誰かを思って胸がときめく感覚は、誰にでも不意に訪れる。あたたかな気持ちになったり、切なくなったり、複雑に心が揺れる恋する感覚を蘇らせてくれる大傑作漫画が登場。「トラとミケ」の最新刊である。
「トラミケ史上、もっとも幸せな1冊」という評判の通り、ふたつのカップルの誕生をていねいに描いたのが最新刊、「トラとミケ5~うれしい日々~」(ねこまき・ミューズワーク著、小学館刊、定価1350円+税)だ。前4巻では、トラの旧友の死という、辛い出来事に胸が締め付けられたが、今回は胸が躍る、読者を幸せな気分にさせてくれる、素敵なふたつの恋の物語となっている。
人と人が出会い、恋に落ちる。そんな素敵な瞬間が、きっと誰にも平等にやってくる。そんな幸せで、うれしい気持ちにさせてくれる。
じっくり相手と向き合う大人の恋
トラとミケの同級生で写真館を営むシンちゃんは、妻のチヨさんを喪って10数年、シングルを満喫している、居酒屋「トラとミケ」の常連さんのひとり。夏の海水浴場の民宿近くを散歩中、偶然、同級生の石川さんと出会う。なつかしい同級生といっしょに旅行中だったのが、冬乃さんだった。亡き妻チヨさんに似た冬乃さんに、シンちゃんは、心を奪われる。
シンちゃんが熱い想いを抱く一方で、夫を亡くした冬乃さんは、苦しい喪失感から逃れられない。子どものいない夫婦だったせいか、強い絆で結ばれていた冬乃さん夫妻。二人で過ごした楽しい時間を思い出しては、涙を流す。
同じように伴侶を失くしたシンちゃんは、冬乃さんの気持ちが切ないほど理解できる。だからこそ、自分の気持ちを無理に押し付けたりしない。相手の負担にならないような日帰り旅行に誘うし、ゆっくり相手の気持ちに寄り添ってくれる。大人の恋は若い頃と同じようにグイグイ迫る、激しいやり方では成就しない。時間をかけてじっくり相手と向き合うのである。
悩むシンちゃんに、トラさんはアドバイスをする。「自分の心に正直にね、一度きりの人生なんだから」短い言葉だけれど、なんと心にしみる言葉だろう。トラさんは前4巻で、大好きだった同級生を失くしている。長く読み続けているファンは、トラさんの短い言葉に含まれた深い意味を感じて、さらにトラミケ沼にはまってしまうはず。
冬乃さんは、シンちゃんの優しさに触れて、人生に前向きになっていく。そして、「森下さん(シンちゃんの姓)、私ね、最近気づいたことがあるんです。今までは亡くした夫の話をする度に感じた、胸の痛みが少しずつ和らいでいるって・・・。決して忘れたわけじゃないんですよ。だけど・・・前に踏み出したんだって、思う」と言ってくれた。
シンちゃんの人生をかけた(?)プロポーズシーンがどんな具合で、二人の結婚生活の行方がどうなったかついては、ぜひ最新刊で確かめてみて欲しい。
さらに最新刊では、もうひとつの恋物語も登場する。ネイルサロンを経営するルミちゃんの恋だ。男運が無いのを嘆いていた彼女に、新しい恋が舞い降りる。1巻からのファンは「あの男性と結ばれるのでは?」と予想していた人も多いはず。どんなお相手と恋をするのかは、読んでのお楽しみに。