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開園から70年、震災を乗り越え進化を続ける「神戸市立王子動物園」と動物たちの歴史

2023.12.02

1995年「阪神・淡路大震災」当時の王子動物園の様子

『1995年1月17日』は神戸市民には人生において忘れられない出来事があった日。それは「阪神・淡路大震災」である。今でも神戸市庁舎南側の公園「東遊園地」では市民団体などで作る「阪神淡路大震災1.17のつどい」が1月17日の早朝に行われている。

震災当日、動物園にはなんとか自力で出勤できた職員が園内の状況を確認したそうだ。

幸い、動物たちは無事であったという。そのときの動物たちの様子が動物園の記録によると ” ゾウの「諏訪子」はキュキュとしきりに鳴き、カバの「茶目子」は死んだと心配になるほど長い時間 水の中に潜ったまま。コアラは止まり木の頂上で緊張した姿勢をとっていた。” と記されていた。

また、最も古い鉄筋コンクリートのゾウ舎でも壊れておらず、被害は水禽舎やフラミンゴ池のプールの亀裂、アシカ池とホッキョクグマ舎のプールの循環ろ過配管の破裂、園内にある旧ハンター住宅(異人館)のベランダの一部とレンガの煙突の落下、動物科学資料館内の展示物や収蔵庫内のはく製の損傷、園内の石垣崩れや園路の亀裂などの軽微なものであった。

震災後は、1月30日に水道が復旧するまで、動物たちの飲み水はアシカ池の井戸水で賄ったそうだ。

動物たちの餌は、神戸市中央卸売市場から震災前は届けてもらっていた生鮮野菜や果物があったが、職員が直接赴いて調達した。また、京都市動物園からは救援トラックが野菜や果物などを積み9時間かけて届けてくれた。天王寺動物園には動物用の薬剤のほか入手困難なミルワームやコオロギを届けてもらい、破損していた水禽舎のカモ13羽も預かってもらった。

遠方からの支援の申し出も多数あったようだが、交通事情のあまりの悪さから救援の気持ちだけいただき感謝の気持ちを伝えることもあったようだ。

その後、1995年3月23日 春分の日に動物園が再開するまでの間、園内には自衛隊の救護活動の拠点として自衛隊員800名が駐留することとなる。3月1日からは再開に先駆けて「動物とこどもの国」のエリアに限って小学校や幼稚園の課外授業などに開放していた。再開後の園内ではボランティアのグループによって子供達を元気づけるための催しが多く開催されていたそうだ。1995年4月1日に平常営業となる。

神戸の春を告げる桜の木は動物園にある

王子動物園には、正面ゲートを入って目の前にあるフラミンゴ人形がたたずむ正面池がある。その池の左側に花を咲かせる桜の木が、2002年に神戸の桜の「開花」と「満開」を告げる「気象観測標本木」として指定された。

2023年には王子動物園のパンダ館横の「桜(そめいよしの)」がその役割を担うこととなった。この桜は「夜桜通り抜け」の順路にあり夜桜観覧の途中で見ることができる。神戸を代表する桜が一年を通して人の集まる王子動物園内にあるというのも素敵なことではないだろうか。

王子の桜は神戸市民を励ますし癒してきた。そして「夜桜通り抜け」は特別な3日間

王子動物園のある「王子公園一帯」は、原田の森の頃から桜の名所として毎年多くの人たちが花見を楽しんでいたという。

開園後も、「夜間開園」をして地域の人たちに桜を楽しむ時間を共有していたそうだ。

一度、1970年に夜間開園は廃止になった。しかし神戸市内の公園には震災後、仮設住宅が建てられており、春になれば桜を楽しむことのできる場所は少なく、くつろいで観賞する場所がなくなっていた。そんな震災復興に取り組む市民を勇気づけるために、1998年より3日間限りの「夜桜通り抜け」として再開された。

夜桜通り抜けの日は閉園時間の17時に正面ゲートは閉じられ、全ての来園者が一度園の外に出ることになっている。

夜桜通り抜けの間は、動物たちを観賞することはできない。人間だけのお楽しみタイムである。

もしかしたら動物達も夜桜通り抜けの来園者の熱気やあちこちで湧き上がる桜のトンネルに感動する声に普段の閉園後とは違う空気を感じているのかもしれない。「桜のない国に生息する動物達の目には桜はどのように映っているのだろうか」そんなことを考えながら通り抜けを楽しむのも動物園での夜桜通り抜けの醍醐味ではないだろうか。

