あなたは人から「なにが言いたいのかわからない」と言われてしまったり、メールの文章が長すぎて肝心な要件が伝わっていなかったという経験はありませんか? ついいろいろ言いたくなってしまい、伝わらないモヤモヤを抱えていませんか?
実は、このような悩みは「ひと言でまとめる技術」の手にかかればすべて解決してしまいます。ポイントはたった2つ。「捨てる」それから「まとめる」。このコツさえつかめば、伝わり方が劇的に変わります!
言葉をまとめるプロが明かす、言語化と伝え方の究極のスキルをまとめた書籍『ひと言でまとめる技術 言語化力・伝達力・要約力がぜんぶ身につく31のコツ』の中から一部を抜粋・編集し、雑談でたくさんモヤモヤを解消するヒントをまとめました。
ひと言でまとめるために必要な「適切な物の考え方」とは?
[問題]伝え方がうまい人とは、どのような人のことでしょう?
1 多くの言葉を知っている人
2 ユーモアにあふれた人
3 表現力豊かな話し方をする人
どれも正解! と言いたいところですが、私はこう考えています。
それは「そのとき、その場所、その相手に対して適切な伝え方ができる人」です。
あなたは、お葬式の席で遊びに行く話をするでしょうか?
結婚式のスピーチで、人間の寿命の短さを語るでしょうか?
恋人と一緒にいるときに、昔の恋人の話を堂々と語るでしょうか?
たとえが極端かもしれませんが、多かれ少なかれ、人はついこのような「相手のことを考えない発言」をしてしまうものです。
たとえばあなたが5社競合のプレゼンに臨むとします。もちろん企画内容やチーム編成は大事ですが、チームリーダーがとくに気にするのは「発表の順番」です。というのも、1社1時間でも5社となると5時間。途中、休憩も入るでしょうから、プレゼンは1日がかりです。受ける側の負担も、それなりに大きくなります。
順番を自由に選べるなら、トップバッターか最後を取りたがります。
これは「一番手なら強い印象付けができる」「ラストなら記憶が新しいまま採点に入ってもらえる」といった理由からです。
逆に、もっとも避けたいのは「お昼休み直後の時間帯」です。いったん緊張が切れ、しかもランチ後で眠たくなる時間帯だからです。
もちろん、不利な時間帯だから必ずしも負けるわけではありません。
ですが、ここでポイントなのは「優秀なチームは、プレゼンの時間帯によって話す内容を変えている」ということです。朝イチとお昼直後とラストでは、当然聞き手の精神状態も違います。
話し始めたときに受け手が「あくびをしている」「退屈そう」「疲れている」といった様子が見受けられれば、優秀なプレゼンターは瞬時に言い方を変えたり、ユーモアを交えたり、内容を思い切って短くしてしまうこともあります。
これらはすべて、「伝えるとは自分の言いたいことを言うこと」ではなく、「その場において、適切な伝え方をすること」という大前提を知っているからです。
このことを理解していないと、飛びつきやすいテクニックに走った挙げ句、「なんかいろいろ言ってるけど、この人の言うことって頭に入ってこないな」といった印象を与えかねません。
その場において適切な伝え方をするためには、その場において適切な物の考え方をすることが大切です。
この章では、ひと言でまとめるために必要な、11の考え方と方法をお伝えします。
【ひと言でまとめるための思考と法則・その11】たとえ話で理解を得る─たとえ思考法
■相手が理解しづらいものは、違う言葉でたとえてみよう。
私は言葉が好きでコピーライターになりました。
そんな私が毎日SNSで続けているのが、世界各国の偉人の名言を「今日はなんの日?」に合わせてつぶやくこと。本書にも先人の名言がちりばめられていますが、その多くに採用されているのが「比喩」の手法です。
●「富は海水のようなものだ。多く飲めば飲むほどに渇きをおぼえる」ショーペンハウアー
●「愛とは発熱のようなものだ。予兆もなく現れ、去っていく」スタンダール
●「精神は氷山のようなものだ。それは7分の1だけを水上に表出して浮かんでいる」フロイト
●「人生とは自転車のようなものだ。倒れないようにするには走り続けなければならない」アインシュタイン
●「信念はギロチンのようなものだ。同じように重く、同じように軽い」カフカ
