あたらない牡蠣
濃厚な味と高い栄養価から「海のミルク」と呼ばれる牡蠣は、食中毒に〝あたりやすい〟食材としても知られる。そんな中、ウイルスフリーのあたらない牡蠣が誕生し注目を集めている。開発元のゼネラル・オイスター代表取締役・吉田秀則さんによると、鍵を握るのは海洋深層水だという。
「低温で高栄養価、さらに人間に有害な菌やウイルスがおらず、養殖海水として最適でした」
課題になったのが、餌となる微細藻類もいないことだった。そこで海洋深層水を使った微細藻類の大量培養技術を東京大学との共同研究で確立し、ウイルスフリーな牡蠣の完全陸上養殖に成功した。
「通常手法の養殖牡蠣だと出荷に2〜4年かかりますが、こちらは低温の海洋深層水を使い夏と冬の水温環境を繰り返す特許技術により11か月で出荷可能な状態まで育ちます。夏季出荷も可能で、年間を通じて牡蠣を供給できるようになりました」
今後は量産化を目指すだけでなく、「ほかの魚や二枚貝に、餌となる微細藻類を転用することも検討しています」(吉田さん)
あたらない牡蠣は、変動する地球環境から水産資源を守る最初の一歩になるかもしれない。
この陸上養殖技術がほかの魚介類へ転用されれば、安定した価格で、おいしい海産物を一年中楽しめるようになる。国内消費ばかりでなく、輸出拡大にもつながりそうだ。
牡蠣の完全陸上養殖は手法が確立されておらず、温度管理や給餌方法などすべて手探りで行なったそうだ。3年後の市場化を目指しており、販売価格は相場の2倍程度を想定しているという。
養殖海水の一部に、海洋温度差発電に利用された海洋深層水を使っている。水質はそのままに、生育に最適な16〜18℃の水温となっている。水温調整が不要なため、環境負荷が大幅に低減した。
取材・文/桑元康平