閉門後の1時間で動物園職員による順路設営に募金箱設置などを経て、18時に再び正面ゲートが開く。

今年の夜桜に期待して待ち続けた家族連れやカップルが園内のアナウンスの「走らないでゆっくりお進みください」「ゲート付近で立ち止まらないでお進みください」の声に従い正面ゲートから徐々に園内へ流れ込んでくる。先頭の人たちは静かな園内と来園者の熱気との境目を楽しめる特別な人たちだ。目の前に広がる桜のトンネルにはまだだれもいない。この景色を独占できる。先頭に並ぶには開園している時間から並んでいなければならない。待っていた時間の対価としてこの光景は格別であろう。

入園ゲートから北門へ続く約350mの一方通行での道のり。神戸ならではの傾斜地に位置する園内を通り抜ける桜の通り抜けは、坂をのぼりながら桜を楽しむコースになっている。坂をのぼりながら自然と目線は上を向く。見上げる桜のトンネルはとても幻想的で美しい。この日は春のあたたかい風が心地よく吹き、ほほをなでる。先ほどまで明るかった園内はだんだん日が沈み、設置された大型の投光器から暖色系の光が夜空に満開の桜の花を浮き立たせた。気づけば順路は通り抜けに訪れた人たちであふれていた。多くの人たちの会話は聞き取れることもなく混ざり合って熱気へと変わり桜並木の下に充満する。桜のトンネルの下ではこの日の思い出を残そうと、ライトアップされた桜とターコイズブルーの夜空にスマートフォンやカメラをむけて撮影する人たち。桜のトンネルをバックに記念写真を撮る人たちの様子が多く見られた。

通り抜けの途中にある、遊園地ゾーンは「夜桜通り抜け」期間中特別に営業しており、夜の遊園地はどこか異国のナイトマーケットにある移動遊園地を感じさせる。夜の遊園地を楽しむ家族連れがそれぞれの乗り物の前で乗り物券を握りしめ列に並んでいる。

平日仕事から帰ってきた両親と夜の遊園地にお出かけするということは子供達にとっても記憶に残る良い思い出として、大きくなったときに「王子動物園の記憶」として思い出してもらえる場所となるのではないだろうか。

この夜の遊園地の雰囲気はこの先も形を変えてもそこに在ってほしいものである。

遊園地ゾーンの片隅には、昼も人気の観覧車は神戸のランドマークの一つである。

動物の可愛い絵がプリントされたゴンドラがまわるこの観覧車には「アニマル観覧車」という正式名称があるのだ。いかにもという名前だが、そこが動物園の観覧車らしくて親しみを感じさせる。

少し高台にある王子動物園の敷地に設置された観覧車からの景色は神戸の街並みを360度見渡すことができる。海まで望むこの観覧車、夜桜通り抜け期間中には神戸の夜景も存分に楽しむことができる。このときこそカップルで乗ってほしい乗り物である。

観覧車から見下ろす王子公園の駐車場にはまだまだ、夜桜のトンネルを楽しみに待つ人たちの行列が続いている。

一度職場の人たちと通り抜けてから、その後家族や恋人と合流して1日に2度の夜桜通り抜けを楽しむ人もいるのだとか。

時間は夢のように過ぎ、交通整理をしていた警備の人たちが「入場列 最後尾」の看板を持って最後の来園者と共にゆっくり、静かな桜のトンネルをのぼってくる。この看板が通りを歩いてくる時間には、先ほどまでのにぎやかな園内は嘘のように消え去っている。

静かにライトアップされた桜のトンネル。夜空に目をやれば深海のような黒となり、投光器に照らされた桜が美しい。

警備の人たちの背中が出口に向かうにつれ、魔法のような時間は終了の時刻を刻んでいく。

18時から2時間半の夢のような時間はあっという間に過ぎてしまう。21時。警備の人の手によって北門が閉じられる。

あと二日間行われるのだが門が閉じられる様子には少しの寂しさを感じる。

門が閉じられた後、帰路でもまだ体内に残る園内でのにぎやかな時間の高揚感。この感覚は、この「夜桜通り抜け」を体験した者でなければ分からないだろう。

一晩明けて王子動物園は朝9時から通常営業。動物たちはいつも通り昨夜のにぎわいがなかったかのようにすまし顔でいつもの場所でたたずんでいる。その変わらない動物たちの仕草をみて日常を感じさせられるのだが、昨夜の幻想的な景色を思い起こすと、本当にこの場所は同じ場所なのだろうかと不思議な思いにふけりながらまた、アクビをするナマケモノのゆっくりした動きに癒やされる。

夜桜通り抜けの2時間半だけ訪れる魔法のような時間。残り二日間、王子動物園の桜に魅了される夜が続く。

毎年桜が咲き始める頃には、王子動物園の公式ホームページでその年の桜の開花状況に合わせて「夜桜通り抜け」の告知が行われる。ニュースで桜の話題が出てくる頃には是非公式ホームページを見て予定を立ててもらいたい。

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