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はてしない欲望に応え続けるポルシェの最強モデル「718ケイマン」が誘う世界

2023.12.29

 ポルシェがいかなるスポーツカーであるか? それをもっとも端的に示す、いわばブランドのエントリーモデルとして重要な役割を持つミドシップスポーツ「718ケイマン」。全身に充満するポルシェイズムは、多くのスポーツカーファンの期待に応え続けているが、それでも飽き足らず「さらなる高みを求める声」に応えるため、新たなハイパフォーマンスモデル「GT4 RS」を投入。最大の注目点は「ポルシェ911 GT3」と同じエンジンを搭載していること。オーバースペックを懸念しながらも、エンジンをスタートさせたその先にはいったいどんな世界が見えるのだろうか?

0-100km/hの加速が3.4秒、最高速315km/hと、そのパフォーマンスはサーキットスペック。

五感を刺激する危険な香りが漂う

「人はどんなに悲しく苦しいときでも、腹は減るし、飯も食う」。人間の根源的な欲望を表現するときに、よく聞くフレーズだと思う。そしてもし、この後に続ける言葉があるとすれば「涙しながらも飯を食い、己が欲望の深さを笑ってしまう」といったところだろうか。本当に人間とは「なんとも欲深きものよ」と、改めて自戒する瞬間だが一方で、さらに欲求を満たしてくれる存在が目の前に現れれば、間違いなく、手を出してしまうだろう。

 本来、あまりに危険な香りのする「718ケイマンGT4 RS(以下、GT4 RS)」には手を出すまいと思っていた。2015年の12月、それまでのボクスター&ケイマンの車名に、往年の名レーシングモデル「718」の名を冠し「718ボクスター」&「718ケイマン」として登場以来、ノーマルでも十分、刺激に溢れたスポーツカーだと思っていたからだ。年々進化を重ねながら現在に至ったポルシェのエントリーモデルは、素の状態でも、ほぼすべてのシーンで718の名に恥じない、切れ味鋭い走りが楽しめ、こちらの期待を裏切ることがなかったのだ。

 ところがそんな殊勝な気持ちもすぐに崩壊する。ポルシェの流儀からすれば、ノーマルが登場すれば次は、より高性能なボクスターSやケイマンS、さらにはGTSといったモデルを追加してくるだろうことは、容易に想像できた。現実でも期待どおりにラインアップの充実は予定どおりに行われ、718シリーズの魅力を増幅させていく。全身に充満するポルシェイズムは、多くのスポーツカーファンの期待に応え続けているが、それでも飽き足らず「さらなる高みを求める声」に応えるためたのだが、問題はそれで終わらなかったことだ。その後にも「GT4」や「GTS 4.0」といった、400馬力から420馬力といった水平対向6気筒エンジンを搭載したモデルを投入してきた。そしていま、ステアリングを握っているGT4 RSは、ノーマルの300馬力から200馬力アップというパフォーマンスアップを果たし、500馬力というスペックを誇らしげに誇示しているのである。ここに来ての、まるで焦燥感を感じさせるようなスペックアップは、まさに内燃機関時代のエピローグのようにさえ見えてくる。そんな一抹の寂しさを感じつつも、五感は正直なもの。本当は乗りたくない、手を出したくはなかったと言いながらも、エンジンをスタートさせ、走り出してしまえば、体のど真ん中にある「速さ」を希求する欲望がしっかりと熱くなっていくのである。もはや「素で満足しなさい」と、自らを抑制して過ごしてきたことなど忘れている。

欲望に従っても後悔なし、と思わせてくれる仕立ての良さ

 GT4 RSのエンジンといえば、911 GT3(以下、GT3)に搭載された510馬力の4L水平対向6気筒エンジンに由来するもの。馬力こそGT3より10馬力低いスペックではあるが、ほぼ同じような性格のエンジンといっていい。それを理解した上で、GT3とのパワーウエイトレシオ(馬力あたり重量)を比較してみる。GT3の2.81kg/PSに対して、GT4RSは2.83kg/PSとほぼ互角である。ちなみに国産最強の日産GT-R は車重1760kgで570馬力ということで3.09kg/PSだ。確かにパワーウエイトレシオだけで走りのテイストが決まるものではないが、スポーツカーの走りの素性を決定するためには、重要な要素であることには変わりがない。

