糖尿病、肥満、膵臓がんの関連性が明らかに
2型糖尿病の患者や肥満者では膵臓がんのリスクが高いことが知られているが、その原因の一端を明らかにした研究結果が報告された。
インスリン値が高くなる「高インスリン血症」が、消化液を産生している膵外分泌細胞の炎症を引き起こし、そのことが前がん状態につながると考えられるという。
ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のJames Johnson氏らの研究によるもので、詳細が「Cell Metabolism」に2023年10月31日掲載された。
糖尿病はインスリンの作用が低下するために高血糖になる病気。インスリンの作用が低下する原因として、膵臓の内分泌細胞の機能低下のためにインスリンの量が不足することと、インスリンに対する組織の感受性が低下すること(インスリン抵抗性)が挙げられる。
2型糖尿病、特に肥満2型糖尿病では後者の影響が強い。インスリン抵抗性は血糖コントロールの悪化要因であるが、今回発表された研究によると、2型糖尿病や肥満者での膵臓がん発症リスク上昇にもかかわっているようだ。
膵臓にはインスリンなどのホルモンを産生する内分泌細胞と、消化液である膵液を産生する外分泌細胞がある。インスリン抵抗性が存在していると、代償的にインスリンの分泌量が増えて「高インスリン血症」となり、その状態が長引くと内分泌細胞の機能が低下してしまい、糖尿病が悪化することが既に知られている。
しかしJohnson氏らの研究により、高インスリン血症の悪影響は内分泌細胞だけでなく、外分泌細胞である膵腺房細胞にも及ぶことが分かった。過剰なインスリンが膵腺房細胞を刺激して炎症を引き起こすのだという。
Johnson氏は、「肥満者数と2型糖尿病患者数の急速な増加に加えて近年は、膵臓がんの罹患率も驚くほど上昇してきている。われわれの発見は、それらの関連性の理解に役立ち、インスリンレベルを健康な範囲内に保つことの重要性を強調するものと言える。インスリンレベルの抑制には、食事や運動が有効であり、場合によっては薬物を用いるという介入も考えられる」と話す。
同氏らは今回の研究で、膵管腺がんという最も一般的なタイプの膵臓がんに焦点を当てた。膵管腺がんは悪性度が高いことが多く、5年生存率は10%未満であり、2030年までにがん関連死の原因の第2位になるとの予測もある。
論文の筆頭著者である米スタンフォード大学のAnni Zhang氏によると、「本研究により、高インスリン血症が膵腺房細胞のインスリン受容体を介して、膵臓がんの発生に直接関与していることが明らかになった。そのメカニズムには膵液産生の増加も関与しており、それらが膵臓の炎症を悪化させている」と解説。
このようなメカニズムの解明は、新たながん予防戦略、あるいは膵腺房細胞のインスリン受容体を標的とした治療法の開発につながる可能性もある。
一方、論文の上席著者であるブリティッシュコロンビア大学のJanel Kopp氏は、「この研究結果が実臨床に影響を与え、また一般集団の膵臓がんリスクを抑制するためのライフスタイル介入促進に役立つことを願っている」と話す。
同氏らの研究チームは現在、膵管腺がん患者に対して内分泌専門医の介入により、血糖値とインスリンレベルをコントロールすることの影響を検証する、他施設との共同臨床試験を進めている。
その研究の結果は、肥満や2型糖尿病に関連する膵臓がん以外のがん、例えば乳がんなどの臨床にも影響を与える可能性があると、著者らは述べている。(HealthDay News 2023年11月10日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1550413123003728?via%3Dihub
Press Release
https://www.med.ubc.ca/news/high-insulin-levels-directly-linked-to-pancreatic-cancer/
構成/DIME編集部