目から鱗の肝臓の正しい知識4つ
尾形先生は新刊書で、肝臓に対する新常識をたくさん紹介している。特に読んでいてハッとさせられた4項目を紹介しよう。
1)酒は百薬の長、ではない
2018年の医学雑誌、ランセットに掲載された論文によると、健康のためには飲酒量はゼロが良い、という結果になった。がんや脳梗塞などの疾患リスクは少量の飲酒でも高まるので、百薬の長とはならない。
2)筋トレ後の飲酒で、筋肉の合成が妨げられる
筋トレをすると筋肉の合成を高めるスイッチとなるmTOR(エムトール)という酵素が細胞内で働き、たんぱく質の合成を行う。アルコールを摂取すると、この作用が抑制され筋肉の合成が3割も減ってしまう。
3)ウコンが肝障害を引き起こす原因に
日本肝臓学会が、民間薬や健康食品など健康保険で承認されていないものを対象に、薬物性肝臓障害の調査を行ったところ、最も多かったのがウコンで、全体の24.8%。二位のアガリクスの7.7%を引き離し、トップとなっている。
4)ビールだけでなくすべての酒が尿酸値を上げる
焼酎やプリン体ゼロの発泡酒なら大丈夫というのは間違いで、お酒自体が尿酸値を上げている。
上記の4つは、特にこれまでの常識を覆すような事実として、新刊書でさらに詳しく解説している。
増加している非アルコール性脂肪性肝障害
飲酒によるアルコール性脂肪肝とは別に、飲酒をしなくても肝臓に脂肪が蓄積する非アルコール性脂肪性肝障害が増えている。日本では人間ドックを受けた人の20-30%にあたる約2000万人が非アルコール性脂肪性肝障害で、症状が進行して非アルコール性脂肪肝炎になると5-20%が肝硬変へと進行する危険がある。
米国では非アルコール性脂肪性肝炎から肝硬変になった肝移植患者が急増していると尾形先生は警鐘を鳴らしている。
「非アルコール性脂肪性肝疾患の主な原因は糖質の摂りすぎです。スイーツだけでなく、ご飯やパンなども糖質量が多い食品なので、摂取量には注意が必要です」と呼び掛けている。
尾形先生は特に私たちが常識と思っていた間違いをていねいに指摘してくれた。下記の3つは、健康で寿命を全うするためにも、ぜひ知っておきたい。
・甘いものを食べると疲れが取れるというのはウソ
・疲労回復のエナジードリンクで肝臓はかえって疲れてしまう
・WHO(世界保健機構)はカロリーゼロの人工甘味料には減量効果が無いことを明らかにした
さらに新刊書では、甘いものを食べる危険性について、わかりやすく解説している。
スイーツとの付き合い方を見直す
とはいえ、尾形先生は「スイーツを今日からいっさい止めてくださいというつもりはありません。付き合い方を見直す機会にして欲しいのです」と言う。
「大切なのは、自分は甘いものがやめられない人間だ、と思い込まず、少しずつ減らしながら依存度を下げていくこと。そして、楽しむ時には思う存分楽しむというメリハリを付けられれば大丈夫ですよ。
毎日食べていたら三日に一度の休甘日をつくりましょう、あれば食べたくなるのは当然なので、買い置きをしないことも大切です。
スイーツに一日100円を使っているならば、1週間貯めて、週に一度、700円の上質なスイーツにするのも良いでしょう。
甘いものを食べた日には記録に遺せば、甘いものとの距離を知る良い手段になります。そして、実践できたことに対しては、必ず自分をほめることを忘れないでください」とアドバイスしてくれた。
晩酌もご褒美スイーツもない人生は味気ないもの。肝臓に脂肪をためず、一生、お酒と甘いものを楽みたい。尾崎先生の提唱する方法はストレスなく、今から始められることばかりだった。先生の「スマート外来」の患者さんと同じく、今日から3か月で5キロ減量を目指したい。
尾形 哲 先生
長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。1995年神戸大学医学部医学科卒業、 2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。
文/柿川鮎子