このような「○○とは××のようなものだ」という構文ですが、富、愛、精神、人生、信念といった抽象度の高い物事を説明するために、たとえ話が用いられています。
また、聖書にはこういった一節があります。「放蕩息子」という有名なたとえ話です。
「また言われた、「ある人に、ふたりのむすこがあった。ところが、弟が父親に言った、『父よ、あなたの財産のうちでわたしがいただく分をください』。そこで、父はそれをふたりに分けてやった。それから幾日もたたないうちに、弟は自分のものを全部とりまとめて遠い所へ行き、そこで放蕩に身を持ちくずして財産を使い果した。」
(ルカによる福音書15章11~13節)
これは「父親→神」「放蕩息子→罪を犯した人間」を表していると言われています。キリストは、自らの教えを人々にわかりやすく理解させるために、たとえ話を多用したという説もあります。
ビジネスにおいても、たとえ話は有効です。相手が実感できないようなことも、何かにたとえて説明をすることで、あなたの商品やサービスのよさをより深く理解してくれるようになるからです。
「このアイデアは、相手に単純に説明してもわからないかもしれないな」
「この状況がいかに大事か、深く理解してもらいたい」
「この商品の先進性を、素早く周知させたい」
そんなときはたとえの法則を使って、身近で共通項のありそうなものに言い換えてみてください。
名作キャッチコピーを見てみましょう。
●鉄は、社会の骨である。(新日本製鉄)
●感動は20世紀の宗教だ。(文藝春秋)
●この涼しさ 富士山の8合目(東芝)
●生活の、同級生(伊勢丹)
●僕たちの、どこでもドア。(日産)
その企業や商品を理解させるために、対象となる人々のなかにある共通認識を引っ張り出してきてたとえています。でも、たとえるものが「どこでもドア」ではなくもっとマイナーなドラえもんの道具なら、成立しません。また、共通認識は時代によって移り変わるので、気をつけなければなりません。
ところで、ビジネスにおけるたとえ話というと、必ずやり玉に挙がるのが「野球やゴルフのおじさんたとえ話」です。
「今回の競合プレゼンは全員野球で行こう」
「彼はうちの部署のエースで4番だよ」
「今回の仕事、出だしのドライバーは勢いよかったけど、パットで失敗したね」
こういった表現をいまだによく聞きます。
これらのたとえ話が決して悪いわけではありません。ただ注意してほしいのは、先ほども述べたように、たとえ話は双方に共通認識があることが前提です。
かつての「誰もがプロ野球ナイターを見て、多くのサラリーマンがゴルフをたしなんでいた時代」は移り変わりつつあります。それを知らずに若い人たちにこれらのたとえを使っても、「?」と思われることでしょう。
たとえ話をするときは、「その場にいる人の共通認識として成立するか」を考えてから言葉にしましょう。
これまで、ひと言でまとめるためのプロセス、方法をお伝えしました。
次の章では、いよいよ実践技術をご紹介していきます。
★ ★ ★
いかがだったでしょうか?
「ひと言でまとめる技術」はビジネスパーソンの悩みだけを解決する技術ではありません。話をしてもパートナーに言葉が届いていないと感じている方。自分は面白いと思ったのに、友人の反応はイマイチ。ちゃんと伝えたつもりなのに間違った料理を出されてしまった。こんな悩みも解決する伝え方のコツも満載です。
「伝え方」を追求し続けてきた著者が、すべての「伝え方」で悩む人たちに手にしてほしい技を是非、書店でチェックしてみてください。
『ひと言でまとめる技術
言語化力・伝達力・要約力がぜんぶ身につく31のコツ』
著/勝浦雅彦/アスコム
勝浦雅彦
(かつうら・まさひこ)
コピーライター。法政大学特別講師。宣伝会議講師。
千葉県出身。読売広告社に入社後、営業局を経てクリエーティブ局に配属。その後、電通九州、電通東日本を経て、現在、株式会社電通のコピーライター、クリエーティブディレクターとして活躍中。また、15年以上にわたり、大学や教育講座の講師を務め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を数多く行ってきた。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM 最高賞、Cannes Lions など国内外の受賞歴多数。著書に『つながるための言葉』(光文社)がある。