DIME読者の皆さーん。ちょんまげ小僧、流行していますねえ。そう、中学生YouTuber集団「ちょんまげ小僧」ですよ。
これほど純度の高い子供発信コンテンツはあったか?
え? 知らない? でしたら「ひき肉です!」は聞いたことありませんか。その自己紹介の様子がバズって今やチャンネル登録者数150万人超の人気YouTuber集団です。メンバー全員福岡の中学1年生、メンバー名も変で「イソ・ギンチャク」や「右足」、そして「ひき肉」など。
まあ動画の内容は近所のゲームセンターで対決したり、公園で他愛もないゲームをしたり、と。私はちょんまげ小僧でしか摂れない栄養素があるなあと感じているのですが友人に見せたところ「共感性羞恥で爆ぜそう」と。確かになんの計画性も企画性もないし、ヤマもなければオチもない。まだ声変わりをしていないメンバーもいる彼らのワチャワチャはかつて我々が通ってきたあの道。ちょっと忘れたいような黒歴史にも似たものが映像化されている。確かに共感性羞恥な部分はあるのですが、それすらも魅力なわけです。にしてもメンバー「ナマズ」による編集は本格的で、その編集能力を称える声も多いです。
瞬く間にYouTube界のスターへとのし上がった福岡の地方の中学1年生。ご存じのとおりインターネットは魔窟。本来なら彼らに向けられるはずではない悪意のあるコメントや嫉妬、からかいによる晒し行為などもあるようで正直気の毒な部分はあるな、とは感じるのですが、今までこれほど純度の高い子供発信コンテンツはあったでしょうか。今まで天才子役と呼ばれる人気の子供はあまたいましたがコンテンツを自分たちのみで作って、自分たちで発信してここまで人気になった子供はいないと思います。同じYouTuberでも人気キッズチャンネルの子供たちもいますが、企画編集は親とか大人とかだったりするんですよね。その点でもちょんまげ小僧は革命的な存在だと思います。
さて。日本の芸能界には常駐的に人気の子供がいるものです。少し振り返ってみましょう。遡れば、美空ひばりさんは印象的な子供でした。大人顔負けの歌声とパフォーマンスで世間の度肝を抜き、戦後日本のエンパワーメントとして目覚ましい活躍をしたと見聞きしております。「大人顔負け」と今表現しましたが、やはり「大人VS子供」という構図あってこそ、だと思うんですね。「子供であるひばり少女が、大人のモノマネをして背伸びしている」という部分に愛らしさを感じた人もいたのではないでしょうか。悲しき口笛のシルクハットにタキシードもそうですし、少女役で出演した映画のシーンも歌い出すといきなり「大人」のよう。そう考えると『おしん』で人気になった小林綾子さんも「子供なのに大人みたいに働かされている姿が愛おしい」だったかもしれませんね。『家なき子』の安達祐実さんも同じく。ちょんまげ小僧のような無邪気でおバカな本来の「子供らしさ」はコンテンツにならないと思われていたのでしょうか。
昨今に近づけば近づくほど、「子供らしさの排斥」の傾向は薄くなっていると感じます。『マルモのおきて』でブレイクした芦田愛菜さんと鈴木福さんの演技プランは決して大人びたものではなかったですし、大ヒット曲『マル・マル・モリ・モリ!』もお遊戯会感満載のチャーミングな曲でした。美空ひばりさんの歌唱とは真逆です。とはいえ寺田心さんはあのおぼこいルックスと「大人顔負け」な知的な返答のギャップが喜ばれましたし、最近人気の村山輝星さんもしっかりとしたコメント力が評価されています。やはりそれは大人たちが作ったコンテンツに子供が出演しているという構図によるものだからだと思います。大人になることにより身につけた「常識」が実は「通念」であり絶対ではないのですが「子供をエンタメに使うには、こう」という刷り込みがあるのでしょう。その点、ちょんまげ小僧はすべてから解放され、しかもそれがウケている。「子供騙し」なんてばかにせず一度観てみてください!
文/ヒャダイン
ヒャダイン
音楽クリエイター。1980年大阪府生まれ。本名・前山田健一。3歳でピアノを始め、音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、本格的な作家活動を開始。様々なアーティストへ楽曲提供を行ない、自身もタレントとして活動。
イラスト/ニシダミク
※「ヒャダインの温故知新アナリティクス」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME1月号に掲載されたものです。