最近、街中で「ちいかわ」と「おぱんちゅうさぎ」を目にしますね。ディズニーやサンリオやポケモンなど、超大手ではないキャラクターがこんなに席巻するのって久しぶりではないでしょうか。「ちいかわ」と「おぱんちゅうさぎ」が何なのか知らない人はすみませんが、ネットで調べてみてください。
さて、「ちいかわ」も「おぱんちゅうさぎ」もパッと見はひたすらかわいく、両者ともうるうるお目々が特徴的ですね。何年か前にいわゆる「ぴえん」マークが流行してから、うるうるお目々はトレンドですねえ。かわいいねえ。そしてそんな両者に共通するのはやはり、ただかわいいだけではなくて「かわいそう」なんですね。
例えば、「ちいかわ」だったら友人と受けた試験に自分だけが落ちてしまう、とか、理性が残ったままモンスターに変えられるとか。それでも「ちいかわ」はうるうるお目々で一生懸命耐えてがんばるんですねえ。かわいい。「おぱんちゅうさぎ」も、いたずらして怒られている犬の代わりに自分がやったと犠牲になったりラーメンを頭からぶっかけられたり。不憫。でもいつものうるうる表情でがんばるんですねえ。かわいい。
イケイケドンドンな時代に支持された「たい焼き先輩」
え、しかしどういうこと? キャラクターがかわいそうでかわいいって。ミッキーもピカチュウもハローキティも全員ハッピーで、不憫さ0%。キラキラしているのがデフォなのに。
いろんな記事を読んだのですが、どうやら「かわいそう」に対してみんな自己投影をしているようなんですね。うまくいかない現実世界、不条理な家族関係、不憫な自分自身。それを「ちいかわ」や「おぱんちゅうさぎ」に投影させて、それでも健気にかわいく生きている両者を愛でることによって自己肯定感を高めているのでは、とのことです。ほうほう。新しいスタイルだな。いや、待てよ。それなんか聞いたことある。温故知新アナリティクス発動。そうだ! 『およげ!たいやきくん』だ。
1976年に発売された『ひらけ!ポンキッキ』発の楽曲は何と450万枚のセールスでいまだに日本で一番売れたシングルです。内容は「たい焼きがたい焼き屋さんから脱走して、海に逃亡する。しかし、釣り針に捕まりまたしてもたい焼き屋へ強制送還」という悲しみを帯びた楽曲。子門真人さんによる独特な歌唱もヒットの一因とはいえ、にこにこ笑うたい焼き君が厳しそうなたい焼き屋さんのおじさんから逃げ出すアニメーション、そして最終的にまた出戻るオチはエレジー好きな日本人にブッ刺さったわけです。そう、かわいそう。「ちいかわ」と「おぱんちゅうさぎ」の源泉はここにあったのでは。たい焼き先輩。「自己投影」という部分でも似ているようで、当時イケイケドンドン好景気の日本、今でいうブラック企業で社畜として働かされていた企業戦士たちは自分のこととたい焼きをリンクさせ、その不憫さ、そして健気さに心を打たれたのではないでしょうか。
そう考えるとかわいいものにかわいそうなことをさせるのは定期的にヒットしていたのでは、と思い返されます。キャラクターではないですが、朝の連続テレビ小説『おしん』もドラマ『家なき子』も幼くてかわいらしい小林綾子さんと安達祐実さんにかわいそうな目にあってもらってましたね。『Mother』の芦田愛菜さんもかわいそうだったなあ。え。なに? かわいいものがかわいそうで不憫でだけど、健気だったらいいの? だったらガチャピンは運動神経抜群でどんなスポーツもこなすキャラじゃなくて、血ヘド吐きながら練習してようやくできるようになった過程を見せたほうが売れた、てこと? アンパンマンも空なんか飛んでないで100kmマラソンしたほうが売れた、てこと? そう考えたら確かに劇場版になるとのび太もしんのすけも不憫で健気だな。不条理とまではいかないにしても。でも狙いすぎるとあざといですよね、「かわいそう」って。この両者の成功を受けて、かわいそうの配分を間違えた亜種が出てくるのはニタニタしながら見てようと思います!
文/ヒャダイン
ヒャダイン
音楽クリエイター。1980年・大阪府生まれ。本名 前山田健一。3歳でピアノを始め、音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、本格的な作家活動を開始。様々なアーティストへ楽曲提供を行ない、自身もタレントとして活動。
※「ヒャダインの温故知新アナリティクス」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME12月号に掲載されたものです。