■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、楽天モバイルユーザーを優遇し始めた「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」について会議します。
SPUの改定は必ずしも改悪ではない
房野氏:楽天が12月1日にSPU(スーパーポイントアッププログラム)の特典内容を変更しました。発表された時はネットがだいぶざわつきましたね。
石野氏:SPU、びっくりしましたね。
石川氏:改悪なんじゃないかとネットがざわついた。いろいろなサービスに関してポイント付与の上限があるんですけれど、それが結構下がっている状況。一方で、楽天モバイルユーザーであれば毎日5倍。今までのダイヤモンド会員優遇もなくなって、楽天モバイルユーザーだったら毎日5倍になっていて、端的な楽天のメッセージとしては「楽天モバイルを使ってね、契約してね」っていうこと。一方で楽天の超ヘビーユーザーは切り捨て……みたいな感じに見えました。
石野氏:「ヘビーユーザーへのポイントで、赤字になるぞ」と言わんばかり(笑)
石川氏:楽天から見ると赤字要因らしく、そういうヘビーユーザーを切り捨てて、楽天モバイル優遇にシフトして、契約者を増やそうという、楽天側の意図が伝わってくる。
法林氏:グループ全体で見ると、今までは楽天カードと楽天証券がグループを牽引する両輪みたいな感じだった。そこにいろいろと紐づけようとしている感じだったのが、完全に楽天モバイルをトップに掲げて、その下にぶら下がる各サービス、みたいな図式になった。裏を返すと、楽天モバイルを契約していないと、楽天グループのサービス、楽天市場だけじゃなくて証券も銀行もみんな含めて、サービスを使うメリットが少なくなるっていう話。僕の友人は楽天カードと楽天市場をすごく便利に使っていて、楽天モバイルは別にいらないっていう考え方だったけれど、いよいよ「楽天モバイルの契約、どうしようかなぁ」と言っていた。でも、楽天カードをやめるという選択肢もある。だから、結構、諸刃の剣だと思います。
石川氏:楽天プレミアムカードには「プライオリティ・パス」っていう、持っていると国内とか海外の空港ラウンジに入れるパスをもらえる特典があるんですけれど、それが今まで使い放題だったのが年間5回までの制限ができた。たくさん出張するような人は、すでにどこかの航空会社の上級会員だったりするので影響は少ないと思うけれど、今までLCCでたくさん飛んでいた人には影響がありそう。LCCでヨーロッパに乗り継ぎで行こうと思ったら、往復でラウンジを4回使っちゃったりもするので、やはりそこに対して不満に思う人はいるだろうなと思います。ただ、これも赤字要因だったりするので、減らしてきたという感じ。
石野氏:今までポイントは、転売ヤー的に利益を抜くために使われていたという、負の面もあった。ポイント付与の上限に達するのに、1か月30万円とか100万円とかかかっていたんですよ。結局、ポイントを上限までいっぱいもらって稼ごうとすると、利益率が高いもの、例えばNintendo SwitchだったりAirPodsだったりとかを楽天市場で買い、ほぼ定価でメルカリに流したりする。すると差額のポイントが利益になるっていうビジネスモデル(笑)というか、せどり的なことをやっている人がいた。そういう人にとっては、楽天のSPUは旨味のあるサービスだったんですけれど、楽天の利用者の中の、本当にごく一部の人。それよりも、もうちょっと広く薄くポイントを使ってもらいたい……というのが今回の改定。だから楽天モバイルユーザーは急にポイント付与率が5倍になったりしている。ついでに楽天モバイルの契約促進も兼ねてしまおうという考えがあるのかなと思います。
計算すると、楽天で1か月4万、5万円ぐらい使っているような人なら、楽天モバイルを契約していないと損なので、とりあえず使わなくてもいいからeSIMで楽天モバイルを1回線持った方がよくなる。そういう意味では、結構、強力な契約促進策ではあるかな。
房野氏:楽天は、ARPUが上がらなくても、契約件数を増やした方がいいという考えなんですか?
