新しい一歩を踏み出さなきゃいけないと思った
福澤克雄
TBSテレビ コンテンツ制作局
ドラマ制作部 ディレクター
1964年生まれ。富士フイルムを経てTBSテレビ入社。制作1部に所属する演出家・映画監督。『3年B組金八先生』シリーズ、『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』などを制作。多くの役者、スタッフから信頼を集める。福澤諭吉の玄孫。
『VIVANT』の原作と監督を担当したTBSテレビの福澤克雄監督にヒットの秘密を聞いた。
──このドラマを今、作ろうと思ったのはなぜですか?
「定年間近だし、とにかく思い切ってやろうかなと。それとね、日本のエンターテインメント業界を見た時に、やっぱり会社で人材をちゃんと育てるべきだと思いました。ドラマって一歩間違えたら大赤字になる。雨が続くとか、俳優さんのケガとか。そのうえ社員ばかり使うとすぐ赤字。だから、支払額が決まっている制作会社に投げたくなる。TBSには石井ふく子さん(※1)の時代からずっと作ってきたテレビドラマのノウハウがある。でもね、制作会社に任せすぎるとそれが消えてしまう。そこだけは残さなきゃダメだと思った。それに今、テレビもネットや配信に押されて、新しい一歩を踏み出さなきゃいけないと思ったわけです」
──今回、宣伝の際に情報を出さなかった。その戦略に込めたのは?
「役名を出しただけで内容がバレそうだったから。ノゴーン・ベキとか、乃木卓なんか出た瞬間、何だこれってなるでしょ。〝別班〟という言葉も出したくなかった。だからネットでいくら調べても内容がわからない。それで『見るしかない』っていう状況を作った。そっちのほうが楽しんでもらえるんじゃないかって。
僕が感じてるのは、今の若い人は『見たい』んじゃなくて、『知りたい』んだろうなと。わかんないことはすぐネットで調べるでしょ。でも、それでもわからないから『見てみよう』と思ってくれればいいなって」
──今回のドラマでは原作に初挑戦しました。きっかけは?
「〝別班〟という言葉をラジオで聞いて、ドラマにしたいなと思った。どうやったらおもしろくなるか、興味を持ってもらえるか考えて、3人の脚本家と何度もやりとりして仕上げていった。今回は新しい脚本家を育てるという狙いもありました」
──撮影前に10話すべてを書き上げたそうですね。
「原作は1話から書いていったけど、何度も行ったり来たりしました。例えば、4話で乃木が別班とわかる。でも視聴者はそこで、『じゃあ1話で乃木が死にそうになったのは何で?』と矛盾が出てしまう。だったら、1話で撃っていたことにしようってまた1話に戻って書き直す。撮影の際には堺さんにもズボンの裾に拳銃を入れてもらったし、(1発に見えるけど)ちゃんと2発撃ってます」
物語の舞台「バルカ共和国」は架空の国。砂漠、草原、街などで撮影し、移動に10時間以上かかる日もあったという。
──今回、視聴者の考察は相当過熱しましたね。
「ヤバいと思ったね。『1発しか撃たれてないように見えるけど、スローで見たら2発撃ってる』とか、『2発目を撃ったのは乃木じゃないか』とか。ネットで見てうわーって。でも、考察ドラマは作りたくなかったんです。ある意味でお客様をだますことになるので、そうではなく誠実に作りたかった」
── その誠実さが逆に考察を盛り上げました。とはいえ、1話目はよくわからないうちに終わってしまったという感想も。
「ドラマには〝1話の呪縛〟ってのがある。制作側は1話目が勝負だと思っているから詰め込んでドラマが動くところまで描く。でも視聴者は展開が予想できてワクワク感もなくなってしまう。だから今回は、1話は何の話かわからないようにしようと」
独自の理論でドラマをヒットさせ続けている福澤監督。一番大事なのは仕掛けではないという。
「やっぱり恐怖心ですよ、恐怖心。半沢直樹シリーズの時にわかったのは、作っているほうが、どうなのかなと恐怖心を持つのが大事だということ。あの時、上司には反対され、絶対当たらないって言われた。僕自身、不安だった。でも、最後はもういいやって(笑)。見たい人が見てくれればいいやって思った。作り手がヒットするかわからないというのは、前例がないってこと。そういうものを出さないと、視聴者は満足してくれない」
恐怖心を覚えながら作るしかない。その心構えがあってこそのヒットだ。
テロ組織と自衛隊の秘密組織「別班」。現実離れした話をリアルに見せるため、絶対に砂漠から始めたかったと福澤氏。
(※1)元TBSテレビプロデューサー。プロデューサーとして『渡る世間は鬼ばかり』を手がけた。「東芝日曜劇場」では家庭を舞台にしたホームドラマを制作した。
取材・文/編集部
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