生成AIは開発途上国の労働によって成り立っている
IGFでは対話型で議論するタウンホール形式のセッションもあり、その一つ「生成AIが与える開発途上国への影響」では、開発途上国におけるデジタルエコノミーなどを専門とする神戸情報大学院大学副学長の内藤智之氏が進行役を務め、グローバルサウスでインターネットの運営やその課題に取り組む4名のパネリストが参加し、参加者も一緒になって興味深い議論が行われた。
セッションではなかなか機会がない開発途上国の状況をいろいろ知ることができた。
開発途上国にとって生成AIは多くの人たちにチャンスを与える可能性があるが、デジタルリテラシーという高い障壁があり、どのように教育を行っていくかが重要になる。一方でツールを使えば簡単に生成AIを使うことができ、北マケドニアのある村はフェイクニュースを作るビジネスで収益を得ているという状況も生まれている。
生成AIの大規模言語モデルに使われるデータを選別するアノテーションと呼ばれるラベリング作業は、開発途上国の労働によって成立しているとの指摘もあり、こうした現状に世界はもっと目を向けるべきとの意見が出された。
また、AIが労働を奪うという疑念は以前からあるが、インドはIT関連の仕事をする人たちが多いため、生成AIは慎重に活用しなければ大きな影響が出る可能性があるという。国連の専門機関の一つであるILO(国際労働機関)では生成AIが世界の労働に与える影響を調査したところ、主に事務職が自動化されると考えられることから、比較的高所得な国で事務職に就く女性が受ける影響が大きくなるだろうと報告されている。
本セッションは生成AIについてはネガティブな意見が多いように見えるかもしれないが、全体として活用には前向きで、だからこそその使い方を真剣に考えていく必要があるということを感じさせられた。
今回のIGFで行われた様々な議論のレポートは公式サイトで公開されている。社会課題の解決以外にもビジネスのヒントになるような情報もあるかもしれないので、この機会に一度アクセスしてみることをおすすめしたい。
取材・文/野々下裕子