昨年、コカ・コーラ社が「LGBTQ+アライのためのハンドブック」を導入、全国約2万人の従業員に配布したことで話題になった。これは、LGBTQ+当事者のサポートを目的とした手引きなのだが、正直「アライ(ALLY)って何?」とLGBTQ+の後にくっつく耳馴染みのない単語に戸惑った人も多いと思う。
ある日の夜、仕事を終えて家でリラックスしていると編集者の友人から電話が来た。「LGBTQ+の当事者目線で、ALLYの存在ってどう思う?」と。これも何かの縁だ。今回はゲイである私が、実体験も交えながら、“本当のALLYとは何か”をみなさんと考えていきたい。
私は性自認男、恋愛対象男のゲイである
ALLYについて考える前に、自己紹介をしよう。
私は、外資系企業で働く31歳の会社員。そして、性自認男、恋愛対象男のいわゆるゲイだ。
なんとなく小学生の時から違和感を抱いていたけれど、完全に自覚したのは高校生の時。当時はアプリなんてなくて掲示板を使って男性とやりとりしていた。初めてのパートナーができたのは大学生になってから。これをきっかけに周りにカミングアウトした。一番大きな壁だったのは家族へのカミングアウト。これができたのは20代後半になってから。今では友人も家族も、さらには会社の同僚や上司にもカミングアウトしている。
しかし、厳密には全員ではない。家族の中でも父親と兄にはこのことを伝えていない。なぜか。拒絶反応を起こすのが目に見えているからだ。特に父親はそうだろうと思う。以前父親にどこに行っていたのか聞かれて「2丁目」と答えたら、男同士の恋愛なんて気持ち悪い、そう言われた(同時に2丁目が同性愛者の街だと知っていることには驚いたが)。
人がLGBTQ+に対してどう思うかは自由だ。しかし、それを言葉にした時、場合によってはナイフよりも鋭利で、拳銃よりも威力のある凶器になる。
LGBTQ+を支援する存在、ALLYとは?
アライに関する解説(「LGBTQ+アライのためのハンドブック」より)
ALLYの定義を確認しよう。
前述した「LGBTQ+アライのためのハンドブック」によれば、「自分自身が性的マイノリティであるかどうかによらず、積極的にLGBTQ+を理解し、社会や職場をより良いものにしていく人たち」と解説されている。語源は、同盟・支援などを意味する英語「ally」だ。
さらには、「多様性に配慮した言動をしたり、誰かが不適切な発言をした際に指摘したり、レインボーカラーのグッズを身近に置いたりすることで、『アライである』というメッセージを表現することができ、カミングアウトしなくても、そばに『アライ』 がいることで、当事者の心理的安全性が高まる」とある。
確かに、これはその通りだと思う。父親から言われた言葉は今でも記憶に残っているし、その時抱いた感情も鮮明に覚えている。だけど、同時に私を受け入れてくれる人たちがいたから、深く傷つかずにいられた。
同時にこんなことも思う。そもそもこのハンドブックが発行されるほど、自身が分類されるLGBTQ+の人々は社会的にまだ弱い立場にあると。
LGBTQ+は性的マイノリティを表す言葉として生まれてからすでに30年以上が経つが、法整備も含めて当事者の環境は決して良いとは言い切れない。ハンドブックを出すほど人々に啓蒙していかないといけない状況にある。
異性愛者が、「自分は異性が好きなんだ」とカミングアウトすることがないように、LGBTQ+の人たちがカミングアウトを必要としない世界こそが、本当の意味での心理的安全性ではないだろうか。
そのために“今は”私たちにとってALLYが必要である。