでいけるか。あとは端末割引の規制が4万円までになるので、その影響も注目です。
西田 キャリア間の競争で言えば、MVNOも含めて話さないといけないけど、そこは比率も含めて大きく変わらないはず。ひとつあるとすれば、固定回線とのセット販売の強化。モバイルのトラフィックがキツくなっているので、IOWNの動向も含め、固定回線が改めて注目される可能性はあります。
石川 あとは『iPhone』がRCSに対応し、ほかのスマホともリッチなメッセージをやりとりできるようになります。それがどう影響するかも注目のポイントですね。
iMessageのRCS対応とは?
『iPhone』標準メッセージアプリ「iMessage」は、メッセージングの標準規格ともいえる「RCS(Rich Communication Service)」を2024年にサポート予定。『iPhone』同士でやりとりしているのと同様に『iPhone』とAndroidスマホとの間でも、高画質な画像や音声を用いたリッチかつリアルタイムなチャットができるようになると期待される。
取材・文/太田百合子 イラスト/山本さわ
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