連載/山田美保子の「ギョーカイ裏トレンド図鑑」
「こちらのお客様、よく御存知だから…、フフフ……、気を付けて」
危機管理コンサルティング業「エス・ピー、ネットワーク」(東京)が、いわゆる“カスハラ”を直近1年間に受けた人が64.5%に及ぶとの調査結果を11月26日までに発表した。
他のハラスメント同様、細心の注意をはらいながら行動しなければならない世の中になっていることは理解できる。が、お客とて不愉快になることが少なくないのも事実。
私は外食の機会が多く、“トンデモ接客”の被害に遭ったことも少なくないのだが、その場で怒りを露わにするよりは、「もう2度と行かない」と決め、静かに店を去るタイプだ。
それでも腹に据えかね、当該店員を睨みつけてしまうようなことは過去に何度かあった。
もう何年も前のことになるが、銀座の有名フレンチで、生保会社からの“接待”を受けたことがある。どういう基準で選んでもらったのかはわからないが、担当セールスからの誘いを受けて、50~60人ほどの顧客が招かれたのである。
店からしてみたら、もともとの顧客ではなく、今後の来店に繋がるようなタイプが集まったわけではないと思う。だが、決してリーズナブルなコースが出てきたわけではなく、通常のランチタイムよりは売上は多かったと推察される。
フロアを担当していたスタッフの中でもチーフらしい男性から冒頭のように言われたのは、私が同店のスペシャリテ、「サーモンのミキュイ」について同じテーブルの方たちに説明をしていたときのことだ。
「半生だけど、大丈夫かしら」と心配している人が多かったので、「こういうお料理なんですよ。ここのお店で“スペシャリテ”で、私はもう何度も食べています」と言っていたのを通りがかりに聞いたスタッフが後輩スタッフたちに、そう促したのだ。
私は座っていて彼は立っていたので、余計に見下された感じがしたし、途中の「フフフ」は明らかに鼻で笑っており、被害妄想かもしれないが、「なに知ったかぶってんだよッ」と言われたように感じてしまった。
それからも彼は私にサーヴィスするたびに、どこか挑戦的だったものだ。その店は系列店を含め、コロナ禍を勝ち抜けず、閉店してしまったので今回、書いているが……、なぜあんな言い方をしたのか。本来なら彼が説明すべきところを私が先に説明したからプライドを傷つけられたのだろうか。それにしても……である。
お客と張り合ってしまうフロア担当
比較的最近思い出されるのは、“お会計”についての接客エピソードだ。仕事で御世話になっている編集者が集まる食事会であり、店を予約したのも私。支払いも私がすべき食事会だった。
なので予約の電話の際、「今日は何が何でも私がお支払いしなければならないので、他の方からはいただかないでください」と告げたところ、電話に出た若い女性に一発で真意が伝わらなかった。
再度、同じことを言っても伝わらず、その後、彼女は「お店にいらしてから、もう一度、そう言ってください」と言ったのである。仕方なく、店に到着してすぐに、また同じことを伝えが、それでも通じなかった。
しかも、ありえないことに、彼女は店の奥に隠れるように、その場から居なくなってしまったのだ。なにか彼女のプライドを傷つけるようなことを言ったのかと電話での会話も含めて振り返ってみたが、同じセリフは他店に予約を入れるときもよく言っていること。
99%の店が、「かしこまりました。そのように致します」と言ってくれるのだけれど……。
実はその店では、若い男性スタッフから次のように言われたこともある。「お化粧室にお立ちになるようになさって、そのとき私どもに声をかけていただくと、スマートです」
う~ん、これは“説教”だろうか。そんなことはこれまで何度もしてきたし、それでも先に同様の振る舞いをされて、こちらで支払うべき会計を払われてしまったことが何度かある。だから先に「会計は私」と言っているのに……。
さすがにこのときは、別件で話しかけてきた支配人に、「この前も今日もそうだったんですけれど……」と言いつけてしまった。支配人は「教えていただき、誠にありがとうございました。きちんと教育しておきます」と言ってくれたが、その店も閉店してしまった。
もちろん、閉店理由は接客の不味さだけではないだろうが、お客と張り合ってしまうようなフロア担当は、やはり、いただけない。
果たして、心地よい接客をしてくれる飲食店にばかり行くようになった。味や価格だけでなく、私が飲食店でもっとも大切にしているのは接客かもしれない。こういう客もいると思う。
文/山田美保子
1957年、東京生まれ。初等部から大学まで青山学院に学ぶ。ラジオ局のリポーターを経て放送作家として『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)他を担当。コラムニストとして月間40本の連載。テレビのコメンテーターや企業のマーケティングアドバイザーなども務めている。