アドビでは、PDFの閲覧や編集などでおなじみの「Adobe Acrobat」をはじめ、写真家やイラスト作家が御用達の「Adobe Photoshop」「Adobe Illustrator」なども展開している。これらのノウハウを活用した、一般的な人でも使いやすいクリエイティブなデザインアプリとして注目したいのが「Adobe Express」だ。
プロが制作した豊富なテンプレートおよびデザイン素材と、直感的に編集できるユーザーインターフェイスにより、企画書やプレゼン資料を簡単にレイアウトできるのはもちろん、Instagram、Facebook、YouTubeといったSNSに投稿する画像やショート動画を作るのもお手のもの! 基本的な使い方はもちろん、プロのイラストレーターsowsow(ソウソウ)さんのレビューを交えた便利な活用法についても紹介しよう。
【基本的な使い方解説】
SNS、チラシ、TikTokなどの素材を誰でも〝無料〟で簡単に作れる
Adobe Expressの最新版は、PCのブラウザ上で利用することができる。マイクロソフト「Microsoft Edge」をはじめ、グーグル「Google Chrome」、アップル「Safari」などのブラウザーに対応している。初めて使う時には、アドビ IDを作成して(登録無料)、ログインすればOK。すでにアドビ IDを持っている人であれば、登録済みのメールアドレスなどを入力すればいい。
ログイン後にトップ画面を開くと、上記のような画面が表示される。ご覧頂くとわかるように「Instagram投稿」「TikTok動画」のように目的別のメニューを用意。「やりたいこと」に合わせて始められるようになっている。
各メニューには豊富なテンプレートが用意されている。例えば「Instagramストーリーズ」では、1万件以上のテンプレートから選べるようになっている。
テンプレートに組み込まれている写真やイラストは、商用利用が可能なので自由に使ってOK。自分が持っている写真を追加したい時には、デバイスからドラッグ&ドロップするだけと簡単だ。
テンプレートに配置された素材の移動やサイズ変更も思いのまま。「Instagramストーリーズ」にある動画のテンプレートを開くとタイムラインが表示され、オブジェクト別に表示するタイミングなども調整できる。
最近では企業でYouTubeを運用する担当者にも役立つ機能が盛りだくさん。例えば、上記のようにサムネイルのテンプレートも用意されており「アバンギャルド」「オーガニック」「カラフル」といったスタイルから、イメージに近いサムネイルのテンプレートを探すことができる。
写真を加工する機能が充実している点も見逃せない。いわゆる〝キリヌキ〟も簡単で、作業スペースの写真を選択後に「背景を削除」をクリックするだけ。認識精度も高くて実用的だ。
アドビ IDを持っていれば無料で使えるAdobe Expressだが、プレミアムプランに切り替えることで、利用できる編集機能や素材の数が追加される。月額1078円の「プレミアムプラン」では、すべてのプレミアムテンプレートや1億9500万点以上のAdobe Stockコレクションなどの素材をすべて使用可能。30日間無料で体験できるので、気になる人は試してみるといいだろう。
【編集タジリの仕事にも便利!】
素材を配置するのが簡単で誌面のラフづくりに活用できる
DIME編集部のタジリは日頃、スライド作成ソフトで記事のレイアウトを考えたり、デザイナーに渡す素材をまとめたりしている。同じような作業をAdobe Expressで行なえるかどうか試してみたところ「十分使えそう!」というのが率直な感想だ。
前述のとおり、文字や写真の配置を自由に動かせるだけでなく「この写真を最前面に」「地に敷く写真を最背面に」といった〝レイヤーの配置〟を、サムネイルを確認しながら簡単に行なえるようになっている。「背景を削除」の精度が高く、デザイナーに渡すラフを作るうえで写真を切り抜くのには申し分ないレベルだ。
しかも、日頃使っているビジネスソフトの場合、写真をたくさん貼ると挙動が重たく感じることが多いが、Adobe Expressは問題なし。素材をたくさん貼っても挙動はほぼ変わらないように感じた。サクサクと動くので、例えばページデザインの方向性を考える際、素材の配置やサイズなどを動かしながら、あれこれ考えるのにも良さそうだ。
Adobe Expressには、実はPDF形式のファイルを取り込む機能も用意されている。例えば、上記のように、ビジネスソフトで作ってPDF形式に変換したラフを取り込むと、各オブジェクトを移動させたり、文字を編集したり、Adobe Expressに用意されているデザイン素材を追加したりできるようになり、ラフデザインをさらにブラッシュアップできるというわけだ。
【イラストレーターsowsowさんも納得!】
プロのクリエイターにイメージを伝えるなど共同作業に利用できるのも便利!
