パンデミック中の自損行為による救急搬送の実態――大阪府でのデータ解析
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の自損行為による大阪府での救急搬送の実態が報告された。年齢別の解析で、20歳代では2020年の自損行為による搬送数がパンデミック前よりも有意に増加していたという。
大阪大学医学部附属病院高度救命救急センターの中尾俊一郎氏らの研究結果であり、詳細は「BMJ Open」に2023年9月12日掲載された。
パンデミック下で行われた外出自粛や会食の制限などは、感染拡大抑止には一定の効果があったと考えられるが、一方で人々のメンタルヘルスに負の影響を与えた可能性が指摘されている。
また、パンデミック中に発生した非正規雇用者の解雇なども、同じような影響を及ぼしたと考えられる。加えて海外からは、パンデミック中に自損行為の発生率が上昇したとする研究結果が報告されている。
これらを背景として中尾氏らは、国内でもパンデミックの発生後に自損行為による救急搬送件数が増加していた可能性を想定し、大阪府全域の救急搬送に関する情報を集約している「大阪府救急搬送支援・情報収集・集計分析システム(ORION)」のデータを用いた検討を行った。
パンデミック発生以前の2018年から2021年までの4年間で、自損行為(救急隊員の報告に基づく搬送理由であり、自殺企図かどうかは考慮されていない)による救急搬送患者が1万1,839人記録されていた。
このうち、診療を受けなかった患者やデータ欠落者を除外した1万843人〔年齢中央値38歳(四分位範囲25~53)、女性69.0%〕を解析対象とした。
主要評価項目は、パンデミック前の2018年を基準とする救急搬送の発生率比(IRR)とし、搬送から21日以内の死亡を副次的な評価項目とした。
救急搬送患者の全体的な傾向として、年齢層は20代が25.0%を占め最も多く、救急要請場所は自宅が82.6%と大半を占めており、時間帯別では18~24時が32.3%と最多だった。
また、月別では7月(9.4%)や9月(9.3%)が多く、反対に2月(7.1%)や4月(7.2%)は少なかった。なお、年齢中央値の年次推移を見ると、2018年から順に40歳、39歳、38歳、36歳と、若年化する傾向が認められた(傾向性P=0.002)。
10万人年当たりの搬送件数は30.7であり、この年次推移を見ると2018年から順に29.4、30.5、31.8、31.2と経時的に上昇する傾向が認められた(傾向性P=0.013)。
しかし、交絡因子(年齢層、性別、発生月)を調整すると、自損行為による救急搬送の発生率比はいずれの年も統計学的な有意差を認めなかった。
次に、この結果を2018年を基準として年齢層別に解析。すると20代ではパンデミック初年に当たる2020年に、交絡因子を調整後の発生率比(aIRR)が有意に上昇していたことが明らかになった〔aIRR1.117(同1.002~1.245)〕。
なお、20代でもパンデミック前の2019年や2021年はaIRRの有意な変化がなく、また20代以外の年齢層ではいずれの年も有意な変化がなかった。
医療機関に搬送後の経過は、入院治療が4,766人(44.0%)、入院を要さずに帰宅が4,907人(45.3%)であり、1,170人(10.8%)は搬送後に死亡が確認されていた。
入院を要した4,766人の21日後転帰は、退院が3,785人(79.4%)、入院中が405人(8.5%)で、576人(12.1%)が死亡だった。副次的評価項目として設定していた21日以内の死亡は、搬送後に死亡確認された患者を加えて1,746人であり、死亡率〔搬送者数に対する全死亡(あらゆる原因による死亡)者の割合〕は16.1%だった。
この死亡率の年次推移に関しては、交絡因子の調整の有無にかかわらず、2018年から有意な変化が認められなかった。
以上を基に著者らは、「2020年には、自損行為による救急搬送患者の最多年齢層である20代の搬送が有意に増加していた。パンデミック自体とそれに伴う社会環境の変化が、若年者のメンタルヘルスに負の影響を及ぼしていた可能性がある」と総括。
また、「本研究の結果は、若年世代への精神的サポートを強化する施策立案に有用な知見となり得るのではないか」と付け加えている。(HealthDay News 2023年12月4日)
Abstract/Full Text
https://bmjopen.bmj.com/content/13/9/e074903
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構成/DIME編集部