1970~1980年代に「ボーイズレーサー」という言葉が流行った。コンパクトなボディーに強力なエンジンを搭載し、格上のスポーツカーやGTカーを走り負かす性能を持つ2BOXカーのことをこう呼んだのだ。このブームは日本だけでなく、ヨーロッパでも発生していた。日本ではコンパクトカーブームがおさまると同時に、ボーイズレーサーも次々と姿を消した。しかし、ヨーロッパでは根強くこの文化は残り、現在でもいくつかのメーカーはコンパクトなスポーツモデルを発表している。
今回のアバルトは「Tributo 131 Rally」
イタリアのフィアット傘下にあるアバルトは、こうしたチューニングコンパクトカーをつくらせたら世界でもトップクラスのメーカーだ。最近ではフィアット「500」をベースに、キビキビした走りのモデルを次々に発表し、限定車として日本市場に送りこんできている。
現行フィアット「500」といえば2007年に登場し、マイナーチェンジを受けながら、今でも生産されているコンパクトカー。アバルトは「500」をベースに2003年にデビューした。「595」と「695」のシリーズがある。高性能なのはアバルト「695」で、直4、1.4Lターボは180PS、230Nmガソリンエンジンをフロントに搭載し、5速MTが用意されている。
前置きが長くなったが、今回のアバルトは「Tributo 131 Rally」。アバルトは1970~1980年代にWRC(世界ラリー選手権)にもマシンを送りこんでいた。それがフィアット「131 Rally」。フィアットの4ドアセダンをベースにラリーチューンし、1978、1979、1980の3年間にわたりマニュファクチュアラーズチャンピオンを獲得した。そのマシンをトリビュートしている。その3年間から40周年を迎えたということで、当時の「131 Rally」のイメージをアバルト「695」に採り入れてたというのだ。
アバルトマニアにとっては、Tributoモデルも興味あるが、それよりもセンターパネルに設けられたサソリマークのスイッチの設定のほうに興味がいく。このスイッチはONで3000回転からのエンジンレスポンス、エキゾーストノートなどがスポーツモードになる。
パワーは変わらないが、トルクはノーマルが230Nm/2000rpmから250Nm/3000rpmをアップするのだ。3000回転以上のクォーンというサウンドをヒビカセながらの加速は、耳も気持ちも高ぶらせてくれる。さらに、ルーフ後端には12段に角度を調整できるアジャスタブルリアスポイラーが装着された。このスポイラーを立てると「ABARTH」の文字が後続車から見える、という演出もされている。
今回の「Tributo 131 Rally」モデルは5速MT車だけの設定。5速MTは踏力が重く、反発力の強いクラッチと、やや短めだが重めのシフトフィーリング。高さが固定されているSabelt製のRally専用スポーツシートは、やや低めのセッティング。リクライニングはダイヤル式だが、スポーツシートのサイズが大きいので、ダイヤルの調整は、ドアを開けなければ手が入らない。実用性よりスポーツ機能重視だ。