初対面の人や苦手な人といっしょにいる時、一瞬の沈黙が妙に長く感じられることはありませんか? 何か会話をしたいけど、何を話していいかわからない。せっかく話しかけてもらっても、うまい返しができなくてすぐに話が切れてしまった。そんな経験がある人は多いと思います。
そのたびに、「あ~、なんて自分はダメなんだ」と自分を責めてきませんでしたか。仕事でも、プライベートでも、世の中は雑談をする機会にあふれています。だから、「雑談が苦手だ」というマインドを持っていると、思いのほか、ストレスを感じることが多くなります。でも、そうした負の感情であなたの心を満たすのは、
今日でおしまいにしましょう。
ペラペラと饒舌にしゃべることだけが雑談ではありません。あなたは、あなたにできそうなことをやりつつ、ちょっとずつ雑談の技術を身につければよいのです。そんな雑談のテクニックがまとまった書籍『雑談が上手い人が話す前にやっていること』の中から一部を抜粋・編集し、雑談でたくさんモヤモヤを解消するヒントをまとめました。
【雑談力ゼロでもすぐにできる5つのこと】「言葉のブイヤベース」をつくる
作家の開高健は、もともと名コピーライターとして活躍していました。
これは彼の文章です。
「……塔のような、帆船のような、大爆発のような」
なんのことを言っているかわかりますか。答えは「積乱雲」です。積乱雲を表現した彼の言葉です。
この言葉をはじめて見たときの印象は、「ただ、心に浮かんだことを羅列するだけでいいのか!」という驚きでした。
ひとつの雲を表すのに、いくつもの思いついた言葉を書き連ねていくことで、より具体的な雲のイメージが頭に浮かんできます。
油絵具で描くように、さまざまな言葉を塗り重ねて、「積乱雲」を描いている。そんなイメージでしょうか。
開高さんは、こういった表現を好んで使っていました。
雑談でも、この方法は大変有効なテクニックで、簡単にできる方法でもあります。
■「あれか、これか」ではなく「あれも、これも」
開高さんのこの手法は、「あれか、これか」ではなく「あれも、これも」。
言いたいことを取捨選択するのではなく、いいと思ったものは全部入れて「言葉のブイヤベース」をつくる。
このやり方を知っていると、なんだか気持ちがラクになりませんか。
「何か上手いことを言わなければ」というマインドは、プレッシャーとストレスになります。上手く整理して話すのは、意外に高いハードルがあります。
でも、そんなことはいったん忘れて、頭に浮かんだ言葉を、もっと自由に解き放っていいわけです。これはうれしい。
言葉のブイヤベースのつくり方は、こんな感じです。
たとえば、部下の評価を誰かに伝えるとき。「どんな部下なのか」を伝えるのに、次のどちらが相手に刺さると思いますか。
「◎◎さんは、切れ者だが、仕事が遅い」(キャッチフレーズ型)
「◎◎さんは、いつも、ハッとするひと言を言う。目からうろこの落ちることもある。情報通だし、人の心理を読むのもうまい。が、遅刻する。締め切りを守らない。言い訳が長い。結局、いつも間に合わない」(ブイヤベース型)
キャッチフレーズ型よりも、ブイヤベース型のほうが、部下の評価が伝わるんじゃないでしょうか。
ブイヤベース型には、鋭いひと言はひとつもありません。
ただ、状況を細かく羅列し重ねることで、キャッチフレーズ型以上に響く言葉になっています。
ブイヤベース型がいいのは、何より言語化が簡単なことです。キャッチフレーズ型は、正直簡単にできるものではありません。でも、ブイヤベース型は、今すぐにでもできます。
「ひと言でズバッと言おう」という気持ちを抑えて、的外れな言葉、多少ずれた言葉などを含めて、あれも、これも、思いついた言葉を連ねてみてください。
さらに、ブイヤベース型が上達するように、毎日できる練習法がありますので、紹介します。
[方法]
身近にある、時計、ノート、コーヒーカップなど、なんでもよいです。
モノを観察してスケッチをするように、頭に浮かんだ言葉を書き出す。これだけです。
たとえば、コーヒーカップ。
● 丸い
● 飲み口が薄い
● 手触りがなめらか
● コーヒーが美味しそうに見える
● 冷めにくい
なんでもOKです。
