無意識に口にしてしまう「すみません」は得なのか
「すみません」が口癖のようになっている人がいるが、おそらくほとんどの場合は何かあった時に条件反射的に口に出てしまっているのだろう。一部の人にとって無意識に行われている、先に謝ってしまうという“戦略”ははたして有効なのだろうか――。
■「すみません」を口癖にする“戦略”は有効
日本人はすぐに謝ってしまうので、海外に行った時は気をつけたほうがいいという話を聞いたりもする。どっちが悪いかすぐにはわからないことについては先に謝ってはいけないというのである。先に謝れば自分の非を認めたことになり、最悪の場合は相手から賠償を求められるからだ。
そうはいっても些細なことなら、先に謝って丸くおさまるのであればそれでよいともいえるのだが、実際のところ「すみません」が口癖の人は損をしているのか、あるいは得をしているのか?
ピッツバーグ大学とイエール大学の合同研究チームが今年2月(初出は2021年11月)に「Personality and Social Psychology Bulletin」に発表した研究は、謝罪が多い者は他者からどう見られているのかを実験を通じて探っていて興味深い。
つまり「すみません」が口癖になってしまっているような、自分に非がないことでも謝ってしまうという人的交流における“戦略”は有効なのかどうかが検証されたのだ。
384人が参加した実験で参加者はある人物の1週間の生活が描写された物語を読むことを求められた。
参加者には知らされていないが物語は2パターン用意されていて半数ずつになるようランダムに割り当てられた。
2つのパターンの一方に登場する主人公は日常生活の中でよく謝罪を行っているキャラクターで、もう一方の人物はその1週間で一度も謝罪していないキャラクターである。そして物語を読んだ参加者はその主人公について詳しい人物評価を行ったのだ。
収集された人物評価データを研究チームが分析したところ、、頻繁に謝罪するキャラクターは、一度も謝罪しなかったキャラクターに比べて、誠実さや温かさなど、より社交的な資質を持っていると認識されていることが判明した。
その一方で頻繁に謝罪するキャラクターは、積極性や自信などの主体性の資質が少ないとも認識されていた。つまり謝罪が多い人物は周囲への思いやりに富んでいて、我や押しが弱いキャラクターであると思われる傾向があることになる。
「すみません」が口癖になっているような人物の謝罪はそのぶん軽く受け止められるのではないかという見解も指摘されてくるのだが、研究チームの分析によると頻繁に謝る者から謝罪を受けた時と、めったに謝らない者から謝罪を受けた時と、その謝罪に対する反応には変わりはなかったということだ。
ということは些細なことでも頻繁に謝る者は社交的でおおむね好感の持てるキャラクターに見られるぶんだけ“得”をしていることになる。「すみません」が口癖の者の“戦略”はそれなりに有効であったのだ。
そして頻繁に謝る者の“戦略”が有効であるということは、たとえ無意識的にではあれ「すみません」がすぐに口に出てしまう者は、案外ちゃっかりした利己的な人間である可能性も浮上してくる。
先に謝って“保険をかけて”おくことでアドバンテージを得ようとしているかもしれないからだ。