人は炊飯器をどんなタイミングで買い替えるのだろうか? 壊れたなら必然だろうが、経験上そうそう壊れない。テレビなら色が褪せてきた、車なら新車が欲しい、エアコンなら冷えが悪い、わかりやすい理由が生じる。だが炊飯器でご飯が不味くなったとか、米粒の色がくすんできたなどと感じることはまずあるまい。
僕が11月下旬に炊飯器を買い替えた理由はこうだ。妻が象印のオーブンレンジのテレビCMを見て、すごく惹かれると言う。木村佳乃がキャラクターの「エブリノ」だ。我が家のオーブンレンジ、というより既存のどのオーブンレンジよりもグリル機能が遥かに優れているそうだ。オーブンレンジは温める機能しか使わないし使えない僕には、優れぶりの説明を聞いてもピンとこない。それでもとにかく買い替えを検討しようと、常用の買い物ネットサイト、ヤフーショッピングを見る。大手家電量販店のヤフー店が最安で5万円弱だ。いつもならここでポチとなるが、今回はその量販店のリアル店舗に行こうということになった。
24年間使い続けてきたご長寿家電
理由は3つ。その1、同じ家電量販店だから、ネットでの価格を提示すれば同価格もしくはより安くなるだろう。その2、なんだかんだで貯まっているVISAやJCBのギフトカードがかなりあり、ネットでは使いようがないがリアル店なら使える。その3が一番重要で、グリル機能の優れぶりを店員氏から直に説明してもらいたい。
量販店に出向き、「エブリノ」の説明を聞く。「秀でたデザインで選ぶ人が多いが、グリルを使うには難点がある。機能は優れているものの、その要となる陶磁器製の角皿が重いので使い勝手はどうか」と店員氏。妻が手に取るや、「重くて調理する気にならない」。僕が持っても重かった。他社のグリル機能が良いオーブンレンジをいくつか紹介されたが、これなら欲しいと思う製品は7万円級で見送る。象印が愛用者の声を聞いて、次期モデルで角皿を軽量化することに期待しよう。
というわけで売り場を後にして下りエスカレーターに乗ると、ふと気がついた。オーブンレンジは2018年購入のパナソニック製で古くはないが、炊飯器のブランドはナショナルだ。元ダイム編集長として若い方に蘊蓄を語ると、創業90周年の2008年に松下電器は社名をパナソニックに改名した。それまでは白物家電のブランドがナショナル、AV機器等の黒物家電のブランドがパナソニックだったが、この機会に白物家電のブランドもパナソニックとなる。つまり我が家の炊飯器は2008年以前の製品、相当古い。帰宅後調べてみると1999年製で、24年間使い続けてきたご長寿家電だった。
ギフトカードで約5万円を使うつもりだっただけに気持ちは太っ腹、この機会に炊飯器を買い替えようかという気になり、調理家電売り場に戻って先ほどの店員氏に声をかけた。この店員氏の説明がわかりやすく、また親切丁寧だったのもその気になった理由だ。いつもなら電化製品を買うときは、ネットで機能や評判、そして価格を調べて決める。ところが今回は、店員氏の一押し製品にすんなり決めてしまった。そういえばネットのない時代の製品選びの決め手は店員氏だったな。
20年以上の差がある新旧炊飯器、ご飯の味の違いはどうなのか?
パナソニックの可変圧力IHジャー炊飯器「SR-M10A」、37000円也。炊飯器の値段は1万円以下から10万円超まであるが、このくらいはミドルクラスに位置付けられるようだ。購入から1週間経った今、価格.comを見る。今年7月発売の製品だ。最安値は先週の購入時で約35000円、今では約33000円とわかり、お買い得感ではなかったか? だがネットではギフトカードが使えいなし、その量販店のポイント約3000円分も使えなかったのだから良しとしよう。
ここからが本題。製造時期に20年以上の差がある新旧炊飯器、ご飯の味の違いはどうなのか? 食べ親しんできた旧器の味に不満はない。我が家のお米は、北海道東川町産の「きたくりん」。“大雪山の自然が創りあげた、天然水育ち。豊富なミネラルをバランスよく含んだ大雪山の名水の恵み”と説明されている。株主優待でもらった美味しいお米だ。
では新旧器で炊いて、食べ比べといこう。それぞれで3合炊いたご飯から1膳分を取り分けて冷ます。ラップにくるみ冷蔵庫に一晩入れて、翌日夜オーブンレンジで温めて食す。本来なら炊き立てで比べるべきだろうが、冷蔵庫に入れ置きしたご飯を温めて食べることが多いので、現実的な比べ方とした。
新器ご飯(右)は白いのに、旧器ご飯はなぜか薄く色づいている。
まずは白ご飯から。新器ご飯は腰がある。硬いわけではなく、かみごたえがあって味わい深い。続いて旧器ご飯を食べると、伸びたラーメンのような食感だ。今まで美味しく食べてきたご飯だけに、まずいわけではないが。口の中での食味の変化に劣るという表現はどうだろうか?
次は納豆かけご飯。納豆と溶き卵をよくかき混ぜてご飯にかけた。旧器ご飯は食べ慣れた味だが、新器ご飯はひと味もふた味も違う。ご飯粒が口の中でばらける。納豆と卵のネバネバの中に、ご飯粒がふわっと浮いているようなイメージだ。これは美味しい。
そしておかず(肉野菜炒め)と食べると、新器ご飯は一粒一粒を味わっている感じがする。旧器ご飯は塊、新器ご飯は粒々とでも言おうか。
いずれの食べ比べでも新器ご飯の方が美味しかったが、20年以上にわたる技術の進歩があるのだから当たり前だ。ではどのくらい違うかというと、圧倒的な差ではない。行列のできるラーメンとカップ麺のような、万人が認めるほどの差ではないだろう。味や食感の好みもある。だがノンアルコールビールとビールをブラインドで飲み比べて、ノンアルに軍配をあげるビール好きはまずいまい。例えてみればノンアルとビールほどの違い、僕はそう説明したい(いや、それは圧倒的な差だと突っ込まれるかもしれないが……)。
さていまどきの炊飯器は、さまざまな炊き方コースがある。本機なら、炊き上がりを“ふつう”“かため”“やわらか”“もちもち”から選べる。“おかゆ”“冷凍用”“おこげ”“炊き込み”“寿司・カレー”コースもある。スマホやブルーレイレコーダーなど、使いこなせない機能てんこ盛りの電化製品に対して、炊飯器の多機能は“使える”。炊き上がりが4コースあっても、好みの1コース(僕は“もちもち”)に固定すればいい。“炊き込み”や“寿司・カレー”などは、スイッチを押してその料理を選ぶだけなので簡単だ。
栗の炊き込みご飯を作るのにかかった電気代は6.3円。この手の多機能には疑問もあるが、炊き終わると自動的に表示されるので手間はいらない。
栗の炊き込みご飯を作ってみると、炊き上がり具合が白ご飯とは違った。もちもち感はありながら、白ご飯よりもご飯粒がばらけて食感が軽い。炊き込みご飯の食感なるもの、かくあるべしなのかどうかはわからないが、美味しかった。かつてはなかった、炊飯器のこういう機能はありがたい。
ご長寿炊飯器をお使いの方、この記事を読んだ今が買い替えのタイミングかもしれませんよ。
文/斎藤好一