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「NTT法廃止」に異議あり!KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが反対する本当の理由

2023.11.28

そもそもドコモの完全子会社化が悪手だった?

房野氏:NTTではなくドコモとして、コメントなどはありましたか?

法林氏:言わない。というより言えない。ドコモの井伊社長は、もともとNTTグループの持株会社から来た人なので、NTT東西やNTT持株側に近い意見の人。ただし、ドコモには、〝上から降ってくる指示〟に戸惑う人もいる。

株式会社NTTドコモ 代表取締役社長 井伊 基之氏

石野氏:そもそも、NTTがドコモを完全子会社化してしまったことで、そのほかの3キャリアが危機感を募らせて、ここまで話がこじれてしまっています。

法林氏:一般ユーザーも感じていると思うけれど、ドコモ完全子会社化の前後から、いろいろとトラブルや残念な動きが増えてきた印象がある。たとえば、通信品質の低下もそうだし、これまで提供していたサービスを次々と終了させている。新規で提供するサービスより、終了したサービスの方が多いくらい。NTT持株の前社長、現会長の澤田さんから今の島田社長への流れで、とにかくコストを落として、ギリギリの品質を保っている状態なので、ユーザーにとって本当にメリットがあるのか、微妙だよね。

日本電信電話株式会社 代表取締役会長 澤田 純氏

石川氏:3社は「NTTが統合されていくと、競争力が大きくなりすぎる」とよく言っているけれど、実際には、ドコモを完全子会社化して以降、通信品質などをはじめ、競争力は逆に落ちているように見える。

法林氏:サービス面だけを見れば、競争力が低下しているかもしれないけれど、資本の面は別。NTTが一体化すると、お金をグループ会社間でやり取りするだけになるのがよくない。

石川氏:そうですね。NTTは他社と競争してこなかった会社なので、その雰囲気がドコモにも波及している気がする。ドコモがネットワークで競争しなくなったがゆえに、ソフトバンクにしてやられている感じもあります。

 これ以上、一体化していくメリットはあるのかな。例えば、島田社長が「NTTは一体化するけれど、光ファイバーのフレッツの料金をすべて3割引にする」と言ってくれたら、国民は喜ぶかもしれないけれど……。

法林氏:下手したら3割増になるかもだしね。

石川氏:そうなんです。値上げの可能性もあるし、国民不在の議論になってしまっている。「光ファイバー網を使って、こんな便利な世界にします」と言ってくれないと、企業間の小競り合いで終わってしまいます。

法林氏:NTT東西とNTTドコモを合併しないまでもNTT法を廃止して、グループの一体化を狙うのであれば、フレッツ光やNTTドコモの携帯電話料金を下げると言ってくれればいいけれど、そういうことは言わないし、値下げをするつもりも全然なさそうなのが透けて見える。なので、僕個人としては、NTT法の廃止はしないほうがいいと思う。

 海外の事例などを見ると、光ファイバー網などの通信インフラの基幹部分を国が保有して、各事業者に貸し出すという方法もある。国内で言えば、高速道路というか、日本道路公団の民営化と同じような考え方です。ただし、これは官僚の天下りや特定企業との癒着を生むリスクがある。高速道路の時は、癒着排除のためにいろいろ工夫をしていたけれど、通信業界として、そういったマイナス面を排除できるかと言われると、ちょっと難しい。

石川氏:それこそ、10数年前にソフトバンクの孫さんが「光の道構想」といって、NTT東西が持っているインフラ部分を、国か別会社が所有して、みんなが使えるようにする。メタルも引きはがして光にすることで、通信料金を下げられるという提案をしていたけれど、当時の孫さんは業界から嫌われていたので、実現しなかった。そのころに何か形になっていれば、今このような議論にはなっていないはずです。もっと孫さんの話を聞いておくべきでした。

法林氏:「光の道」構想については、ソフトバンクが携帯電話のエリア拡大のために、光ファイバーの回線を安く使いたいだけでしょ……なんて、当時は散々な言われ方をされてしまったので、構想は実現しなかった。ただし、考え方としてはありだったと思うし、みんなで議論する価値はあったと思います。通信をこれからどうしていくのかを、自民党や総務省、できれば財務省や経済産業省、デジタル庁などもかかわって議論すべきです。

 日本は世界で1位、2位を争うくらいの光ファイバー網を持っているのに、デジタル後進国と呼ばれている。これは誰のせいかというと、やっぱり政府の舵取りが悪いからだと思います。

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員 孫 正義氏

石川氏:あと、NTTは全国に7000局舎ほどあるので、本来はそれぞれの局舎に、通信用のサーバーだけじゃなく、AIで処理するサーバーとか、コンテンツ用のサーバーを置けば、5Gで遅延なくサービスの提供ができるはず。ソフトバンクは、北海道にAIのデータセンターを作っているので、そこにNTTのネットワークをつなぐとか、さらには、IOWN(アイオン/Innovative Optical and Wireless Network 最先端の光技術を使って、豊かな社会を創るための構想)につなげていけば、通信において世界でトップクラスの国になれるはずなのに、今はNTT法を撤廃することに終始しているのがもったいない。

法林氏:結局、NTTがNTT法を撤廃したいだけだよね。その先に具体的な目標があるわけではない。

なぜNTTはNTT法の撤廃を望む?

