今、副音声が熱い。もともと副音声は視覚に障がいを持つ人などに向けて、映像上の音声では類推できない状況を補足するユニバーサルサービスとして広く活用されてきた。
DVDや配信コンテンツで、日本語以外の言語に吹き替えを切り替えることもこれに含まれる。そこから近年音声コンテンツの多角化が進み、テレビ番組による裏話の放送が人気を博した。さらには視聴者がYouTubeなどを活用し、スポーツの試合やオーディション番組などについて語る個人での配信も増えている。
そして、新たな副音声の活用シーンとして徐々に広まっているのが、映画館における展開だ。ヘッドホンなどを着用し、上映作品に付随した別の音声を楽しむコンテンツサービスが行なれわれている。
副音声は、なぜ劇場でも楽しまれるようになったのか。映画会社・松竹の担当者に、その背景や最新コンテンツのことを聞いた。
副音声が新たなエンタメとして生まれ変わった背景
『シライサン』/Blu-ray:5,170円(税込)・DVD:4,180円(税込)/発売・販売元:松竹/©2020松竹株式会社
※2023年12月時点の情報
松竹による副音声コンテンツを付けた上映1作目は、2020年1月公開のホラー映画『シライサン』。ただ、この作品の副音声は「Another Track」というアプリを通して、作品の表現を補助する戦慄の3Dサウンドが聴こえるというものだった。
本編とは違う語りが副音声として流れる上映は、2021年12月公開のアニメ作品『ARIA The BENEDIZIONE』から。同作では公開1週間後に声優陣3名によるキャストコメンタリー、公開2週間後に制作スタッフコメンタリー上映を行なった。
『ウェディング・ハイ』/特別版(数量限定生産)Blu-ray:6,820円(税込)・DVD:4,180円(税込)/発売・販売元:松竹/©2022「ウェディング・ハイ」製作委員会
※2023年12月時点の情報
その後、2022年は『ウェディング・ハイ』、『ホリックxxxHOLiC』、『HiGH & LOW THE WORST X(以下、HiGH & LOW)』といった実写作品へと対象を拡大している。
■大勢が集まる映画館で、個別に副音声を楽しむ仕組みとは?
松竹が採用しているのは、スマートフォンアプリ「HELLO! MOVIE」だ。副音声サービスを利用したい観客はアプリを上映前に起動し、音漏れしないヘッドホンなどを着けて上映に備える。
松竹の映画営業部 白石歩夢氏によると、副音声コンテンツはアプリが作品の音声に反応して配信が始まる仕組みのため、劇場側はとくに設備を用意する必要がない。そのため、副音声コンテンツの上映は作品公開劇場すべてで提供できる。
この仕組みは視覚障がい者向けのユニバーサルサービスとしても活用されているため、アプリ内の作品タイトルに「コメンタリー版」などが付記されているかで区別できるようになっている。
作品名を選んだのち表示される画面。このときにテスト音声として特別に録音された内容が再生される。ここまでは劇場外でも体験できる。
■狙いは〝リピート鑑賞〟の誘発
上映と同時に解説を聞くコメンタリー形式の副音声のターゲットは、既に1度作品を鑑賞済みのリピーターとなる。何度も作品鑑賞へ訪れるファンに対し、新たな体験コンテンツとして提供しているというわけだ。
副音声コンテンツを提供することによって観客は映画をまた違った角度から楽しめるが、これは映画会社にとってもメリットがあると映画宣伝部 宣伝プロデューサーの小林伸行氏は語る。
「映画が公開されてから観客動員率は、通常週を重ねるごとに下がる傾向にあります。こういった楽しみ方を新たに提供することで、すでに1回ご覧になった方も、もう1回見てくださるかもしれない。このように動員に繋げるという意味でも有効的な施策になっています。実際に、私が担当した『HiGH & LOW THE WORST X』では興行成績に大きな手応えがあったので、今後もやってみようとなりました」
『HiGH & LOW THE WORST X』の副音声コメンタリーは、出演キャストの川村壱馬さん、吉野北人さん、三山凌輝さん、前田公輝さんが撮影の裏話を語る内容。撮影当初は副音声の配信を実施する予定がなく、決定したのは公開直前だった。公開後に副音声コンテンツの情報解禁をすることで、「リピートに繋がるよう仕掛けています」と小林さんは語る。
同社によるオーディオコメンタリーの副音声をつけた最新作は、2023年10月20日公開の中島健人さん主演、堤真一さん共演の『おまえの罪を自白しろ』。公開後、11月3日から水田伸生監督と中島健人さんによる各シーンの裏話や演出秘話を語る副音声上映を行なった。
本作に関しては、上映開始の2週目に情報を解禁。その週末から上映を開始した。情報が広がるよう、メディア向けのリリースや提供素材などを工夫。作品を象徴するシーンについて中島さんが話をしているサンプル映像を公開した。