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NTT法を巡る議論の中でNTTは通信インフラを支える責任と説明を果たしているのか?

2023.12.25

NTTは日本の通信インフラを支える責任感を考え直して欲しい

 わずか半年ほどの間に、急速に議論が拡大することになった「NTT法の在り方」だが、かなり唐突に議論がスタートした印象が強く、KDDI、ソフトバンクの関係者も「晴天の霹靂と言えるくらい突然だった」と話している。しかも自民党の萩生田政調会長が掲げた「防衛財源確保のため」というお題目は、2023年12月にまとめられた『「日本電信電話株式会社等に関する法律等」の在り方に関する提言』の段階で消えてしまい、何のためにNTT法の在り方を議論していたのかすら、不透明になりつつある。

 NTTは今後、IOWNを武器に、グローバル事業の競争力強化を狙っており、「GAFA」に対抗していくために、NTT法の制限はなくしたいとしているが、改めて歴史的な経緯を踏まえつつ、これまでの流れを振り返ってみると、一連のNTTとしての言動や姿勢には、日本の通信インフラを支える企業として、不誠実さが感じられてしまう。

 確かに、NTT法は40年近く前に作られた法律であり、内容が古くなっている部分もあるだろう。加入電話を対象としたユニバーサルサービスも今の時代なら、光回線をはじめとした高速インターネット回線(ブロードバンド回線)を含めて、考えた方が将来のためにもなる。かつてはすべての電気通信サービスにおいて、NTTが中心的な存在だったが、この二十年ほどを振り返ってみると、PHSサービスではDDIポケットがトップシェアを取り、ADSLサービスではYahoo!BBが市場をリードするなど、NTT以外の企業が市場の主役になるケースも見かけるようになった。こうした状況を踏まえれば、NTTが自らに課せられたさまざまな義務や制限を外し、もっと自由に戦いたいと考えることは、自然な流れだ。

 ただ、NTTという会社が電電公社から生まれ、電電公社から継承した特別な資産を持っていることは、変えられない事実だ。もし、NTT法を廃止したいのであれば、こうした特別な資産をはじめ、多くの国民が支払った施設設置負担金も含め、返却することも考えなければならない。しかし、「7万2000円×6000万回線」に相当する4兆円もの資金を用意することは現実的ではない。

 また、NTT側から見ても現在の各社の通信インフラにとって、NTTの局舎や管路、洞道、電柱などが欠かせないものであることも理解しているはずだ。にも関わらず、政府与党の一部の議員に働きかけるなどのロビー活動によって、NTT法の廃止を実現しようとする姿勢には、日本の通信インフラを支える責任感があるのかと、問いただしたくなる。

 本稿執筆時点(2023年12月13日)には、総務省でNTT法の見直しなどを話し合う通信政策特別委員会が開催され、各キャリアのトップも出席したが、その席でNTT持株の島田明代表取締役社長は、出席した委員の質問に対し、「2025年にNTT法の廃止は私どもが言っているわけではなく、自民党の政務調査会が出した報告書に書かれていること」と答えている。言い方は悪いが、これまで政府与党に働きかけておきながら、通信業界各社や地方自治体などの猛烈な反対に遭い、頼りにしていた議員が派閥の政治資金パーティ券収入のキックバックで更迭されそうになったことを受け、「自分たちが言ったわけではない。彼ら(自民党)が勝手に言ってるだけ」とばかりに、責任逃れのような発言をしている。

 もし、本当にNTTがNTT法に定められた責務や制限を減らすため、時代に合った形に修正し、自らが活動しやすくしたいのであれば、働きかける相手を間違えている。本来の相手は国内外の通信事業を理解し、お互いに切磋琢磨している同じ通信業界のKDDIやソフトバンク、楽天モバイルをはじめとした各通信事業者であり、彼らとヒザをつき合わせ、これからの日本の通信インフラをどのような形にしていくのかを話し合う方が建設的ではないだろうか。KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの関係者によれば、これまでそういった話はまったくなく、今年の夏の段階で突然、「NTT法廃止」が掲げられ、かなり驚いたという。日本の通信業界を代表する盟主でありながら、他社と話し合う働きかけすらできない状況で、グローバルの市場で戦っていけるのだろうか。

 ここ数カ月の各社の動きを振り返ってみると、本来なら、お互いに競争相手であるKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、事ある度に会見や説明会を催し、一人でも多くの記者、読者、視聴者に問題点を理解してもらえるように説明をくり返し、記者説明会をYouTubeで配信するほどの積極的な姿勢を見せた。

 対するNTTグループはどうだろうか? 決算会見などでコメントを述べたものの、NTT法の議論に関する会見は、他の3社と同日同時刻開催となった2023年10月19日のみで、それ以外にメディアを通じて、国民に理解してもらおうとする機会は、一度もなかった。NTT法の在り方は本来であれば、自分たちの行く末を大きく左右する(左右したい)議題なのだから、自らが国民に語りかけなければ、理解を得られないはずだ。今後、NTTをはじめ、各社がどのように情報を発信し、国会でどのように審議されているのか、私たちもしっかりと見極めるようにしたい。

取材・文/法林岳之

Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。

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