アメリカ・ニューヨーク州ブルックリンの街に、1988年に生まれたブルックリン・ブルワリーは、今や世界で屈指のクラフトビールメーカーだ。創業35周年を記念して来日したヘッドブリュワーのギャレット・オリバー氏に日本のクラフトビールについて聞いた。
ブルックリン・ブルワリーのヘッドブリュワーであり、クラフトビール界ではカリスマ的存在のギャレット・オリバー氏。2023年11月20日、キリンビール主催のイベントにて
ますます広がるクラフトビールの多様性
ブルックリン・ブルワリーは日本では2017年からキリンビールと提携して事業を展開、2020年には世界で初となる旗艦店「B by the BROOKLYN BREWERY」を東京・日本橋兜町の、東京証券取引所のすぐ前にオープンしている。
日本橋兜町の「B by the BROOKLYN BREWERY」。「ブルックリンラガー」「ブルックリンソラチエース」などの定番に加え、ここでしか飲めないアメリカ直輸入ビールも(提供/ブルックリン・ブルワリー社)
場所柄、B by the BROOKLYN BREWERYはアーバンでスタイリッシュな雰囲気に包まれているが、本家ブルックリンも近年は「世界の訪れてみたい街」に選出される人気の街。ブルワリーはその観光名所のひとつに数えられている。ローカルに根ざしたビール造りを続けている点でも、ブルックリン・ブルワリーはクラフトビール界のお手本になっている。
ブルックリン・ブルワリーのフラッグシップ「ブルックリンラガー」(提供/ブルックリン・ブルワリー社)
そんなブルックリン・ブルワリーで、ギャレット・オリバー氏は1994年からヘッドブリュワーを務める。17年前の初来日以来、6~7回も訪れているという日本好きだ。
コロナ禍を挟んで5年ぶりになった今回の訪日。日本のクラフトビール市場に印象についてたずねると、まずアメリカと日本の土壌の違いについて話した。
「アメリカでも1970年代半ば、ビール会社は40社ほどしかありませんでした。しかし1970年代後半に自家醸造(ホームブリューイング)が合法化され、そこからアマチュアの醸造家がたくさん生まれました。いわばクラフトビールのつくり手です。この点、日本では自家醸造は許されていないので、つくり手の予備群がいないという違いがあります。ビール文化をていねいに説明できる人が少ないということです」
クラフトビールは2000年代に入ってから世界的に注目され、人気を博してきた。1980年代生まれのブルックリン・ブルワリーは、そのリーダー的ブルワリーのひとつだ。それから35年が経ち、世界のクラフトビールシーンも変化した。
「私たちの造るビールやスタイルが、世界でフォローされる時代もありました。しかし現代、SNSの普及によって情報はすぐに共有され、私たちと世界のブルワリーのギャップは縮まってきました。今は、特定のビールスタイルが世界で流行るというより、その国に根ざしたビールが生まれる飲まれる時代になってきました。ますます多様なビールが登場し、その流れの中で日本のクラフトビールも注目されるようになっています」
アメリカのマイクロブルワリーの数は、正確なところはわからないが1万軒近い。一方、日本でもこの数年激増し、700軒を超えている。ほぼラガー一色だった日本のビール市場は確実に変化している。日本のブリュワーたちが醸造技術をはじめ流通、品質管理などを学び、地道に蓄積してきた結果だ。