リスクを取らなければリターンは得られないが、リスクを取る決断に“楽観バイアス”がかかっていないかどうか、少しばかり慎重にならなくてはならないようだ――。
ポジティブシンキングの落とし穴
本格的な冬を迎えた今、どこかで風邪のウイルスを貰って体調を崩したくないものだが、可能性としてはけっこうあり得ることだ。
ウイルスを過度に恐れてネガティブ思考になってしまうのはメンタルヘルス的にも良いことではないが、その一方で「自分だけは大丈夫」と思い込めてしまうなら“楽観バイアス”を少し気にしてみたい。
楽観バイアスとは特に根拠がないにもかかわらず「自分はうまくいく」と考える傾向(偏見)である。ある程度の楽観バイアスは精神的安定性の維持のためにも必要であると考えられており、物事を前向きにとらえる“ポジティブシンキング”にも繋がる。
しかし楽観バイアスもポジティブシンキングも良いことばかりではないようだ。
英バース大学の研究チームが2023年11月に「Personality and Social Psychology Bulletin」で発表した研究では過度の楽観主義は、言語運用能力、流動的な推論、数的推論、記憶力などの認知スキルの低下と関連していることが示されている。
一方で認知能力が高い人は、将来についての期待がより現実的かつ悲観的になる傾向があるという。
雇用、投資、貯蓄などの主要な経済的問題に関する決定、およびリスクと不確実性を伴うあらゆる選択は特に楽観バイアスによる負の影響を受ける傾向があり、当人に深刻な影響を及ぼしかねないということだ。
研究チームは3万6000世帯以上を対象としたイギリスの調査からデータを取得し、人々の経済的幸福に対する期待を調査し、実際の経済的幸福と比較した。
調査期間中に回答者に財務状況と将来への期待について複数回質問され、研究チームは回答者の当初の期待と数年後の実態を比較した。
また調査では記憶力、単語の想起、言語運用能力、数学能力、抽象的思考など、認知能力を評価するように設計された質問も含まれていた。
将来への期待とその後の財務状況の比較に加え、認知能力と経済的楽観主義の比較も行われたのだが、報告された楽観主義の程度と認知能力との間に関連性があることが浮き彫りになったのだ。認知能力が低い人は楽観的な傾向があり、認知能力が高い人は悲観的な傾向があったのだ。
具体的には認知機能テストで最も高いスコアを獲得した回答者は、その対極にある回答者よりも、経済的見通しについてより客観的である現実主義者のカテゴリーに分類される可能性が22%高く、楽観主義傾向が35%減少していたのである。
幸せ、健康、長寿の鍵としてのポジティブシンキングの効能がさまざまな機会に取り上げられて称賛されているが、今回の研究では意思決定においては過度の楽観主義には落し穴があることが指摘されることになった。
研究チームによれば非現実的で楽観的な経済的期待は、過度の消費と負債、不十分な貯蓄につながり、無謀な事業参入とその後の失敗につながる可能性があるということだ。
そもそも事業で成功を収める可能性は低いのだが、楽観主義者は常に自分にはチャンスがあると考えている傾向があるという。自分が楽観バイアスの罠に陥っていないか時折確認してみたいものだ。