超高齢化と労働人口の減少が進む日本。健康寿命の延伸や医療費削減などの深刻な課題に直面しているが、その解決に欠かせないのが質の高い医療。中でも在宅医療の発展や浸透が鍵を握るといわれる。デジタル化が進み、在宅医療でエコーやレントゲンが可能になりつつあることから「医療が患者に近づく」または「自宅が診察室に近づく」日が見えてきた。2つの機器の開発経緯や活用例から、在宅医療の現状を知る。
ポケットエコー(超音波装置)が在宅医療を進化させる可能性
「在宅診療の例です。血圧低めであまり症状のない高齢者がいました。心機能正常(脱水)なのか重症心不全なのか分からず、点滴をするのか、反対に水を絞るのか、治療の選択が大きく分かれる状況でした」
そう語るのは、医療法人鳥伝白川会 理事長 ドクターゴン診療所 院長、泰川恵吾氏。
2023年9月28日にGEヘルスケア・ジャパン主催で行われた、「これからの在宅医療を考えるパネルディスカッション『自宅はやがて、診察室になるのか?』」での一幕だ。
医療法人鳥伝白川会 理事長 ドクターゴン診療所 院長 泰川恵吾氏
「ポケットエコーで心臓の様子がすぐにわかったため、治療の正しい判断ができました」
泰川氏はGEヘルスケア・ジャパンのポケットサイズのエコー(超音波装置)「Vscanシリーズ」を愛用しており、在宅でもすぐに身体の内側の状況がわかって便利だと話す。スマホとも連携可能で、エコーの画面を手軽にスマホで閲覧できる。
実は手術にも役立つという。
「これは在宅手術の際にエコーを使いながら麻酔注射を行った例です」
神経根をブロックする手術の際、ポケットエコーを使用して“見える化”。おかげで痛みもなく、足の切断手術も無事に終わったそうだ。
●ポケットエコー「Vscanシリーズ」の活用状況
同社の超音波本部 Primary Care部 プロダクトスペシャリストの国吉大将氏によれば、ポケットエコー「Vscanシリーズ」は2010年の発売以来、グローバルで5万台、国内では1万台以上が在宅・訪問診療現場で活用されているという。
「Vscanシリーズの手のひらサイズの携帯性の良さは大きな特長の一つです。デュアルプローブ(二つの探触子)搭載により、体の表面に近い部分から深部に至るまで、あらゆる領域を観察でき、不特定多数の領域を診る必要がある在宅医療での活用が進んでいます」(国吉氏)
医療の現場では実際に、どのような用途で使われることが多いのか。
「ポケットエコーは患者さんの日々の健康管理、急変時の診断、安全な処置の補助など、幅広い目的で用いられます。日常のケアにおいては、例えば膀胱残尿量のチェックや胸水・腹水の観察、エコーガイド下穿刺、誤嚥性肺炎の確認といった場面での活用やIVC(下大静脈径)の計測、心機能の評価など多肢に渡ります」(国吉氏)
日本ではまだまだ導入ケースは少ないが、今後、在宅医療の必要性の高まりからポケットエコーの価値が医師などに見出されていくと考えられる。