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スマホで動画を撮るような手軽さで人気急上昇!キヤノンのVlogカメラ「PowerShot V10」誕生の舞台裏

2023.12.17

2023年6月、キヤノンからVlogカメラ「PowerShot V10」が発売された。片手で撮影できるコンパクトさと手頃な価格から、これまでカメラに馴染みのなかった層から注目を集めている。

今回は、キヤノン株式会社でPowerShot V10の商品企画を担当した市村 菜々香さん、商品企画責任者の早川 香奈子さん、開発担当の吉田 貴志さんの3名に商品誕生の裏側についてお話を伺った。

*本稿はインタビューから一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。

初めてカメラに触れる人でもすぐに使える圧倒的な手軽さ

PowerShot V10の特徴について、商品企画担当の市村さんは次のように語った。

「初めてカメラに触れる人でも、気軽に使い続けやすいカメラです。片手で持てるサイズ感で、縦型仕様。スマホのような感覚で操作ができます。手に馴染みやすい、凹凸の少ない丸いフォルムも特徴の一つです。使い続けるほど愛着を持っていただけるカメラだと思います」(市村さん)。

一般的に、カメラは両手で持ち、本体の上部にあるボタンを押して撮影する。しかし、同製品では、カメラの正面側に録画ボタンを配置。片手での操作が可能だ。また、内蔵のスタンドでカメラの角度が自由に調整でき、自撮りや料理撮影の際の「置き撮り」もできる。

スマホユーザーに寄り添った商品開発

今回キヤノンがPowerShot V10の開発に至った背景について、市村さんは次のように振り返る。

「スマートフォンを使って、静止画や動画を撮影する人が増えている背景から、カメラメーカーとして、カメラの魅力や、カメラで撮影すること自体の楽しさを伝えたいという想いがありました。今回は特に『動画を通して自分らしさを発信したい方』に向けた商品を開発することを決めました」(市村さん)。

ユーザーへのヒアリングを通し、「製品の大きさ」にもかなりこだわったという。

「普段スマホで動画撮影をする方からは、『カメラは使いこなすのが難しそう』『大きくて持ち歩きにくい』といった声がありました。また、街中や店内で撮影する際、『カメラだと撮影している感じが出過ぎて恥ずかしい』という声もあったんです。そこで、持ち運びやすく、かつ街中で撮影する際にも馴染むサイズにこだわりました」(市村さん)。

今回の製品開発では、スマホユーザーにとって使いやすいカメラ作りを意識したという。

「開発の初期段階では、横型のカメラが想定されていました。ただ、横型だと長時間の撮影でブレやすいという課題があったんです。縦型であれば、持っている手と重心がブレずに撮影できます。また、スマホで行う動画撮影では『スマホの容量を圧迫する』『バッテリーが減りやすい』『動画撮影中に連絡が来た際、撮影を中断しなければならない』といった課題がありました。そういった声を解決できるよう、スマホユーザーの方が、スマホと一緒にカメラを使うことを想定して企画を進めました」(市村さん)。

新しいターゲットを想定した商品開発での苦労

キヤノンとしては初となる、Vlogカメラの商品開発。開発にあたってさまざまな困難があったという。カメラの部品一つに対し多くのパターンを設計したと、開発担当の吉田さんは振り返る。

「例えば、スタンドの設計にしても、何種類ものアイデアを出して、そこから絞り込んでいくのが大変でしたね。ターゲットユーザーの使いやすさと作りやすさの両方の観点から検討を重ね、現在の仕様になりました。また、マイクの向きも初期から最終形態になるまでに大きく変更しました。マイクが前を向いていると、被写体側からの音声を取りやすく、映る方の音声が優先されます。一方、マイクを上に向けると、映る方と撮影する方の両方の声をキレイに拾えるんです。最終的には、全体的な環境音なども含めて綺麗に音が拾えることも考慮し、マイクは上向きがベストだと判断しました。」(吉田さん)。

