あなたは人から「なにが言いたいのかわからない」と言われてしまったり、メールの文章が長すぎて肝心な要件が伝わっていなかったという経験はありませんか? ついいろいろ言いたくなってしまい、伝わらないモヤモヤを抱えていませんか?
実は、このような悩みは「ひと言でまとめる技術」の手にかかればすべて解決してしまいます。ポイントはたった2つ。「捨てる」それから「まとめる」。このコツさえつかめば、伝わり方が劇的に変わります!
言葉をまとめるプロが明かす、言語化と伝え方の究極のスキルをまとめた書籍『ひと言でまとめる技術 言語化力・伝達力・要約力がぜんぶ身につく31のコツ』の中から一部を抜粋・編集し、雑談でたくさんモヤモヤを解消するヒントをまとめました。
相手が話してほしいことは何かを考える
スピーチのコツに関しては、これまでご紹介した方法を複数活用してみましょう。
ビジネスでの企画提案におけるスピーチを例にしてみます。
異業種が集まる場で、自社の紹介と事業提案をする場合。
〈伝えたい内容〉
●状況:中堅ファッションブランドY社は、画期的なデザインの商品を多数発表して勢いがあったが、近年、大手メーカーZやXが似たような商品を低価格で市場に送り込み、苦戦を強いられてきた。
●課題:大手ZやXの持つ販路や販促費には太刀打ちできないが、独自の戦略で市場シェアを回復させたい。
●戦略:強みであるデザインの独自性に磨きをかけ、アーティストや他社のブランドとも積極的にコラボレーションをする。さらに、大手には手を出しづらい「オーダーメイド方式」の商品も強化。また、これまで後手を踏んできたデザインの著作権に関しても専門の知財部署をつくり、商品を守っていく。
●成果:新商品は、過去最高の売り上げを記録。またZやXを含む他メーカーの類似商品に関して厳しい法務チェック、勧告を行ったところ、後追いはなくなり、市場シェアが回復した。
さあ、この事実の羅列を読んで、どう思われたでしょうか?
きっと「ふーん」とは思っても、心を動かされることはないでしょう。
なぜなら、これは中堅ファッションブランドY社の「話したいこと」だからです。
これをほかの誰かが聞きたくなるような「ストーリー」に変換しなければ、相手に理解してはもらえません。
そこで、第3章でお伝えした法則を使って、「ストーリー」にしてみましょう。
●20文字の法則
まず、これらの事実をひと言でまとめてみましょう。
Y社がどうやって、競合他社の後追いを駆逐したのか?
答えは「戦略」の部分にあります。
「デザイン」という強みを、とにかく磨き上げたこと、そしてつくり手の権利を守ったことが書かれています。
これを20文字でまとめると。
「私たちはデザインの力を信じ抜きます」
となります。
●KISS思考法
そして「シンプルに」の精神で、Y社の課題と解決法をまとめてみましょう。
課題:つねに競合他社に後追いで真似されること。
解決:デザイン力をさらに強化し、知財の部署がガードする。
結論:この事例は、どの業界にも通じる(学びになる)。
こう整理すれば十分です。
結論が「その話を聞く理由」になっています。
さらに話を受け取りやすくするために、
●スパイシーサンド法
これは、「物語は事件から始めて3層構造に」という法則でしたね。
○!(キック)+ ?(なぜ)+ 。(結論)
この構造に従って、事実をストーリーにしていきます。
○!(キック)
あなたが手塩にかけた商品にそっくりな別の商品が、市場を埋め尽くす。そんな悪夢がやってきたら、どうしますか?
→刺激的な入りで興味を湧かせます。
○?(なぜ)
大手メーカーが、法律の隙間を狙って後追いの開発を仕掛けていたのです。販路や販促費では太刀打ちできません。
→どうしてそれが起きたのか、障壁はなんだったのかを端的に。
○。(結論)
そこで、いままで以上に「デザイン」重視の開発を行い、同時に法律の力で商品をガードし、シェアを奪還しました。
→解決を鮮やかに、スカッとする物語仕立てにしていきます。
ここまでシンプルに構造化したら、あとは肉付けを考えます。
●ポジティブ変換法
文中に「大手メーカーに後追い開発をされた」とありますが、見る人が見れば「それはあなたたちの知識が足りなかっただけだろう」といった揚げ足を取られかねません。ネガティブなことをポジティブに変換するために、こんな一節を入れてみてはいかがでしょう?
「競合他社の後追い開発を許したのは、弊社の知財の体制不足による失態です。しかし、それは払う価値のある授業料でした。おかげで私たちの本当の強みが何かを再確認することができたのですから」
●瞬間最大描写法
さらに、スピーチのヤマ場を設定しましょう。
すでに20文字の法則で設定した「まとめ」が導き出された瞬間を、まるで絵が浮かぶように表現します。たとえば─。
会議の場が煮詰まり、沈黙が支配したとき、それを打ち破ったのは参考意見を聞くために呼ばれていた入社2年目の女性デザイナーでした。
「私はY社のデザインが好きで、ここに来ました。高校生のときに初めて買ったのがY社のワンピースで、一生懸命バイト代を貯めてでも欲しいと思ったものでした。他社の誰にでも合いそうな服ではなく、Y社の服は本当に心を満たしてくれるようなデザインだったので、私もそんな服をつくりたいなって……」
そこにいる誰もが、彼女の真剣な表情に心を打たれたのです。
もう一度、強いデザインをつくる─。原点に我々は立ち返りました。
このように、実際に起こった出来事やエピソードは、ストーリーには欠かせないものです。もちろん、やりとりでスピーチを埋め尽くしてしまうと冗長になりますから、ここぞというときに使いましょう。
最後に、
●ネーミングの法則
で、その場をまとめてみましょう。
聞いてくれていた人々に、「この場は、なんのための場だったのか」を提示します。「市場のシェアを奪還した」というサクセスストーリーは、自分たちの話でしかありません。
聞いている人に対して、最後にメリットを残しましょう。
たとえば、
「私たちと『デザイン共同体』を築きましょう」
こう呼びかけてみるのはどうでしょう。
Y社がデザインを大事にしているのは十分に伝わっていますから、聞き手に対し「その考え方でつながっていきましょう」とメッセージを送るのです。
「共同体」とすることで、業界の垣根を越えたつながりにも期待ができます。
「私の話」が「私たちの話」になりました。
私たちはデザインの力を信じ抜きます。
しかし、あなたが手塩にかけた商品にそっくりな別の商品が、市場を埋め尽くす。そんな悪夢がやってきたら、どうしますか?