房野氏:なぜNTTはそこまでNTT法を撤廃したいんですか?

法林氏:いろいろな制限がはずれるからね。技術開発の開示とか、外国人役員の登用とか。今の段階で例えを考えると、IOWN絡みで海外の会社と提携する時に、相互に役員を送り合うことができない。当然技術の共有もできないので、取引相手の会社が警戒します。

房野氏:電電公社の時代から、外国人の役員はいなかったんですか?

法林氏:そうですね。逆にいえば、NTTが民営化して、子会社は少し緩くなっているのと、ドコモも別会社なので、社員とかは普通に外国人の方もいます。

石川氏:そうなんですよ。なので、本来であれば「NTT IOWN」みたいな会社を作って、そこで外国人を採用すればいい。

石野氏:ですね。だから、外国人を登用できないという主張にも、ちょっと疑問がありました。持ち株会社で外国人の登用ができなかったり、研究開発の開示義務があるといっても、子会社にはそのルールがない。実際にドコモも自由にやってきましたからね。勝手に自分たちで、法の縛りがある組織形態にしておいて、「縛りがあるからやだ」と言っているように見えてしまいます。

石川氏:NTTグループを全部1つにするとしたら、外国人の登用ができないけれど、子会社であれば、NTT法は関係ないもんね。

石野氏:NTT東西とかも、NTT法で業務範囲が決められているけれど、子会社を作って、コンシューマー向けのeSIMサービスや電子コミックサービスなんかをやっている。ちゃんとサービスも生まれているので、今の枠組みだとできないかと言われると疑問符が残るけれど、いちいち子会社を作るのが面倒くさいというのもわかるので、不合理な縛りは撤廃してもいいのかなと思います。ただし、イコールNTT法の撤廃となると、それは早急すぎる。もう1段階あってもいいはずです。

房野氏:仮にNTT法が撤廃されたら、国民に恩恵はあるのでしょうか。

石野氏:どうですかね。撤廃の変わりに加入権を返金するとかあれば、メリットといえますね。

石川氏:返金すればね。

法林氏:それでいうと、施設設置負担金(電話加入権)も電気通信サービスの設備や施設を作るためにお金を集めたと言っているけれど、結局返していません。

石野氏:そうですね。7万円でしたっけ?

石川氏:7万2000円。

法林氏:途中で3万6000円に値下げされたけれど、多くの人が7万2000円のタイミングで支払っているはずです。しかも僕は2回線持っていた。

石野氏:14万円かかっていると。

法林氏:さらに奥さんも2回線持っていた。

石野氏:うわ、28万円。

法林氏:そう。1回線は処分したけれど、3回線分の施設設置負担金は実質、戻ってきません。それも、いろんな理由をつけて、施設設置負担金を返金しないといい出して、個人も法人もすごい数の裁判をしたけれど、全部負けています。

房野氏:2024年1月で、固定回線が廃止されたり、ISDN回線がなくなるといった話もありますが、NTTとしてはどういうビジョンを描いているのでしょうか。

法林氏:固定回線はIP網に変わる。IP化は自然な流れだし、ISDNは元々、インターネットのためというより、1本のメタル回線のケーブルで複数の電話サービスを提供できるのが強みだった。携帯電話でいえば、アナログからデジタルになる時代の話です。昔は、コンビニやファストフードには、ISDN回線が引かれていましたが、それをIP化する。電話網やネットワークのあり方が変わろうとしているタイミングですね。

房野氏:KDDIやソフトバンクが、NTTに対抗する会社を持つことはあり得ないのでしょうか。

石川氏:やっぱり、全国にある光ファイバー網と局舎の数には、どう頑張っても対抗できない。

石野氏:もう1本引く必要があるのか……という議論もありますからね。

法林氏:あと、管路というか、トンネルだね。歴史的に見ると、NTTが光ファイバーって言い出した時に、USENが少し頑張って対抗した時期があった。関西ではMVNOでmineoを提供するオプテージ(当時はケイ・オプティコム)ですね。KDDIも「auひかり」で対抗したけれど、関東エリアは東京電力、中部エリアは中部電力など、電力系通信事業者の光ファイバー網を受け継いでいて、全部がau網ではないですからね。

石野氏:ダークファイバーを使っている部分がある。

法林氏:NTTが持っている光ファイバーをまとめて借りて、その部分を使って提供している形です。

房野氏:KDDIでいうと、光ファイバーを借りている比率はどれくらいになりますか?