今回は、通常の製品に比べ開発&アイデア出しに多くの時間をかけたと、企画責任者の早川さんは次のように話す。

「通常のカメラ開発時は、前機種に対してサイズやスペックを変更するなど、検討する際の物差しがあります。ただ、今回は新たなユーザーに向けた製品開発だったため、スペックでは表しきれない価値をどこで提供するか、どういったポイントを優先すべきかなどから考える必要がありました。イレギュラーな企画を進める中で、全メンバーの意識を合わせながら開発を進めていくことの難しさを感じましたね」(早川さん)。

大きな役目を果たした初めての「コンセプトブック」

開発が進むにつれ、さまざまな部門から多くのメンバーが携わるようになる。企画当初の価値観をブレずにメンバーに伝えるため、初めて「コンセプトブック」を作成したという。

「PowerShotV10のメインターゲットはこれまでキヤノンが出してきたカメラに馴染みがある方ではありません。そこで、チームメンバーにその価値観を共有するために、企画意図やターゲットユーザー、利用シーンなどを具体的に記載した『コンセプトブック』を作成しました。それを見れば、新しいPowerShotV10がお客様にどのような価値を提供できるか、その企画意図がわかるようにしたんです」(市村さん)。

コンセプトブックは、開発担当メンバーに機能の追加を要望する際に大きく役立ったという。開発メンバーである吉田さんは、コンセプトブックについて次のように振り返る。

「コンセプトブックを渡されたのは、今回のプロジェクトが初めてでした。企画チームの意気込みを感じましたね。開発メンバーが増えていく中、私自身、新メンバーに上手く価値観を伝えきれないと感じる場面もありました。ただ、コンセプトブックがメンバーとの意思疎通をする際に役立ち、通常の商品開発時より、新しいことを進めやすかったです」(吉田さん)。

初めての動画撮影でPowerShotV10を手にする人も

PowerShotV10の販売後は、社内外問わず多くの方から高評価を得ているという。

「販売後、多くのメディアやインフルエンサーの方に取り上げていただきました。幅広い年齢層の方にご利用いただいており、店舗では70代の女性にもご購入いただけたんです。その方からは、PowerShotV10を購入し、初めて動画撮影するようになったとコメントをいただき、本当に嬉しかったですね」(市村さん)。

今回はカメラに馴染みのない層をターゲットにしていたため、価格を抑える点にもこだわったという。

「価格設定は少し無理をしています。ただ、この価格帯じゃないと届かないユーザーの方がいらっしゃるのも事実なので、今回の開発でこだわったポイントの一つですね」(早川さん)。

低価格を実現するため、製作コストは限られていた。開発担当チームは、その制約の中でも「良いものを作ろう」と意気込み、それを実現した時には、大きなやりがいを感じたという。

細部に散りばめられた開発者たちのこだわり

キヤノンとしては新たな挑戦となったVlogカメラの開発。完成したPowerShotV10には、細部にさまざまな工夫が施されている。

「ユーザーの皆さまが、使い方がわからないという状態を避けるべく、『使い方を知らなくても、使っている間に使えるようになった』と感じていただけるような製品作りを目指しました。そうした私たちの想いが、製品の細部に込められていると思います」(吉田さん)。

ユーザーがより自分らしさを表現しながらも仕上がりの良さを追求できるよう、カラーフィルター機能を搭載したのもこだわりの一つ。また、料理動画などの撮影がしやすいよう、自動検知でモニター映像を反転させる機能も備わっている。

ユーザーの声を聞きながら今後もブラッシュアップしていきたい

今回、企画責任者を務めた早川さんは、開発全体を振り返り次のように語る。

「いつもと異なる商品開発をする際は、全メンバーが一つの方向を向いて進むことの重要さを改めて強く感じました。キヤノンでは、社内だけでなくユーザーの皆さまの声を開発のスタート地点にしています。今後もユーザーの皆さまの声を聞きながら、製品のブラッシュアップや、今後の新製品開発に役立てていきたいです」(早川さん)。

PowerShotV10は、多くの議論を重ねながら開発が進められ、開発に携わったメンバーの熱い想いが込められた商品となった。今後も、キヤノンは、動画投稿やライブ配信向けの動画重視機の市場で、ユニークな特徴を持った製品を拡大していく予定だという。

キヤノン PowerShot V10公式サイト

取材・文/久我裕紀

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