■連載/阿部純子のトレンド探検隊
世界で最も再生された楽曲はマイリー・サイラス「Flowers」、国内はYOASOBI「アイドル」
世界で5億7400万人以上のユーザーが利用するオーディオストリーミングサービス「Spotify」による、音楽やポッドキャストなどの今年のリスニングデータから2023年を振り返る、2023年 Spotify年間ランキング「Spotifyまとめ2023」が発表された。
〇世界で最も再生された楽曲&アーティスト
世界で最も再生された楽曲の1位はマイリー・サイラス「Flowers」で、リリース直後からさまざまな記録を塗り替え話題となり、現在までの再生数は16億回を超えてさらに数字を伸ばし続けている。
今年はBTSのメンバーによるソロプロジェクトが数多くリリースされたが、その中で最高位となったのが4位のJong Kook(ジョングク)「Seven」。ソロとしてのファーストシングルになったこの楽曲は、マイリー・サイラス「Flowers」の持つ記録を塗り替える形で、史上最速で10億回再生を突破したことでも話題に。
世界で最も再生されたアーティストは、昨年まで3年連続バッド・バニーが首位だったが、今年はテイラー・スウィフトが首位に輝いた。5位に入ったPeso Plumaはメキシコの23歳のラッパーで2位のバッド・バニーと合わせ、ラテンミュージックの世界における影響力を今年も示す結果となった。
〇日本で最も再生された楽曲&アーティスト
国内で最も再生された楽曲1位を獲得したのはYOASOBI「アイドル」。この楽曲は4月12日にリリースされて以来、世界中で様々な記録を塗り替えて話題を呼び、Spotify上ではリリース直後の4月14日から7月17日まで、3ヶ月以上にわたり日本のデイリーチャットの1位を独走。国内の楽曲として最速で1億回、2億回をそれぞれ突破する記録を作った。
2位のVaundy「怪獣の花唄」は2020年の楽曲だが、昨年のNHK紅白歌合戦で歌唱したことをきっかけに大きな注目を浴び、今年の年初から現在まで年間を通して聴かれ続けているヒットソングとなった。
5位のTani Yuuki「W/X/Y」、9位の優里「ベデルギウス」、10位のSaucy Dog「シンデレラボーイ」は、2年連続で国内で最も再生された楽曲のトップ10にランクインしており、長く聴かれ続けるストリーミングの特徴を証明する結果となった。
日本で最も再生されたアーティストの1位はMrs. GREEN APPLE。今年1月にSpotifyでの総再生回数が10億回を突破。結成10周年を迎えたMrs. GREEN APPLEは「青と夏」「インフェルノ」など数多くのストリーミングヒットを送り出してきたが、メンバーチェンジを経て、昨年リスタートを切ってから精力的に活動を続けている。
今年リリースされた最新アルバム「ANTENNA」は国内で最も再生されたアルバムの3位にランクインしており、アルバムリリース時には、アーティスト自らの言葉で収録曲の裏側にあるストーリーを語る、Spotifyの人気企画「Liner Voice+」も公開した。
〇海外で最も再生された国内アーティスト
海外で最も再生された国内アーティストの1位は、2021年から3年連続でYOASOBIが獲得。「アイドル」がアニメ「推しの子」の主題歌として世界中で人気となった。
アニメと何らかの接点を持つアーティストのランクインが多い中で、ローンチ以降、海外リスナーの支持基盤を確たるものにしているONE OK ROCKが9位、昨年、世界のリスナーに発見される形となった藤井風が2位にランクイン。
3位にエントリーしているXGは歌、ラップ、ダンス、ファッションなど全てにおいて規格外の水準を目指すグローバルガールズグループとして、主にアメリカや東南アジアを中心にファンを増やしている。世界中で315万人以上がフォローするSpotifyの公式プレイリスト「Pop Rising」でも、国内アーティストとして初めてカバーを飾った。
〇海外で最も再生された国内アーティストの楽曲
海外で最も再生された国内アーティストの楽曲部門では、昨年に続き藤井風「死ぬのがいいわ」が1位を獲得。昨年11月に1億回を突破してから現在に至るまで、トータル4億7000万回を超える再生数を記録しており、国内アーティストとして初めて月間リスナー1000万人突破という記録も樹立。
3位の米津玄師「Kick Back」は人気アニメ「チェンソーマン」のオープニング曲としてアメリカを筆頭に海外でも多く聴かれ、2022年の10月には、世界で1日に最も再生された楽曲ランキングである「トップ50-グローバル」に国内アーティストとして初めてランキングした。
海外で最も再生された国内アーティストの楽曲ランキングでは、これまでアニメ関連の楽曲の占める割合がトップ10の過半数だったが、今年はトップ10のうちの7曲がアニメ関連以外となっており、新しいトレンドが生まれつつある。
4位のimase「NIGHT DANCER」は、韓国でのダンスチャレンジ動画サイトなどで、この楽曲に合わせて踊るユーザー投稿、インフルエンサー投稿が続出したことがきっかけで、世界中にバズが広がりトレンドが生まれるといった新たな現象を作った。
韓国発で日本の楽曲がヒットするパターンをimaseが切り拓き、あいみょんや優里などが続いている。