カードゲームのイラストや商品パッケージのデザインなどを手掛けるイラストレーター・sowsowさん(写真の左)にもAdobe Expressを試してもらったところ「デザインのイメージを考える際、手軽に使えるのがすごくいい」(sowsowさん)とのこと。
Adobe Expressにはリアルタイムでファイルを共同編集できる機能が搭載されている。例えば、自分と相手が別々の場所にいても、共有されたAdobe Expressのプロジェクトを開いて、同時に作業できるようになっている。
「例えば、今回のようにSNS用のコンテンツを、編集者と一緒に作る場合に『正月っぽい背景ならこっちの素材のほうがいいのでは?』『数の子のイラストの大きさをもう少し小さくしましょう』といったことを、メールや手書きのラフなどで提案しようとすると、うまく伝わらず、やりとりに時間がかかってしまうこともありますよね。でもAdobe Expressなら、共有している画面の素材を実際に動かしたり差し替えたりして『これはどうですか?』と聞けるし、相手の共有している画面でもリアルタイムですぐに反映される。お互いの意図が伝わりやすく、すごく共同作業がしやすいと思いました」(sowsowさん)
sowsowさんのようなプロのイラストレーターと仕事をする編集者の視点で見れば、自分の考えを伝えるに当たり、写真や手書きのスケッチを配置する場合は、ほかのソフトだと挙動が遅くなりがちでスムーズに進まないことも多い。しかも、伝えたいイメージをゼロから作るのも結構大変だ。それに比べてAdobe Expressは〝キリヌキ〟が簡単にできてレイヤーを入れ替えるのもスムーズ。素材も豊富に揃っているので、作業時間を大きく短縮できるメリットがある。
プロジェクトを共有したい際には、画面右上の「ファイルの共有」を選択。共有する相手として追加したい、名前またはメールアドレスを入力する。
相手の名前またはメールアドレスを入力したら「編集可能」「コメント可能」のいずれかの権限を付与できる。「編集可能」にすれば、オブジェクトの移動をはじめとする共同作業が可能だ。
画面を共有中の編集画面。例えば、編集担当のタジリがイラストの位置を動かすと、sowsowさんの画面上でも反映され、動かしている編集担当のタジリの名前も表示されるという仕組み。
今回、sowsowさんの作品「宝石ねこ」を使ったアニメーションの共同作業を、上記のようにAdobe Expressで挑戦。
まずは、12種類の「宝石ねこ」に、1種類の「大吉ねこ」を加えた13種類のイラストをsowsowさんがプロ用のデザインソフトで作成。Adobe Expressの編集画面上に貼り付けてもらった。この際、PSD形式のイラストを編集画面上に貼り付けるのは、ドラッグ&ドロップすればOK。素材を取り込むのは実に簡単だ。
次に、編集担当のタジリが共有されたプロジェクトの編集画面を開き、sowsowさんのイラストを「背景を削除」で〝キリヌキ〟。画像の認識精度が高く、ねこの輪郭に沿ってきれいに背景を削除できた。あとは、sowsowさんの絵柄に合うような正月らしい背景とデザイン素材を、編集担当のタジリが選択。イラストと組み合わせてみて「いかがですか?」とsowsowさんに連絡する。
今度はsowsowさんが、共有プロジェクトの編集画面をチェックし、各素材の配置を自ら微調整して「この素材のほうがよくないですか?」とフィードバック。「大吉」「小吉」の書体などについても確認し合う……といったような手順でSNSのコンテンツが完成! お互いに共有されたプロジェクト上で手直しできるため、共同作業が驚くほどはかどるというわけだ。
正月らしいイラスト素材もAdobe Expressにはたくさん揃っている。伊達巻や黒豆などを、ねこの隣に配置するなど、デザインのアクセントとして加えるのもいいだろう。
Adobe Expressでsowsowさんと共同編集した後に、上記のようなアニメーションが完成! Xに投稿すればタップすると止まるおみくじのように楽しめるのがポイント。2024年の年始に公開するので「大吉」が引けるかどうか、ぜひ試してみてほしい。なお、このデザインはX投稿用のテンプレートをベースに作成したもの。
デザインに自信のない人からプロのクリエイターまで幅広いユーザーが活用できる、無料アプリのAdobe Express。ビジネスから趣味まで、様々なシーンにぜひ活用してみてほしい。
Adobe Express
www.adobe.com/jp/express/
イラストレーター
sowsowさん
https://twitter.com/sowsowkoubou
東京都在住。 東京造形大学 グラフィックデザイン専攻卒業。バンダイナムコグループのデザイン会社にてテレビ番組、玩具、雑貨などの企画デザイナーとして10年間勤務した後にフリーランスに。教科書や児童書、食品パッケージ、人気トレーディングカードゲームなど幅広い分野で活動中。JILLA 日本イラストレーション協会所属。第2回白泉社MOE創作絵本グランプリ 佳作受賞。
取材・文/田尻健二郎(DIME)
撮影/園田昭彦