法林氏:「とにかく契約を獲得すればいい」といって始めたのが1GB以下は0円の「Rakuten UN-LIMIT VI」だった。でも、有料にした途端に、多くのユーザーが解約してしまったという、負の記憶がある。それを今回の改定で取り戻したいのではないかと思います。さっきの僕の友人の話じゃないけれど、楽天カードのユーザーが「楽天モバイルを使っていないから、ポイントが下がるんだったらもういいや」みたいな感じで、カードの利用をやめちゃう可能性はゼロではない。気をつけなきゃいけないのは、楽天市場の競争力が高いと言われているけれど、Amazonもあるわけだし、最近だと海外だったらAliExpressもあるし、TemuやShopifyも伸びたりと、ECサイトの利用機会が広がっている。一方で、ヤフーもYahoo!ショッピングで色々やっているので、もしかするとSPUの改定が裏目に出る可能性もあるかなと僕は危惧しています。
石川氏:ただし、回線を変えるのは1つだけじゃないですか。経済圏を丸ごと変えるのは、結構大変だろうなと思っています。今、楽天は楽天経済圏のヘビーユーザーに対して冷たい対応をしているように見えますが、だからといって、ほかにポイントをくれるような経済圏があるかっていうと、現状、ないかなと。そう考えると、楽天、うまいことやっているなと思います。あとはモバイルのユーザーさえ獲ってくればいいという感じになっている。
石野氏:楽天カードは、還元率1%分の上限が5000から1000に下がっている。ただし、1%で5000ポイント稼ごうとすると、1か月に50万円使わないと行かなかったんですよ。と考えると、そんなに言うほどの改悪じゃないのかなと思うんですよね。一方で楽天プレミアムカードに関しては、+2倍がなくなって、獲得上限ポイント1万5000ポイントも減っているので、これは完全に改悪。
房野氏:楽天プレミアムカードの年会費はいくらなんですか?
石野氏:1万1000円ですね。楽天は年会費以上のポイントを放出していたし、年会費以上にプライオリティ・パスの特典を出していたんじゃないかなと。
石川氏:プライオリティ・パスをたくさん使いたい人にとって、楽天プレミアムカードはめっちゃお得なカードだった。普通にプライオリティ・パスを契約しようと思ったら、ラウンジを10回使えるスタンダード・プラスの年会費が300ドル以上、すべて無料で使おうと思ったらプレステージで年会費469ドル(約7万円)とかなり高い。他社でプライオリティ・パスをもらおうと思うと、もっと年会費が高いカードじゃないともらえない。やっぱりお得すぎたんですよ。そこにようやく気づいたか、みたいな(笑)
石野氏:楽天は、プレミアムカードの設計をミスった……そう思っているんじゃないかな。
石川氏:改定でラウンジ無料利用が5回に減るけれど、ほかに年会費1万1000円でラウンジに5回入れるクレカがあるかっていうと、それもないと思うので、やっぱりユーザーは残ると思う。
法林氏:プライオリティパスは、JALやANAの上級ステータスを持っているような人たちにはプラスαでしかないけれど、海外の航空会社でよく旅行する人、LCCを使う人にとってはすごく便利だった。
石川氏:経済圏のヘビーユーザーがたくさんポイントをもらっているという話になった時に、「(楽天経済圏の)どこかで儲かっている」という言い方をしていたんですよ。「表面上は赤字だけれど、どこかで儲かっている」と。
楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長最高執行役員 三木谷 浩史氏
法林氏:ちょっと、どんぶり勘定だよね(笑)
石川氏:そうなんですよ。ポイントをいっぱい払っているけれど、「たぶんどこかで儲かっているはず」みたいな言い方だった(笑)
法林氏:ちゃんと分析しないと。
房野氏:「内部情報は他言できない」というわけではないんですね。
石川氏:把握できていないんだと思う(笑)
石野氏:直感ですね(笑)
石川氏:それでも、これまでうまく回っていたということですね。
石野氏:でも、楽天プレミアムカードはあまり儲かってないことに気づいちゃったのかも。
房野氏:ところで、今回のSPUの改定は、楽天モバイル契約の動機になりますよね。
石野氏:楽天モバイルにとっては、プラス材料になっている。
石川氏:今、楽天が狙っているのは、楽天経済圏を使っているけれど、ドコモ、au、ソフトバンクの携帯回線を契約している人を、楽天モバイルにMNPさせること。ポイント付与をモバイルユーザー重視にシフトして、「プラチナバンドが手に入った」というマーケティングツールも使いつつ、「みんなで乗り換えようね」という感じになっていますよね。