法林氏:全国で見ると結構多いはず。

房野氏:では、接続料が当然、NTTに支払われていることになりますよね。ドコモは、グループ内だから支払わなくていいとか?

石川氏:現在は、とりあえずKDDIと同じ条件でドコモも支払っているけれど、NTTが一体化すると、うやむやになる。例えば、接続料を高く設定しても、ドコモの支払いは結局、NTT内でお金が回るだけで、NTT全体が困ることはない。一方、KDDIやソフトバンクや楽天モバイルなどは、接続料の値上げが即、サービス料金の値上げにつながる可能性がある。

房野氏:それは不公平に見えますよね。各社の社長はどういう見解ですか?

石川氏:KDDIの高橋社長はかつて、NTTと接続料の交渉をしていた立場の人なので、かなりエキサイトしています。KDDIはもともと、いかにNTTに対抗していくのかがモチベーションだったりするので、高橋さんもかなり熱くなっています。

KDDI株式会社 代表取締役社長 髙橋 誠氏

法林氏:昔、NTTドコモの社長と会長を歴任した大星公二さんが「うちはもうNTTの冠を外して、株式会社ドコモにする」といって大騒ぎになったことがあるけれど、考え方としては正しかった。そもそもNTTから移動体通信サービスを提供するNTT移動通信網(現在のNTTドコモ)として、分離した背景には、電話サービスとして、固定電話、携帯電話を正しく競争させようという意図があり、PHSもその競争軸に加わった。しかし、求められる電気通信サービスの主力が音声通話から通信に変わってきたり、各社の統廃合があったことで、今は崩れてしまった。ちなみに、ソフトバンクの宮川社長も、ADSLの時に、NTTとかなりやり合っています。

房野氏:そういわれてみれば、今の通信会社の社長は、NTTと戦ってきた経験のある人たちなんですね。

石川氏:そうなんです。だからこそ、NTT法の撤廃に危機感を覚えています。

石野氏:なのに、仲間だったはずのドコモが、しれっとNTTに合併されています。

房野氏:今でも、光ファイバーの貸し出しに関して、接続料の交渉のような場は定期的に設けられているんですか?

法林氏:各社統一ルールで借りているので、接続料で各社に差が出ることはない。ただし、金額の算出に根拠が求められるので、その段階での検証はあるはずです。

房野氏:金額は法律で決まっている?

石野氏:いや、算定の方法が決まっている形ですね。

法林氏:NTTとしては各社に同じ条件で貸し出さないといけないので、特定の会社だけが交渉で安くなるということはありません。こうしたことも踏まえて考えてもNTT法は廃止すべきではなく、現状に合わせて、見直しが正解だと思います。もし、「規制緩和だ」とばかりに廃止してしまうと、後から相当面倒なことになると思います。

石川氏:ドコモの完全子会社化の時には、高橋社長も宮川社長も、あまり焦っている感じはなかったですよね。

石野氏:会見はしたけれど、社長が登壇することはなかったですよね。ただし、ドコモの子会社化の時もそうだし、NTTレゾナントのドコモ子会社化の時も、反対意見は出しています。

石川氏:ただし、残された時間はあまりない。

石野氏:自民党で原案はできているので、リミットは2023年11月内。年内に方向性を確定させて、2024年から法改正の準備という流れです。

石川氏:一応、第1段階は2024年の通常国会で、NTT法を改正して、研究成果の公開義務の撤廃、第2段階の2025年の通常国会までに、電気通信事業法の改正、NTT法の廃止が盛り込まれている。NTT法の廃止までは、まだ少し時間があります。

石野氏:とはいえ、NTT株の売却資金は防衛財源には充当されないと……。

石川氏:防衛財源に充当するという構想は、NTT側が描いたシナリオなんじゃないかとすら思います。その方が合点がいく。

石野氏:ただし、防衛財源にしないとなると、前提が違う。自民党がやっていることは詐欺まがいですよね。

法林氏:結局、澤田前社長が描いたシナリオが島田社長に引き継がれ、ドコモに井伊社長が送り込まれている。自民党には、国の競争力を高めるために必要と説明しているはずですが、自民党が本質を理解しているのかは、疑問です。

……続く!

次回は、クアルコムの新型チップセットについて会議する予定です。ご期待ください。

法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。

石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。

石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。

房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。

構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦

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