毎年、アニサキスによる食中毒が数多く発生している。生の魚(刺身)に寄生しているアニサキスを取り込むことで胃壁や腸壁に刺入し発症する寄生虫症のことだ。
激しい腹痛や吐き気、嘔吐などの症状が現れ、今のところその特効薬はないと言われている。食中毒の中でもアニサキスが原因となるものは全体の4割に上ると厚生労働省も指摘している。
参考:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/f_encyclopedia/anisakis.html
そんな、日本の生食文化の“天敵”を一掃しようと熊本大学の研究チームが魚に潜むアニサキスを電力で殺虫する装置を開発した。手掛けたのは熊本大学産業ナノマテリアル研究所の浪平隆男准教授を始めとする共同研究グループ。
これまで、冷凍や除去でしか太刀打ちできなかったアニサキスを死滅させる装置とは一体どんなものなのか?今回、浪平准教授に話を聞いた。
――アニサキス殺虫装置開発の経緯を教えてください。
「きっかけは2017年、アジの生食用加工を手がけるジャパンシーフーズさんからの相談でした。生食用の魚でのアニサキス被害が増えているからなんとかしたいと。私自身、電気工学が専門で電気エネルギーの新しい使い方を研究していたので、パルスパワーを使えないかなと思ったんです」
――なぜパルスパワーを?
「ちょうどその頃、海底に住むウミグモという有害生物の駆除に取り組んでいて、その際使っていたのがパルスパワーでした。ウミグモも退治できるパルスの大きな電流ならアニサキスもいけるのでは?と思い、チャレンジしました」
そもそもパルスパワーとは蓄積したエネルギーを瞬間的に放出することで、化学エネルギーや電気エネルギーなど様々なところで発生するものなのだが…浪平先生、わかりやすく教えてください。
「化学エネルギーでわかりやすいのは花火ですね。化学物質として蓄えられたエネルギーを瞬間的に燃やして発光しますし、運動エネルギーで言えば釘打ち。ハンマーを振り落とすことで運動エネルギーが生まれ、その力が釘に当たった瞬間、全部釘に移行する。そのエネルギーもパルスパワーなんです」