無線通信機器メーカーのアイコムは、海上用と陸上用LTE無線の二つの通信方式を搭載した世界初(※)のアナログ無線とLTEのハイブリッド型IPトランシーバーを開発。2024年3月予定でヨーロッパ20か国以上とアメリカなどで販売を開始する。
※同社調べ(2023年11月)
同社によれば、港湾での大型船舶の入出港や荷役作業をサポートする船舶のほか、陸上の救急救命機関との連携が必要なレスキュー艇などによる需要を見込んでいるという。
世界初の国際VHF搭載のIPトランシーバー、ボタンひとつで海上と陸上の通信を切り替え
新製品「IP-M60」は、航行の安全確保の手段として世界共通で利用されているアナログ無線機(国際VHF無線 ※)と、携帯電話回線(LTE)の届くエリア内であれば距離に関わらず通話できる陸上用のIPトランシーバーの2機種を1台にした、世界でも類を見ない“ハイブリッド型”IPトランシーバーだ。
2台分の通信機能をもたせながら、回路設計や構造部品の工夫により小型軽量化(幅61.7×高さ140.5×奥行き42.8mm、約320g )にも成功している。
※国際VHFは、海上で船舶が安全に航行するために、他船や港湾と通信ができる世界共通の無線通信システムです。
通常、船舶用のトランシーバーは、原則的に船舶の航行中、入港中のみ運用が可能となっている。そのため、入出港時などでの他船との安全確保や連絡には利用できるが、停泊後の貨物の荷渡し時や、所属する海運会社などへの連絡には使えない(利用する国の法律によって異なる)。
また、同社従来製品のIC-M85など、国際VHFに近い陸上業務用無線周波数を使って通信が可能なトランシーバーもあったが、直接電波が届く範囲での通信しかできないため、遠距離間や倉庫の内と外の作業員と連携をとることができなかった。
これに対して新製品は、陸上用の通信としてLTE無線を利用するため、携帯電話の通話エリア内であれば遠く離れた事務所や物流拠点などともボタンひと押しで連絡を取り合うことができる。
また、PTTボタン(送信ボタン)をふたつ装備し、ボタンを押し別けることで海上通信(国際VHF)と陸上通信(LTE無線)の送信を切り替えることが可能だ。
受信は特別に操作することなく海上用・陸上用両方の通信を聞くことができるため、航行の安全に関する連絡と、業務連絡のどちらも行ないたい港や国際河川、運河の近辺で便利な利用が期待できる。
■ヨーロッパ最大級のマリン用品見本市で初披露、20か国以上で来春販売予定
新製品は、海運事業社のほか、港湾業務や沿岸警備、レスキュー、ヨットレース、メガヨットと呼ばれる大型のクルーズ船などでの使用が想定されている。
ヨーロッパでの先行販売に向けて、オランダ・アムステルダムで2023年11月15日から17日(現地時間)に開催された、ヨーロッパ最大級のマリン用品見本市「METSTRADE 2023」に製品を出展して、初披露を行なった。
販売はヨーロッパ20か国以上に加え、アメリカ、中東、アフリカで2024年3月から順次開始され、その後はカナダ、オーストラリアでの販売も予定されている。
構成/清水眞希