スペアである補修用内なべを再利用
村田氏は、炊飯器の設計を数多く手掛けた技術者というわけではない。しかし上述の問題と、村田氏の学生時代の経験から「直火で米を炊く釜」の構想に至ったとのこと。
「学生時代、私は野外活動施設でアルバイトをしていました。そこでソラマメ型の飯盒で米を炊いたのですが、正直どんな味だったのか覚えていません……。覚えていないということは、大して美味しくはなかったということでしょう」
飯盒炊飯は、決して簡単ではない。焦げるのを恐れて早めに切り上げてしまえば、米に芯が残ってしまう。
故に、これから開発する直火釜は手順さえ守れば誰でも上手に米を炊けるほど簡単な製品でなければならない。
『魔法のかまどごはん』は、丸めた新聞紙を燃料にする。米の量によって炊飯時間=新聞紙の量は異なるが、マニュアル通りのペースで1本ずつ棒状の新聞紙を投入すれば誰でも素晴らしい出来栄えのご飯が炊ける仕組みだ。
新聞紙を入れる丸い穴が2つ開いているが、左右交互に新聞紙を入れて点火することで安定した火力を保てるという。
もちろん、筆者はこの製品を実際に使っている。最初は半信半疑ではあったものの、マニュアル通りの方法で見事な米飯が完成してしまった。芯も余計な焦げもなく、電気炊飯器で炊くのと遜色ない「ご飯」だ。
「この製品のプロトタイプは、植木鉢で作りました。この丸い穴にも理由があって、四角い穴だとどうしても新聞紙が燃え残ってしまうのです」
誰でも安全に米が炊ける
「誰でも簡単に米が炊ける」というのは、「誰でも安全に米が炊ける」ということと同義である。
火を使う以上、それが火災の原因になってしまうことも。故に、新聞紙の燃え残りはあってはならない。
「燃え残りがあると、新聞紙を取り出す際に空気を取り込んで突然火が大きくなります。それが火災の原因になることもあります。お客様にとっての安全が第一ですから、燃え残りに関しては妥協できません」
『魔法のかまどごはん』は災害発生時の避難所でも利用できるほど簡単な構造・仕組みではあるが、だからこそ「火災を発生させてはならない」ということに関しての工夫がこれでもかというほど注がれている。そのあたりは、村田氏がアルバイトをしていた野外活動施設が現在直面している問題にもつながる。
「ああいう山奥の野外活動施設でアルバイトをする若者は、めっきり少なくなりました」