世界の3分の1がインターネットにアクセスできない
AI開発に伴うリスクと課題について質問されたGoogleのMetaからは、AIの急速な進化を心配する声があるのは理解するが、科学や医療、農業といった幅広い分野で成果を出していることにも目を向け、バランスのある考え方をするのが大事ではないかといったコメントがあった。また、リスクや課題に対しては業界全体で取り組まねばならず、IGFのような場で議論を続けることが重要だとしている。
同様の意見はインドネシアやシンガポールといった国からもあり、AIの課題については自国でそれぞれ取り組みつつ、世界で共通ルールも作っていくことが大事で、グローバルサウスではデジタルリテラシーやデバイドの問題も含めて議論を進める必要があると提案された。
国連の調査によると、世界人口の3分の1にあたる26億人がインターネットにアクセスできない状況にあり、ITUではこうしたデジタルデバイド解消の方法として、AIを活用して学校でネットにアクセスする適切な方法をAIで検討し、コストを削減する活動を行っているとしている。
ITUでは他にも、自然災害のモデリングや緊急通信でもAIを活用する方法を検討しており、前向きな変化によってリスクや課題の解決はできるだろうとボグダンマーティン氏は説明する。そうした活動の一つに「AI for Good Global Summit」の開催があり、約40の異なる国連機関と協力していることが紹介された。
ITU事務総局長のドリーン・ボグダンマーティン氏はAIを活用してデジタルデバイドを解消する活動など紹介。
インターネットの父曰く、AIの問題はソフトウェアにある
AIに対して多くの人たちが持つ危機感について、テクノロジーで世界に革命を起こしてきたサーフ氏は「私はAIの専門家ではないが、AIもインターネットもソフトウェアで作られた大きな人工物でしかない」と言い切る。
「私たちの生活はソフトウェアに強く依存しており、そこにはリスクも伴う。バグを見つけて修正するのが難しいのと同じように、AIの問題を見つけるのは難しく、いろいろな問題が起きるだろうが、それはコンピュータが登場した時にも経験したことだ。今後AIの開発ルールを検討するなら、ソフトウェア全般についても責任ある開発と使用を考えるべきだ」とコメントした。
インターネットの父と呼ばれるヴィント・サーフ氏は「AIは巨大なソフトウェアにすぎない」と言い切る。
村井氏は「AIで扱うデータの正確性についても問題視する必要がある」と指摘する。「現在の生成AIは他人のSNSコンテンツやIoTセンサーのデータなどWeb上のあらゆる情報を用いているため、データの正確性と信頼性で大きな問題が生じている。それを解決したいのであれば、データの精度やどこが出所なのかといった追跡性も必要なのではないか」と意見を述べた。
日本のインターネットの父として知られる慶應義塾大学名誉教授の村井純氏も参加。
パネルディスカッションではこの他にもたくさんの質問と意見が出されたが、ここで何らかの答えを出すというよりは、この後に続くセッションで議論するために必要な情報を提供するというところがあるように感じられた。個人的にはややもの足りないものはあったが、視点を広げるという意味で参考になる情報はいろいろあった。