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近年、メディアなどで取り上げられることもある『ネイチャーポジティブ』とは、どのような意味があるのでしょうか?意味と併せて、重要性や具体例も紹介します。世界や日本の動向、今後求められることも把握し、理解を深めましょう。
ネイチャーポジティブとは
『ネイチャーポジティブ』と聞いても、何のことなのか分からないという人もいるのではないでしょうか?まずは、正しい意味を確認しましょう。ネイチャーポジティブの重要性が高まっている背景や具体例についても紹介します。
■ネイチャーポジティブの意味
ネイチャーポジティブは英語を片仮名表記にした言葉で、『自然再興』を意味しています。自然環境や生物多様性を回復させることを目指す概念のことです。
初めて概念が示されたのは、2020年に開催された『国連生物多様性サミット』です。2022年の『COP15(国連生物多様性条約第15回締約国会議)』では、新たな国際目標として採択されました。
2050年までに自然と共生する世界にするというビジョンを達成するために、2030年までにネイチャーポジティブを実現することが目標として掲げられています。国際目標を達成するために、国や企業活動においてネイチャーポジティブの重要性が増しています。
出典:J-GBFネイチャーポジティブ宣言|J-GBFについて|2030生物多様性枠組実現日本会議|環境省
■ネイチャーポジティブの重要性
食料・水・エネルギーなど人々の暮らしに必要不可欠な資源の多くは、自然の恵みを享受することで支えられています。
しかし、地球上に住むさまざまな生物が、いまだかつてない速度で減少しており、絶滅に向かっているのが現状です。この現状を放置し生態系のバランスが崩れると、世界的な食糧危機に陥ることが予測されています。
ネイチャーポジティブは生物多様性の損失の要因を減少させ、回復軌道に乗せるだけでなく、人々と自然が共生する持続可能な社会を実現させるためにも重要なのです。
■ネイチャーポジティブの具体例
アパレル業界では、原料の調達から廃棄に至るさまざまな過程において、自然資本に影響を及ぼしていると考えられています。影響を低減させるために、リサイクル素材の利用などの取り組みが始まっています。
食品業界における取り組みの一つが、食品ロスを削減するためのマッチングアプリです。店舗などが余剰食品を出品し、消費者がお得な料金で購入できる仕組みです。
森林資源を守る森林保全プロジェクトや太陽光発電設備など再生可能なエネルギーへの切り替えなどを通してネイチャーポジティブの活動に取り組んでいる企業もあります。
世界のネイチャーポジティブに関する動向
ネイチャーポジティブは、世界でどのように捉えられているのでしょうか?知っておきたい主な動向を紹介します。日本のみならず世界の動向にも目を向けることで、理解が深まります。
■昆明・モントリオール生物多様性枠組の採択
『昆明・モントリオール生物多様性枠組』は、2010年に採択された愛知目標の後継で、2030年までに達成すべき世界目標のことです。
生物多様性の損失に歯止めをかけ回復させることの他に、『30by30目標』が定められています。これは、2030年までに陸と海のそれぞれ30%以上を保護・保全するというものです。
2030年までに侵略的外来種の導入・定着率を半減させることや、気候変動の影響を最小化させることなども盛り込まれています。
出典:生物多様性条約第15回締約国会議第二部等の結果概要|外務省
■G7サミット 2030年自然協約への合意
2021年にイギリスで開催されたG7サミットにおいて、G7が『2030年自然協約』に合意しました。生物多様性の損失に歯止めをかけ回復軌道に乗せるために、今後10年において各国の移行・投資・保全・説明責任の四つの主要な柱への取り組みが盛り込まれています。
なお、G7サミットは『主要7カ国首脳会議』と呼ばれ、毎年、日本・アメリカ・カナダ・イギリス・フランス・ドイツ・イタリアの7カ国と欧州連合(EU)の首脳が集まり開催されている国際会議のことです。
G7の国々が率先してネイチャーポジティブを推し進めることで、その他の国や企業にも積極的に向き合ってもらうための後押しにもなったといえるでしょう。
■TNFD設立
2021年に国際的組織である『TNFD』が設立されました。TNFDは英語のTaskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略で、日本語では『自然関連財務情報開示タスクフォース』と呼ばれています。