〇最も再生された日本の公式プレイリスト
国内で再生された日本の公式プレイリスト1位を獲得したのは「Tokyo Super Hits!」で、3位「Hot Hits Japan」と共に旬のトレンドの日本の楽曲、洋楽がわかるプレイリスト。5位「Spotify Japan急上昇チャート」は24時間以内に急上昇したポイントで集計するランキングで、最新のトレンド楽曲を知りたいユーザーがアクセスするプレイリストで人気を集めている。
2位「令和ポップス」と4位「平成ポップヒストリー」は年代別のプレイリストランキングで、年代別という切り口はSpotifyで非常に人気の高いコンテンツ。「令和ポップス」は主にZ世代に向けて人気の高い楽曲をコンパイルしたプレイリストで、パーソナライズのおすすめも加味されて、各ユーザーに相応しい楽曲がプログラムされるようなプレイリスト。
海外で最も再生された日本の公式プレイリストでは、1位「Anime Now」、2位「This Is STUDIO GHIBLI」、4位「Anime On Replay」と、アニメ関連プレイリストの人気の高さを裏付ける結果となった。
3位「Mellow Beats」はローファイ・チル系の楽曲を集めたプレイリストで、5位「Gacha Pop」は5月にローンチした新しいプレイリストにもかかわらずランクイン。アニメのみならず多種多様な日本のポップカルチャーが世界から注目を集めていることが垣間見える結果になった。
〇世界で最も再生されたリリース年代別の国内の楽曲
70年代の1位は大貫妙子「4:00A.M.」。80年代で1位を獲得した泰葉「フライディ・チャイナタウン」、2位の八神純子「黄昏のBAY CITY」、3位の杏里「Remember Summer Days」はシティポップとして、海外リスナーに非常に人気の楽曲。
これまでも、松原みき「真夜中のドア」、竹内まりや「プラスティック・ラブ」といった楽曲が、Spotify上で世界のリスナーに発見されて、大きく再生数を増やしていく現象が巻き起こっていたが、今年も変わらずシティポップ人気の高さが表れた結果となった。
90年代の1位は宇多田ヒカル「First Love」。以前から人気の楽曲だが、今年はネットフリックスで全世界に配信されたドラマ「First Love 初恋」にこの楽曲が起用されたことがきっかけで再評価の動きが高まり、国内のみならずアジアを中心とした海外でも大きく再生され、1位に押し上げる結果となった。
90年代はベスト5に3曲ランクインしたスピッツの強さが表れた結果に。スピッツは今年、映画「名探偵コナン」の主題歌である新曲「美しい鰭」も楽曲ランキングに入っており、現在と過去の楽曲の双方が様々な世代のリスナーに刺さっているという、Spotifyにおいて支持基盤が強いことを裏付ける結果となっている。
2000年代の3位「ゆめうつつ」、4位「二十歳の恋」はLampというアーティストの楽曲。Lampは2000年に結成され、現在も活動を続けている3人組バンドで、ボサノバ、ソフトロック、シティポップに影響を受けた上質で柔らかなポップサウンドが特色。
海外で非常に人気が高いバンドで、Spotify上の月間リスナーは200万人を突破。海外のチル系のプレイリストに多くランクインしており、海外のSpotifyエディトリアルチームからも高い評価を得ている。
【AJの読み】ジャンル、国境、時代も越えて繋がるストリーミングサービス
Spotify は2016年に国内サービスを開始し、ローンチから一貫してプレイリストを通して音楽を楽しむ音楽体験を提供。音楽ファンのみならず、エンゲージメントの高いリスナーが集まる一大コミュニティに成長している。
ここ数年は、TikTokやYouTube、Instagramなど様々なSNSからバズが起き、そのバズがSpotifyに飛び火して「バイラルチャート」(SpotifyからSNSやメッセージアプリでシェア・再生された回数などをベースに、Spotifyが独自に指標化したランキング)で可視化され、楽曲ヒットにつながっていくという現象が国内外で顕著に起こっている。
ストリーミングはジャンルや国境だけでなく、時代も越えることができるのが特徴。ストリーミングには新譜と旧譜の扱いに隔たりがなく、出合ったときが新曲なので、リリースから時間が経過した楽曲が、プレイリストやアルゴリズムのおすすめをきっかけに多くのリスナーに届いていく。
さらに、ストリーミングの特性として、時代を超えて長く聴かれ続けてきた楽曲が、国や時代を超えて浸透していく傾向がある。70年~80年代の日本のシティポップがストリーミングをきっかけに世界で人気を得たことは記憶に新しい。
今年6月には、1976年から2019年までの44年間の音楽シーンを象徴する名曲を収録したプレイリストシリーズ「スローバックTHURSDAY」をスタート。幅広い世代のリスナーからの支持を集めている。
今年5月には、世界中に存在する感度の高い音楽ファンをターゲットにした、日本の音楽カルチャーを世界に発信していく新しいプレイリスト「Gacha Pop」をローンチ。多種多様でユニークな日本のポップカルチャーを詰め込んだプレイリストとなっており、漫画やアニメ、ゲームなど最先端のポップカルチャーに敏感なZ世代を中心とする、国内外のリスナーから反響を呼んでいる。
文/阿部純子