会話では、こんな感じで使います。
「このコーヒーカップ、丸くて、手触りがなめらか。飲み口が薄い。このカップで飲めばおいしく飲めそう」
「自分が放った言葉を相手がどう思うか」を心配するのではなく、まずは言葉数を増やしてみる。これで、話すことへの抵抗感が薄れていくはずです。
雑談が苦手な人は、頭の中で、どうしてもこう考えがちです。
「どうやって返事するのが正解なんだろう?」
「変なことを言って、バカにされたくない」
「つまらない奴だと思われるのがイヤ」
「どのタイミングで話に入れば、変に思われないだろうか?」
こんなふうに、いろいろ考えすぎて、話せなくなるくらいなら、とにかく頭に浮かんだ言葉を重ねて、口に出していく。
そもそも雑談って、そんな大事な話をくり広げているわけではないですよね。
ちょっとした合間に息抜きで話すことや、別に立ち話でもいいこと、そして、話の途中で切れてしまってもまったく構わない話のはずです。
だから、考えすぎはやめましょう。あなたは芸人じゃないんです。話がスベっても、あなた自身の評価や給料には影響しません。
私は長年、トップクリエーターを見てきました。舌ぜっ鋒ぽう鋭い政治家の近くにもいました。
彼らが日常の雑談などでも、常に世間を驚かせるようなパンチワードを繰り出しているかと言えば、そんなことはまったくありません。
むしろ、恐ろしくくだらないこと、無知なことをさらけ出している。うまく言えなくて、たくさんの言葉を重ねる人も多くいます。
世界で活躍するような彼らですら、そんな感じなのです。
あなたも、自分の口にかけている錠を外して、もう少し自由にしゃべってみませんか。
〈ポイント〉
切れ味のいいひと言を目指すより、思いつくままに言葉を並べてみる。
★ ★ ★
いかがでしたでしょうか?
初対面でも、苦手な人でも、もう怖くない会話が得意じゃない人でも大丈夫! 本書を読めば苦手な雑談がたのしくなる秘けつを学べるはずです。
以下のような「雑談コンプレックス」を持つ方は是非、書店でチェックしてみてください。
●まずもって、何から話したらいいのかわからない人
●「これを話したらどう思われるだろう?」など、相手の気持ちを考え過ぎて話せない人
●「雑談が上手い人は、話が上手い人」(だから、自分は無理)と思っている人
●雑談で失敗した経験が忘れられず、「自分は話ベタ」と苦手意識を抱えている人
●本やYouTubeで話し方を勉強しているが、なかなかうまくいかない人
●社会人になってから、友人以外と雑談することに苦痛を感じている人
●リモートが増えて人との対話・雑談に苦手意識が増した人、もともと苦手な人
●親しくない人と話すとき、チャットはできても、顔を合わせての会話に自信がない人
●天気の話すらできない、対面だと「最初の一言」を話すのが怖い人
●「傾聴力が大事」と言われ過ぎて、つかれている人
●目的のない会話の仕方がわからなくて、苦手を感じている人
「雑談が上手い人が話す前にやっていること」
著/ひきたよしあき/アスコム
ひきたよしあき
コミュニケーション コンサルタント。
スピーチライター。
大阪芸術大学芸術学部放送学科 客員教授。
早稲田大学法学部卒業。博報堂に入社後、クリエイティブディレクターとして数々のCMを手がける。
政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活動し、幅広い業種・世代の価値観、世代間のギャップ、言葉遣いの違いなどを分析し、コミュニケーション能力が高まる方法を伝授する。
また、大阪芸術大学、明治大学、慶應MCCなどで教え、「はじめて『わかった!』と心の底から思えた講義」「一生ものの考える力が身につく」と学生や社会人から支持を集める。
教育WEB「Schoo」では毎回事前予約が約20,000人、朝日学生新聞社「みんなをつなぐ新聞WEB」では、毎回1,200人近い子どもと保護者が参加する人気。
著書に『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)、『大勢の中のあなたへ』(朝日学生新聞社)、『トイレでハッピーになる366の言葉』(主婦の友社)など。