企業に対しESG(環境・社会・ガバナンス)に関する取り組みやリスクなどについての情報開示を求める動きのなかで生まれた組織です。情報を開示することで自然資本への影響を把握し、企業の社会的価値を可視化し意識を高めることが主な目的です。
出典:自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラムへの参画について | 報道発表資料 | 環境省
日本のネイチャーポジティブに関する動向
日本でもネイチャーポジティブを推し進めるために、さまざまな活動に取り組んでいます。日本の主な動向を紹介するので、確認しましょう。
■生物多様性国家戦略の策定
新たな世界目標である、昆明・モントリオール生物多様性枠組を踏まえ、2023年3月に『生物多様性国家戦略2023-2030』を策定しました。生物多様性損失と気候危機への対応や2030年のネイチャーポジティブ実現という目標達成に向けたロードマップです。
生態系の健全性の回復など五つの基本戦略と、それぞれに対する個別の行動目標が設定されています。また、各戦略を効果的に実施するための基盤や仕組みについても盛り込まれています。
出典:生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)|環境省
出典:次期生物多様性国家戦略素案の概要|環境省
■ネイチャーポジティブ経済研究会の設置
環境省は2021年にイギリスで開催されたG7サミットで合意された『2030年自然協約』や『TNFD設立』などの状況を踏まえ、2022年3月に官民からなる『ネイチャーポジティブ経済研究会』を設置しました。
学識経験者・事業会社・金融機関・関係団体・関係省庁などさまざまな分野のメンバーで構成されており、カーボンニュートラルとの関係なども含め、ネイチャーポジティブを踏まえた日本のビジョンや戦略について話し合いが行われています。会合後は、議事要旨や配布資料の公開もしています。
2023年10月には5回目となる会合が実施され、『ネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)』の策定などについて議論されました。
出典:ネイチャーポジティブ経済研究会の設置と第1回会合の開催について | 報道発表資料 | 環境省
出典:第5回 ネイチャーポジティブ経済研究会 議事次第・議事録・資料 | 自然環境・生物多様性 | 環境省
■ネイチャーポジティブ経済を推進
『ネイチャーポジティブ経済』とは、ネイチャーポジティブ活動を推進することで得られる経済効果のことです。
2020年の世界経済フォーラムの発表によると、『食糧・土地・海洋の利用』『インフラ・建設』『エネルギー・採取』をネイチャーポジティブ社会に移行することで、2030年までに年間約10.1兆ドル(約1,150兆円)規模のビジネスチャンスと約3億9,500万人の雇用創出が見込まれています。
日本においてもネイチャーポジティブ経済への移行による多大な経済効果が期待されています。
今後の社会に求められること
ネイチャーポジティブに関して、今後どのようなことが社会に求められるのでしょうか?企業と個人に分けて紹介します。自分や社会に求められていることを知り、少しでも貢献できるようにしましょう。
■企業に求められる役割
企業は企業活動をするに当たり、自然環境と消費者の両方に多大な影響力を持っています。そのため非常に重要な役割を担っていると考えられており、率先してネイチャーポジティブ経済を促進することが求められています。
持続可能な社会を築くためにも、生活水準の低下などネガティブな影響をもたらす企業活動や施策ではなく、技術革新による環境保護などポジティブな影響をもたらすものであることが大切です。
今後の社会で求められる役割を果たせない企業は、社会的価値を認められづらくなるといえるでしょう。
■個人でできること
ネイチャーポジティブへの取り組みは、国や企業の努力だけでは足りません。企業が実施する取り組みは消費者一人一人の意識改革なくしては成り立たないため、消費者自身も日頃からネイチャーポジティブな行動を意識する必要があります。
例えば、食品ロスを削減する取り組みは、今すぐにでも始められることの一つです。近年は、便利なマッチングサービスもあります。食材の買い出しの前に冷蔵庫などの在庫を確認する、事前に献立を考えて必要な食材のみを買うようにするといったことでも食品ロスを防げます。
その他、詰め替え用家庭用品の使用やリサイクルなども手軽にできる取り組みです。
構成/編集部