軽自動車のレベルを大きく超えた仕上がり
スーパーハイト系軽自動車ならではの室内の広さや装備類、ホンダセンシングなどについてはこの@DIMEですでに新型N BOXの概要として報告しているのでそちらをご覧いただくとして、さっそくNAエンジンモデルの14インチタイヤに対して15インチタイヤを履く新型N BOXカスタムのターボモデルを走らせてみたい。658ccのエンジンのスペックは64ps、10.6kg-m。WLTCモード燃費はカスタムのNAエンジンモデルの21.5km/Lに対して20.3km/Lになる(FF)。その差は小さく、ターボモデルでも燃費で著しく劣ることはないということだ。いや、高速走行ではパワー、トルクの余裕から、アクセルを深く踏む必要がなく、むしろ高速制限上限速度でのクルージングでは、走り方によって逆転する可能性だってありうるのである。
さて、新型N BOXのカスタムターボで市街地を走り出せば、まずはスムーズさと静かさに圧倒される。エンジンは3気筒だが、3気筒ならではの無粋な振動など皆無。アクセル操作に対するレスポンスも文句なしだった。前後して乗った標準車のNAエンジン車との差は歴然。こちらはアクセルペダルをそっと踏み込むだけでスルスルと十二分に加速する。だから静かでもある。
先代でも定評ある街乗りでの乗り心地は依然、優秀。ボディ剛性の高さ、しなやかに動く足回りによって快適そのものだ。ホンダ車はZR-Vのように硬めのアシを好む傾向にあるが、N BOXは例外的に乗り心地重視の足回りのセッティングが施されている。
一方、高速走行での乗り心地は、先代モデルの場合、やや不満が残るものだった。しかしこの新型では、先代で気になった道路の継ぎ目を高速で乗り越えた時のショック、車両の動きが抑えられ、フラット感、上質感が高まった印象だ。全車標準装備のホンダセンシングに含まれるACC(アダプティブクルーズコントロール)の作動も悪くない。電子パーキングブレーキに加え、オートブレーキホールド機能も完備する。
静かさの理由は、新型N BOX全車に施された遮音フィルムをラミネートしたフロアカーペット、厚みを増したルーフライニングに加え、カスタムはシンサレート吸音材を追加。徹底した遮音、防音対策がこの新型カスタムでは採用されているのである。
ステアリングフィールも先代に増していい感じだ。というのも、この新型ではステアリングセンターの制御を変更。電動パワーステアリングの中のトルクセンサーを、先代の計算制御からより精度の高い舵角センサー方式に変更。よって中央付近からの制御(味付け)がしやすくなっているからだ。さらに、NAエンジン車の足回りは先代といっしょというのだが、カスタムターボに限り、前後ともに乗り心地を重視しつつ、減衰力を変更。ステアリングを切ったときによりリニアに曲がるように改められている。
動力性能はこのターボモデルなら、一般道はもちろん、フル乗車での高速走行でもまったく不満のないものだが、開発陣に聞けば、よーいどんの速さ(例えば0-400m加速)は先代ターボモデルと変わらないとのこと。あくまで全高、重心の高いスーパーハイト系軽自動車を、これ以上速くしてどうする・・・という安全に配慮した結果だろう。ターボモデルにはパドルシフトも付き、下手にブレーキを踏むよりスムーズな減速も可能となる。
高速直進安定性も素晴らしかった。高速走行の試乗は横浜のベイブリッジを含む首都高で行ったのだが、当日は背の低いスポーティカーでもふらつきやすいほどの横風に見舞われていた。しかし、全高1790mmもの新型N BOXカスタムターボは、先代モデルと比べると、想像していたほどより遥かに安定し、直進性も大きく損なわれずに済んだのだ(横風の影響を受けないわけではない)。その点を開発陣に投げてみると、その理由のひとつとして、足回りブッシュの締結方法があるという。具体的には、先代までは工場の生産ラインで、空車状態で締結していたものを、この新型では(ホンダ車としてはフィット4から)乗車に近い状態(車体が乗員の重さで下がっている状態)で締結。結果、フロントアライメントが最適化され、直進性が向上している、とのこと。これは、エンジンを高回転まで回した時の、NAエンジンに対するノイズの小ささを含め、ロングドライブでのドライバーの疲労低減にもつながるに違いない。
いずれにしても、新型N BOXのカスタムターボモデルは、204.93万円からの価格ながら、内外装の軽自動車のレベルを大きく超えた仕上がり、見映えだけでなく、快適性や操縦安定性、静粛性を含む走行性能を、その点で十分すぎた先代モデルを上回る進化を見せてくれたと言っていい。依然、一家に一台のファーストカーとしても通用するスーパーハイト系軽自動車の第一人者であることに変わりはない。
もっとも、新型N BOXの発売のあと、ライバルのスズキ・スペーシアも新型となった。こちらもとくに後席の居住性やACCの制御(カーブ手前減速制御)など、かなりの進化を遂げているから、今後、両車の熾烈な戦いが火ぶたを切ることになりそうだ。
文 写真/青山尚暉