地域の公共交通を担う路線バス。その減便や廃止が今、全国で拡大している。
帝国データバンクはこのほど、全国127の路線バス運行業者(公営除く)の運行状況について調査・分析を行い、その結果を発表した。
路線バスの8割が今年「減便・廃止」を実施 全路線数の約1割に影響の可能性
30路線以上を有する、公営バスを除いた全国の民営路線バス運行業者127社を対象に調査した結果、運行ダイヤの改正などにより、少なくとも約8割にあたる98社で2023年中に1路線以上の「減便・廃止」を実施することが判明した。
24年に予定・検討中の事業者を含めると計103社に上り、全体の8割を超えた。ほぼすべての都道府県におけるバス路線で減便・廃止が実施され、人口密集地の首都圏でも、郊外~郊外を結ぶ路線や早朝・深夜便を中心に減便や廃止が多く目立った。
この結果、帝国データバンクの推計では、調査対象となった127社で運行が判明した約1万4000路線のうち、少なくとも約1割に相当する路線で、減便や廃止による影響が及ぶ可能性がある。
減便や廃止となった理由として、ほぼ全ての事業者で「運転手(人手)不足」があげられた。これまで都市間高速バス路線などを廃止して維持してきたものの、運転手の高齢化や人手不足により対応が限界になったことで、運行系統の整理など減便や廃止に踏み切ったケースが目立った。
ドライバーの時間外労働に年960時間の上限が課される「2024年問題」に対応するためにダイヤ改正を行ったケースや、沿線の人口減による不採算化を理由としたケースもみられた。
他方で、平日の市街地路線や、休日のショッピングモール線など、収益確保が見込まれる路線では増発を行うケースもあり、バス路線の対応は各社で戦略が分かれている。
「人手不足」深刻、コロナ前から人手「減少」が約半数を占める
運転手不足が大きな問題となっている路線バス会社について、運転手を含めた1社当たりの従業員数について調査を行った。その結果、コロナ前の2019年時点に比べ、対象307社のうち53.1%にあたる163社で「減少」した。
1社あたり従業員数の推移をみると、コロナ禍には、貸切バス業界からの人材流入もあり240人/社を超えたものの、以降は再び減少傾向で推移し、23年10月時点では235人/社にとどまった。
近時は「待遇の良い貸切観光バスに人材が流出している」などを背景に、2024年問題への対応も含めたダイヤ維持に必要な運転手の増員が難しくなっている。
国内の公共交通の一翼を担う路線バス業界では、安全運行を担う運転手の深刻な不足に直面している。背景には、他業種に比べて給与水準が低いことや、長時間労働など待遇面の悪さが人材定着に悪影響を及ぼしているとの指摘がある。
加えて、コロナ禍で落ち込んだ乗客数が完全に戻り切れていないことや、燃料費高騰による収益面での打撃も重なり、賃上げで運転手を確保する余力のあるバス会社が少ないことも、問題解決の糸口が容易に見つからない要因となっている。
足元では、4市町村で路線を運行していた金剛バス(大阪)が運転手不足を理由にバス事業から全面撤退するなど、都市部でも減便を余儀なくされるケースが増えている。既に8割の路線バス会社が路線を2023年中に減便・廃止するほか、24年以降に路線縮小を検討するバス会社もみられる。
「2024年問題」解決の要となる、運転手不足の短期的な解決が難しいなか、利用者の多い市街地路線でも一層のダイヤ縮小や路線の統合などによる「減便・廃止」が進む可能性が高い。
[注1] 路線バスの「減便・廃止」は、路線数が2022年度末時点で30本以上有する民営バス事業者127社が対象。高速バス路線のみの事業者は除いた。減便・廃止の判断は、各社のダイヤ改正情報などに基づく。路線等の情報は、2022年度末時点の国土数値情報(国土交通省)を参考とした
[注2] 各社の従業員数(人手)は帝国データバンクが保有する企業情報から、乗合バス運行事業者を対象に調査を行った。なお、この中には一般路線バスのほか、都市間高速バス運行会社も含まれる
※調査機関:株式会社帝国データバンク
出典元:株式会社帝国データバンク
構成/こじへい