“孤独”の影響は当人の感じ方次第
研究チームはイギリスとアメリカの35歳以上の成人178人に対し最長21日間、追跡調査を行った。参加者には毎日、日記をつけることが求められ、一人で過ごした時間と他者と交流した時間を記録した。さらに参加者はストレス、生活の満足度、自主性、孤独感の測定値を毎日報告した。
収集したデータを分析した結果、孤独と社交的な時間の間に客観的に最適なバランスは存在しないことが浮き彫りになったのだ。
一人で過ごすことはメンタルにおいて有益でもあり有害でもあり、その影響は表裏一体である。
一人で過ごす時間が増えるとストレスが軽減され自分らしく生きられる自由を感じる一方、 一人で過ごす時間が長かった日には孤独感や生活の満足度の低下を感じるとの報告もあった。つまり一人で過ごすことは当人にとってポジティブにもネガティブにもなり得るのだ。
孤独がポジティブな方へと傾くのか、それともネガティブへと転んでしまうのか、いったい何が決め手となっているのか? それは今置かれている孤独への認識であるという。
つまり今自分が置かれている孤独な状況が、自分が自由に選んだ結果であればポジティブに作用し、一方で外的要因によって強制されたと感じるならばネガティブに働くことになるのだ。ようは当人の捉え方次第ということになる。
したがってどの程度の時間を一人で過ごし、どの程度の人的交流が求められるのか、その客観的な指標はないのである。リモートワーク主体でうまくいっていて特に問題がないのないのであれば、コロナ禍が明けてからも続けて構わないということにもなりそうだ。
孤独を愛してしまったほうが“お徳”
今回の研究で研究チームは孤独を選択し、その利益のために意図的に孤独を利用することが、要求の多い現代生活の中で孤独と人的交流のバランスをとる鍵となる可能性があると説明する。つまり孤独を強制された“罰ゲーム”と感じないためにも、孤独を愛してしまったほうが“お徳”であるということにもなるのだ。
その意味で今回のコロナ禍は“孤独”を考え直すいい機会になった側面もあるのだろう。感染リスクを避ける意味でも“おひとりさま”や“ソロ活動”もあらためて見直された。
コロナ禍の最中は飲食店に一人で入りやすくなったともいえる。
喋らずに食べてすぐに帰る一人客はお店側の懸念が少なくなるともいえるし、普及が一気に広まった客席のパーティションは団体客には厄介な代物だが、一人客にとっては自分のスペースが明確に確保できるうえに周囲のお客の目線が遮れらることなどもあって心理的に好都合であったりもする。
個人的な実感としてもコロナ禍以前よりも総じて一人で気兼ねなくお店に入りやすくなった気がしている。
一人焼肉店や一人カラオケ店も以前よりも目立つ存在になったようにも思えるし、“ソロキャンプ”を楽しむ人々はコロナ禍中に増えたともいわれている。
また最近では日本で初めての“ソロサウナ”が誕生して話題になっているのも興味深い。サウナ室、シャワー室、休憩スペースが一つの区画に収められていて完全に一人で一連のセッションが完結できるという。機会があれば利用してみたいものだ。
このように“おひとりさま”に対する世の認識も徐々に変化が訪れているといわれている。
博報堂生活総合研究所が25歳から39歳の男女を対象に行った調査が最近発表され、それによるとこの30年で「ひとりでいるほうが好き」を選ぶ割合が「みんなでいるほうが好き」を逆転したことが報告されているのだ。
コロナ禍が明けて各種のイベントやスポーツ観戦が通常通りに行われるようになり、多くの職場でも出社勤務のほうへと戻しつつあるが、ともあれコロナ禍中に一度味わったリモートワークや“おひとりさま”の気兼ねなさを忘れることはできそうもない。“おひとりさま”は新時代を迎えたと言っても過言ではないだろう。
※研究論文
https://www.nature.com/articles/s41598-023-44507-7
※参考記事
https://www.reading.ac.uk/news/2023/Research-News/How-solitude-boosts-wellbeing
文/仲田しんじ