11月2日に政府が決定した「デフレ完全脱却のための総合経済対策」は、日本経済にどのような影響を与えるのか?
三井住友DSアセットマネジメントはこのほど、同社チーフマーケットストラテジストの市川雅浩氏がその時々の市場動向を解説する「市川レポート」の最新版として、「岸田首相の総合経済対策が日本経済に与える影響について」と題したマーケットレポートを公開した。レポートの詳細は以下の通り。
経済対策は日本経済の成長型経済への転換を目指し、定額減税、給付金などが盛り込まれた
政府は11月2日の臨時閣議において、賃上げや国内投資の促進策を盛り込んだ「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を決定した。
今回の総合経済対策は、日本経済を「コストカット型経済」から「成長型経済」に転換することを目的としており、過去30年にわたって賃金や設備投資などが抑制されてきた状況から脱し、持続的な賃上げや活発な投資が実現するための具体的な施策が、「5本の柱」にまとめられた(図表1)。
注目されていた減税策については、1本目の柱である「物価高から国民生活を守る」に盛り込まれた。それによると、2024年6月から、納税者と配偶者を含む扶養家族1人あたり4万円(所得税3万円、個人住民税1万円)を差し引く定額減税が実施されることになる。
また、住民税の非課税世帯には、1世帯あたり7万円が給付されるが、3月に決定した物価高対策の3万円の給付と合わせると、給付金は10万円になる。
真水は20.9兆円程度に、コロナ対策に比べると縮小したが、コロナ前をみれば依然規模は大きい
今回の総合経済対策の規模は37.4兆円程度で、このうち国・地方の歳出(いわゆる真水)は20.9兆円程度となった。なお、11月10日に閣議決定された2023年度の一般会計補正予算では、総合経済対策の関係経費として13.1兆円が計上された。
これに伴い、国債が追加で8.9兆円発行されることになったため、総合経済対策の裏付けとなる補正予算の7割近くが国債で賄われることになる。
ただ、補正予算に計上された13.1兆円には、2024年6月から始まる所得税と住民税の定額減税などの経費は含まれていない。これらを含めると、17兆円台前半に膨らむ見通しとなり、財源を国債に依存する流れが続くことも考えられる。
今回の真水(20.9兆円程度)は、新型コロナウイルス禍以後の経済対策における金額(30兆~40兆円台)と比較すれば、かなり縮小したが、コロナ前と比べれば依然規模は大きいといえる。
一定効果は期待できるが潜在成長率の3年で1%は高い目標、施策の進捗の定期点検は必須
内閣府の資料では、今回の総合経済対策による経済の押し上げ効果について、実質GDP換算で19兆円程度、年成長率換算で1.2%(今後3年間で政策効果が発現すると仮定した場合の単純平均)という試算が示されている。
今回の対策は、景気を一定程度下支える効果は期待できると思われるが、定額減税や給付金、エネルギー関連の補助金延長などは高い消費性向を期待し難く、実際の需要創出効果は限定的になることも予想される。
政府は0%台にとどまる日本の潜在成長率について、3年を目安に1%への引き上げを目指している。潜在成長率は労働、資本、生産性の3つの要素からなり、今回の対策でも国内投資を促す補助金や、中小企業の省力化投資支援策など、3要素を底上げするための施策が盛り込まれた。
成長底上げのための方向性は正しいとみているが、3年で1%はかなり高い目標であるため、少なくとも進捗状況の定期的な点検は必須と思われる。
出典元:三井住友DSアセットマネジメント
構成/こじへい