ファッションは、既視感との戦いです。独自のデザインを開発すべく、各社のデザイナーは心血を注いでいます。そんな我が子も同然の商品が、他社から似たような商品が出ることで、あっという間に陳腐化してしまう……。
ここ数年、我が社が直面した危機について、お話をしたいと思います。
これは、すべての業界に通じる教訓です。
私たちの強みは、冒頭で申し上げたとおり、デザインです。
優れたデザイン開発部を有し、多くのヒット商品を生み出してきました。
しかし、ある時期から、目に見えて売り上げが下がり始めました。それまでの品質を保っていたはずなのに、です。
その理由は明白でした。ある日、開発部員が営業フロアに駆け込んできました。
「うちのレディースウェアとそっくりな商品が売られている!」
いつの間にか街にあふれていた大手X社のウェアは、見た目こそ絶妙に重複を避けていましたが、縫製や材質までそっくりなものでした。
対策を考えたものの、当時の我々は知財の法律に関しては素人でした。
商品を開発しても、すぐに真似されるのであれば、いったいどうすればいいのか……。
販路や販管費では勝ち目がない。
会議の場が煮詰まり、沈黙が支配したとき、それを打ち破ったのは参考意見を聞くために呼ばれていた入社2年目の女性デザイナーでした。
「私はY社のデザインが好きで、ここに来ました。高校生のときに初めて買ったのがY社のワンピースで、一生懸命バイト代を貯めてでも欲しいと思ったものでした。他社の誰にでも合いそうな服ではなく、Y社の服は本当に心を満たしてくれるようなデザインだったので、私もそんな服をつくりたいなって……」
そこにいる誰もが、彼女の真剣な表情に心を打たれたのです。
もう一度、強いデザインをつくる─。原点に我々は立ち返りました。
デザインの独自性に磨きをかけ、アーティストや他社のブランドとも積極的にコラボレーションをする。
さらに、大手には手を出しづらい「オーダーメイド方式」の商品も強化。また、これまで後手を踏んできたデザインの著作権に関しても専門の知財部署をつくり、商品を守っていく。
それが私たちのたどり着いた結論でした。
もちろん、競合他社の後追い開発を許したのは、弊社の知財の体制不足による失態です。
しかし、それは払う価値のある授業料でした。おかげで私たちの本当の強みが何かを再確認することができたのですから。
原点を見つめる。
法律を味方につけ、大切なものを守る。
私たちが危機から学んだのは、この2点です。
これは、すべての業界に通じると信じています。
最後に、みなさんにお願いです。
私たちはデザインの力を信じ抜きます。
そんな私たちと「デザイン共同体」を築きましょう。
あらゆる業界のつながりのなかで、デザインの力を信じ、愛し、守ることで、新しい商品やサービスを生み出していけるはずです。
さあ、ともに進みましょう。
どうでしょうか。事実の羅列が、共感を生むストーリーに変換されました。
まず、自分の伝えたいことを整理する。
そのうえで、相手の聞きたいことは何かや、話してほしいことは何かということを考えながら、ストーリーにしていきましょう。
よい企画書は、文字が少なく、結論が明確で、そこにたどり着くまでのストーリーが心地よく綴られています。
まずは自分が「これはわかりやすい」「これは読んでいてワクワクする」と思う企画書を頭のなかで分解して、「どのページで何を言っているのか」「どんなストーリーを伝えているのか」を考えてみてください。
そして最後に、伝えたいことがそれぞれ「ひと言でまとまっているか」を確認してもらえれば、あなたはもう大丈夫です。
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いかがだったでしょうか?
「ひと言でまとめる技術」はビジネスパーソンの悩みだけを解決する技術ではありません。話をしてもパートナーに言葉が届いていないと感じている方。自分は面白いと思ったのに、友人の反応はイマイチ。ちゃんと伝えたつもりなのに間違った料理を出されてしまった。こんな悩みも解決する伝え方のコツも満載です。
「伝え方」を追求し続けてきた著者が、すべての「伝え方」で悩む人たちに手にしてほしい技を是非、書店でチェックしてみてください。
『ひと言でまとめる技術
言語化力・伝達力・要約力がぜんぶ身につく31のコツ』
著/勝浦雅彦/アスコム
勝浦雅彦
(かつうら・まさひこ)
コピーライター。法政大学特別講師。宣伝会議講師。
千葉県出身。読売広告社に入社後、営業局を経てクリエーティブ局に配属。その後、電通九州、電通東日本を経て、現在、株式会社電通のコピーライター、クリエーティブディレクターとして活躍中。また、15年以上にわたり、大学や教育講座の講師を務め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を数多く行ってきた。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM 最高賞、Cannes Lions など国内外の受賞歴多数。著書に『つながるための言葉』(光文社)がある。