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もはやクルマの域を超えたベントレーの超高級コンバーチブル「コンチネンタルGTC Azure V8」

2023.11.21

さらに驚かされる魅力的なオプションの数々

 価格だけを見れば世の中にはもっと高いクルマもあるけれども、4000万円に届こうとしている。さらに驚かされるのは、この価格には前述の「Bentley ローティングディスプレイ」などのオプションの代金は含まれていないのである。

 試乗車に装着されていたオプションは、他に7つ。LEDウェルカムランプ、ブラックラインスペック、ヒーテッドステアリング、クロームピンストライプ、Bang&Olfsenオーディオ、セルフレベリング・ホイールバッヂ、レッドキャリパー。全8つのオプション価格の合計が、321万5810円。

 実は、このクルマに装着されているオプションはこれだけではない。他に「マリナーオプション」と呼ばれるオプションも装着されているのである。マリナーとは、コーチビルダーの「H.J.マリナー」のこと。馬車時代から車体を製造し、クルマの時代になってからはロールス・ロイスやベントレーなどのボディーを製造してきた。

 前述した、クラインブルーという濃い紺色の革内装とダイアモンドキティング、その刺繍なども「マリナーオプション」なのだ。それらの合計額が「約700万円。正確に算出できないのは、個々の価格が細かく変動するためです」(ベントレージャパン・広報スタッフ)。

 ということは、この試乗車の合計金額は、3946万8000円+321万5810円+約700万円=約4968万3810円。つまり、ほぼ5000万円ということになる。値段の高さだけで驚くのも野暮というもので、さらに驚かされてしまうのはオプションの数である。数えてみたら108もあった。まさに煩悩そのものだ。

 それらのオプションも、前述の通りスタンダードのオプションとより凝った「マリナーオプション」がある。何を選んで、どんなクルマに仕立て上げていくのか? 世界に一台だけの自分のベントレーを誂えたい、とクルマ好きならば興奮するだろう。

「ただ、これだけオプションがあると、迷ってしまってなかなか選び切れません。時間を節約するためにも、あらかじめ快適性を重視したオプションをセットにしたのが、この“Azure”というグレードです」(同上)

「コンチネンタルGTC」でスポーティなオプションを予め装備したのが“スピード”と“S”で、ゴージャスなオプションがセットされたのが“マリナー”、そしてスタンダード版の5グレードが「コンチネンタルGTC」には用意されている。

 この「選び切れないから、予めオプションを見繕ってグレードを設定する」という商品企画は、ベントレーでは「デリバティブモデル」と呼んでいるが、近年の高級車メーカーに共通している傾向だ。顧客が全員、熱心なクルマ好きとは限らないし、そうした人々にもまずは買ってもらって、2台目、3台目と将来に渡っても顧客であり続けてもらいたいからだ。

 富裕層相手のビジネスには驚かされてしまうことの連続だが、さらにスゴいのはオプションリストには載っていないものを装着するとか、特別な刺繍を施すとか、色見本にはない色でボディや内装などを塗りたいというビスポークサービスにもベントレーでは応じているところだ。

 好みやイメージを反映させて、スタッフとのやり取りを重ねてイギリスに発注する。時間も掛かるし、もちろん価格だってそれなりに上昇する。見本もないから、完成するまでどんなクルマになるのかわからない。108のオプションで驚いている場合ではないのだ。

 ビスポークからしてみたら、108のオプションからいろいろ選んで1台を仕立てたとしても、それはカナしいかな既成のオプションを組み合わせて、“あてがえられたクルマ”にしか見えない。極端な例を大袈裟に述べているのではなく、戦前のロールス・ロイスやベントレーなどの超高級車の多くはそうして仕立てられていた。専用ボディをデザインすることから造られ始められるクルマも少なくなかったのだ。それに較べれば、現代の超高級車のボディは共通だから、だいぶ平準化されている。

 とは言っても、顧客とスタッフが向かい合い語り合って1台を造りあげていくというアナログそのものの手法で成り立っている超高級車の世界の奥深さに感嘆させられてしまう。「コンチネンタルGTCアズール」の出来映えも素晴らしかったが、それを支えているベントレーの企画と製造と販売の態勢の周到さに驚かされた。もはやクルマであって、クルマの範疇を越えているような気もしてきた。

■関連情報
https://www.bentleymotors.jp/models/continental-gtc/continental-gtc-azure/

取材・文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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