 当然のことだが、敢えて乗りたくないと思いつつも、一度手にしてしまえば欲求に歯止めなどなかなか掛けられるものではない。GT4RSのアクセルをガツンと踏み込めば、研ぎ澄まされたカミソリで空気を切り裂くような鋭さで一気に加速し、あっという間に制限速度に達する。重量物を力ずく押していくGT-Rの、怒濤のごとくの加速感とも少し違う。もちろん同じポルシェとはいえ、RR(リアエンジン・リアドライブ)とも、また違った感覚なのである。GT4RSの、全身で軽さと軽快さを感じながらの加速と、レーシングカー的な硬さとしなやかさをバランスさせながら、4輪がきれいに路面をトレースしていくコーナリングはなんとも心地がいい味。相当な無理さえしなければ、ミッドシップならではのニュートラルな安定感を維持しながらハイアベレージで駆け抜けてくれる。

 そしてしばらくともに過ごすと、すっかりこの凶暴さを受け入れているのだ。これほどのサーキットスペックを、ここまで安心して公道で楽しめるなら、少々乗り心地が悪くとも「由としよう」と納得している。さらに、ドライバーの背後にあるフラットシックスから容赦なく、まるで頭上から降り注ぐように響いてくるけたたましいエンジンサウンドさえも、ちょうどよい演出と感じてしまうのだ。路面のうねりや凸凹に抗おうとする足の硬さも、少々賑やかな音も「必然」として許してしまっているのである。

 いや、待て、待て……。危うく騙されるところであった。少し冷静に考えてみようと、強烈なストッピングパワーを持つブレーキを作動させて速度を落とし、ゆったりと流してみる。するとどうだ、ノーマルほどの平穏さはないが、それなりに快適なのである。これほど獰猛なるスペックを秘めながらも、垣間見せる優しさが、またしても欲望を刺激してくる。気が付けば、人の欲望をここまで高いレベルで満たしてくれるGT4RSに、跡形もなくやられてしまっている。ノーマルでも十分と思っていたあの思いはどこへ? 際限のない欲望を恥じながらも、「それも人間の本質」と、自らを納得させようとしていることに気が付くのである。

アークティックグレーというボディーカラーと各種エアロパーツにより、一見しただけでも実力が理解できる。

「ヴァイザッハパッケージ」という軽量化を追求したインテリア。Race-Tex素材のダッシュボード装飾やチタン製ロールケージなどを装備。

滑りにくいRace-Tex、サテンカーボン織目模様仕上げのデコレーティブトリム、ドアプルループなど、インテリアの素材とディテールは、モータースポーツに由来する仕上げ。

必要な情報を瞬時に把握できるアナログメーター。

マニュアルシフトレバーのように見えるGT特有のデザインのPDKセレクターは直感的なギアシフトが可能。

スワンネック式の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製大型リアウイング。サーキット走行時などは手動によって設定可能。

サーキットマシンとしての外観を演出するだけでなく、固定式リアウイングとともにリアディフューザーが大きなダウンフォースとトラクションを実現。

20インチの鍛造マグネシウムホイールもオプションで選択可能。4本で10kgの軽量化を実現している。

非常に軽い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製のボディパーツをエアインテーク部分に惜しげもなく装備。

リアハッチを開けるとエンジン後方には広くはないがラゲッジが用意されている。

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製のフロントリッドの下には深さのあるラゲッジスペースを装備。

(価格)
20,240,000 円~(Cayman GT4 RS/税込み)
(スペック)
全長×全幅×全高=4,456×1,822×1,267mm
ホイールベース:2,482mm
車重:1,415kg
最小回転半径:11.4m
最低地上高:未公表
トランスミッション:7速AT
駆動方式:MR
エンジン:水平対向6直列4気筒エンジン 3,996cc
最高出力:368kW(500PS)/8,400rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/6,750rpm
燃費:13.2L/100km(WLTPモード)
問い合わせ先: ポルシェコンタクト電話:0120-846-911

TEXT:佐藤篤司
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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