移動式脳卒中ユニットは脳卒中からの回復の可能性を高める
現在、米国の一部の大都市で導入されている移動式脳卒中ユニット(mobile stroke unit;MSU)は、脳卒中が疑われる患者の病院への搬送中に検査や組織プラスミノゲンアクチベーターを用いた血栓溶解療法(t-PA療法)を行うことができる、特別な救急車だ。
米ワイル・コーネル・メディシンなどの研究グループは、脳卒中疑いの患者を通常の救急車でER(救急救命室)まで搬送する場合と比べてMSUで搬送する場合では、t-PA療法が中央値で37分早く開始され、それにより患者が脳卒中から回復するか、あるいは症状が迅速に消失する可能性の高まることが示されたと、「Annals of Neurology」に2023年10月6日発表した。
論文の共著者の一人でワイル・コーネル・メディスンのMatthew Fink氏によると、脳卒中のほとんどは血栓が原因で発症するという。「脳細胞が死滅するスピードは極めて速いため、脳卒中の予防や回復のためには迅速に血栓を除去するか溶解する必要がある。そのため、患者をもっと早く病院に運べないものかとわれわれは感じていた」とFink氏は説明している。
そこで考案されたのが、車内で治療を行える特別な救急車をニューヨーク市内に走らせることだった。
ニューヨーク・プレスビテリアン病院のMSUは、ワイル・コーネル・メディスン、コロンビア大学アービング医療センター、ニューヨーク市消防局との協力体制の下で2016年に運用が開始された。
なお、米国で最初にMSUが導入されたのはテキサス州のヒューストンであり、現在、約20都市でMSUのプログラムが導入されているという。
Fink氏によると、このMSUにはCT検査装置が搭載され、看護師も同乗している。また、脳卒中の専門家と常時、遠隔医療システムで用いる音声通話やビデオ通話で連絡を取ることができるという。
そのため、例えば、救急医療サービス(EMS)への電話で脳卒中の症状を訴えている人の家へMSUが急行し、搬送中の車内で患者の評価と診断を行ってt-PA療法を開始することも可能だ。
t-PAには脳への血流を塞いでいる血栓を迅速に溶かす作用がある。Fink氏は、「この研究で示されたように、t-PA療法を行うことで、患者が迅速に回復し、脳卒中の後遺症が残らないようにすることができる可能性が高まる」と言う。
今回の研究では、MSUが導入されている米国内の複数の大都市の2014~2020年のデータを用いて、t-PA療法が施された1,009人の患者を対象に解析した。
このうちの644人はMSU車内でt-PA療法を受け(MSU治療群)、残る365人は救急搬送先でt-PA療法を受けていた(通常治療群)。患者の最終未発症確認時からt-PA療法を受けるまでの時間は中央値87分だった。
その結果、対象患者の27.4%(276人、MSU治療群の31%、通常治療群の21%)では、t-PA療法によって24時間以内に脳卒中が疑われる症状が消失し、15.8%(159人、MSU治療群の18%、通常治療群の11%)はMRIで脳損傷を示す所見が全く認められない状態にまで回復していたことが明らかになった。
通常治療群に比べてMSU治療群では約37分早く治療が開始されていたため、1時間以内に治療を受けていた患者が多かった。
米ケンタッキー大学神経学部長のLarry Goldstein氏は、脳卒中に対する迅速な対応の重要性を指摘。「米国のエビデンスに基づいたガイドラインは、脳卒中発症後4.5時間以内に血栓溶解薬を使用することを推奨しているが、脳の血管が閉塞した状態が長く続くほど同薬の治療効果は低下する」とした上で、「時間をセーブ(短縮)することは脳をセーブ(助ける)ことにつながる」と話している。
ただし、Goldstein氏は、今回の研究はランダム化比較試験ではないこと、参加施設のほとんどが都市部の病院であることなどの限界がある点も指摘し、「MSUは大都市圏以外の地域には適していないかもしれない」と話している。(HealthDay News 2023年10月31日)
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Photo Credit: NewYork-Presbyterian
(参考情報)
Abstract/Full Text
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ana.26816
構成/DIME編集部